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キャラクター・登場人物名の著作物性と出版契約に基づく協議義務(知財高裁令和6年4月23日判決)

小説やゲーム、映画などのコンテンツビジネスにおいて、キャラクターの名前は作品の象徴ともいえる存在です。では、その「キャラクター名」には著作権が認められるのでしょうか。

知財高裁令和6年4月23日判決(令和5年(ネ)第10094号)は、人気ゲーム「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」を題材とした小説の主人公の名前について、著作物性が争われた事案です。本判決は、キャラクター名の著作物性について正面から判断を示した裁判例として注目されます。

今回のコラムでは、本判決の内容を整理し、コンテンツビジネスに携わる企業や創作者の方々にとっての実務上の留意点を解説いたします。

事案の概要

本件の事実関係は、以下のとおりです。

原告(控訴人)は小説家であり、株式会社スクウェア・エニックス(以下「スクウェア・エニックス」)が発売したゲームソフト「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」を題材に、「小説ドラゴンクエストV 天空の花嫁」を執筆しました。

同ゲームでは、主人公の名前はプレイヤーが任意に設定する仕様となっており、あらかじめ定められた名前はありませんでした。原告は、小説を執筆するにあたり、主人公の正式名称を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」、通称を「リュカ」と設定しました(以下、両者を併せて「本件名称」)。なお、「グランバニア」とは、ゲーム中における主人公の祖国の名称です。

その後、東宝株式会社、スクウェア・エニックス及び株式会社白組は、同ゲームを原作とする映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」(令和元年8月公開)の製作委員会を構成し、同映画を制作しました。同映画では、主人公の名称として「リュカ」及び「リュカ・エル・ケル・グランバニア」が使用されましたが、原告の許諾は得ていませんでした。

そこで、原告は、(1)本件名称の使用が著作権侵害に当たる、(2)スクウェア・エニックスには出版契約に基づく協議義務違反がある等と主張し、被告ら(製作委員会構成員、監督等)に対して、連帯して220万円の損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めて訴えを提起しました。

第一審(東京地裁令和5年10月20日判決)は、原告の請求をいずれも棄却しました。原告はこれを不服として控訴し、控訴審においてはスクウェア・エニックスに対する事務管理に基づく請求を追加しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点の内容
争点①本件名称(「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」及び「リュカ」)に著作物性が認められるか
争点②スクウェア・エニックスは、出版契約に基づき、映画作成にあたり原告との間で本件名称の使用について協議する義務に違反したか
争点③映画の作成が、被告らによる原告の協議履行請求権の債権侵害の不法行為に当たるか
争点④損害の有無及び額
争点⑤謝罪広告の必要性
争点⑥スクウェア・エニックスの事務管理に基づく責任の有無(控訴審で追加)

以下では、主要な争点である争点①、争点②及び争点⑥について、裁判所の判断を解説します。

裁判所の判断

争点① 本件名称の著作物性について

裁判所は、本件名称には著作物性が認められないと判断しました。

まず、第一審判決は、著作権法上の著作物(著作権法2条1項1号)の定義に照らし、人物の名称の性質について以下のとおり判示しました。

人物の名称は、当該人物の特定のための符号であり、そうである以上、それは、思想又は感情を創作的に表現したものとは必ずしもいえず、また、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとはいえないとして、著作物ではないと解するのが相当である。当該名称を作成した者が当該名称に対して何らかの意味を付与する意図があったとしても、それが、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものである限りは、その性質から、上記のとおり、それは著作物でないと解される。

その上で、本件名称については以下のとおり判断しました。

本件正式名称は、人物の名称としてはやや長いものの、王族であるという当該人物の出身国名が付されるなどして長くなっているのであって、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものであり、また、本件通称は当該人物の特定のための符号として用いられていることが明らかである。

原告は、小説中の特定の場面で登場人物名が効果的に使用されていることをもって著作物性が認められるべきだと主張しましたが、裁判所は、以下のとおりこの主張を退けました。

小説中の特定の場面において登場人物名が重要な役割を果たし、登場人物名の描写を含む当該場面に関する具体的描写が創作的な表現であったとしても、そのことによって、当該描写における特定の語句自体が著作物となるものではなく、当該特定の語句が他の箇所で使われた場合に著作物が使われたことになるものではない。

裁判所は、この点に関して、最高裁平成9年7月17日判決(いわゆる「ポパイ」事件上告審判決)を参照し、特定の場面における活動等を離れて登場人物名を著作物として保護することは、抽象的な概念を著作物として保護することになり、認められないとしました。

控訴審においても、原告はファンの間で本件名称が広く知られていること等を主張しましたが、裁判所は、それらは「人物の特定のための符号として用いられていることに変わりはなく」、著作物性を認める根拠にならないと判断しました。

争点② 出版契約に基づく協議義務違反について

裁判所は、スクウェア・エニックスに出版契約に基づく協議義務はなかったと判断しました。

この争点を理解するためには、本件出版契約の構造を確認する必要があります。本件出版契約の主要な条項は、以下のとおりです。

条項内容
第1条(著作権の設定)本著作物(本件小説)は、スクウェア・エニックスが保有する原著作物(ゲーム「ドラゴンクエストV」)を題材に原告が創作したものであり、原著作物に含まれるものを除き、それ以外の著作権は原告とスクウェア・エニックスの共有とする
第2条(出版権の設定)スクウェア・エニックスが本著作物を複製・頒布する出版の権利を占有する
第5条(二次的使用)本著作物が映画等に二次的に使用される場合、原告はその処理をスクウェア・エニックスに委任し、スクウェア・エニックスは著作権使用料等の具体的条件について原告と協議の上決定する
第9条(著作者人格権の尊重)スクウェア・エニックスが本著作物を出版する際、内容・表現・書名・題号に変更を加える場合には、あらかじめ原告の承諾を必要とする

原告は、第5条の「二次的に使用される場合」にはキャラクター名の使用も含まれるため、スクウェア・エニックスには映画製作にあたって原告と協議する義務があったと主張しました。

これに対し、裁判所は、本件出版契約の条項全体の構造から第5条の趣旨を解釈し、協議義務を否定しました。第一審判決の判示は、以下のとおりです。

本件出版契約は、本件小説について「本著作物」と述べた上で、それについての複製、頒布(譲渡)という著作権法上の支分権該当行為を行う際の条件を定めるとし、また、第1条で、著作権の帰属等を定めた上で、第2条以下でも、出版権(第2条)や著作者人格権(第9条)など著作権法上の権利について定めている。これらからすると、本件出版契約第5条も、本件小説の著作権を原告と被告スクウェア・エニックスが保有していることを前提として、著作権法の権利関係を前提とした義務等を定めたものといえる。

裁判所は、このように第5条を著作権法上の権利関係を前提とした規定と解釈した上で、本件名称は著作物に当たらない以上、第三者が本件名称のみを利用することは著作権侵害に当たらないため、スクウェア・エニックスが映画製作にあたって本件名称の利用許諾条件について交渉を行う理由も、原告と協議すべき理由もないと判断しました。

また、原告は、クリエイティブ業界においては著作権の有無にかかわらず関連作品の著作者に敬意を示す慣行があると主張しましたが、裁判所は、そのような慣行の存在を認めるに足りる証拠はなく、仮にそれが存在するとしても出版契約に基づく協議義務の発生の根拠にはならないとしました。

争点⑥ 事務管理に基づく責任について

控訴審で追加された事務管理の主張について、裁判所は、以下の理由からこれを退けました。

まず、スクウェア・エニックスの従業員(被控訴人Y1)が原告から口頭で要望を伝えられたことをもって、民法697条所定の「事務の管理を始めた」ものと評価することはできないとしました。さらに、同従業員は原告から聞き取った要望を製作委員会の東宝に伝え、東宝の担当者から原告にメールでの連絡があったことから、仮に事務管理が成立するとしても、その事務は履行されていると判断しました。

結論

以上のとおり、裁判所は、原告の請求をいずれも棄却し、控訴を棄却しました。

コメント

1. キャラクター名は著作物として保護されない

本判決は、小説の登場人物の名前について、それがどれほど独創的であっても、「人物の特定のための符号」として使用されている以上は著作物に該当しないという判断を示しました。19文字に及ぶ正式名称であっても結論は変わりませんでした。

裁判所が著作物性を否定した理由を整理すると、以下のとおりです。

項目裁判所の判断
人物名の法的性質人物の特定のための「符号」である
名称に込められた意味・意図意味を付与する意図があっても、符号として用いられている以上、著作物性は認められない
名称の長さ正式名称がやや長いのは出身国名の付加等によるものであり、符号としての性質は変わらない
場面における効果的使用特定の場面で効果的に使用されていても、そのことをもって名称自体が著作物になるものではない
ファンの間での認知度認知度は著作物性の根拠にならない

この判断は、著作権法上の著作物の定義(著作権法2条1項1号)に照らして、題号やキャッチフレーズ等の短い表現について著作物性が否定される傾向にある従来の裁判例の延長線上に位置づけられます。

2. コンテンツビジネスにおける契約の重要性

本判決から導かれる実務上の示唆として注目されるのは、キャラクター名やタイトルなど著作権法では保護されない可能性がある創作的要素について、契約によって適切に手当てしておくことの重要性です。

本件で裁判所が第5条の協議義務を否定した理由は、同条項の文言だけでなく、契約全体の構造にあります。裁判所の解釈のプロセスを整理すると、以下のとおりです。

解釈の段階裁判所の判断
契約全体の性質本件出版契約は、第1条(著作権帰属)、第2条(出版権)、第9条(著作者人格権)等、全体として著作権法上の権利関係を前提とした契約である
第5条の趣旨第三者が本件小説を利用する際に著作権侵害を避けるための利用許諾について、その条件を原告とスクウェア・エニックスが協議の上決定し、処理をスクウェア・エニックスに委任する規定である
「著作権使用料」の例示協議対象の具体的条件として「著作権使用料」が挙げられていることは、協議・処理の対象が著作権侵害を構成する利用態様を想定していることの裏付けとなる
本件への適用本件名称は著作物に当たらないため、第三者が本件名称のみを利用しても著作権侵害にならず、利用許諾の交渉も不要であるから、協議義務は生じない

このように、裁判所は、第5条の文言を単独で解釈したのではなく、第1条・第2条・第9条といった他の条項との関係から、契約全体が著作権法上の権利関係を前提に設計されていると認定した上で、第5条の射程を画定しました。この点は、契約書の個別の条項だけでなく、契約全体がどのような権利を前提に設計されているかが、条項の解釈に影響を及ぼすことを示しています。

仮に、出版契約において、著作物性の有無にかかわらずキャラクター名の使用について明示的に協議や許諾を要する旨の条項が設けられていれば、異なる結論となった可能性もあります。

3. 企業等に求められる対応

本判決を踏まえると、コンテンツビジネスに関わる企業やクリエイターの方々には、以下の対応が求められます。

第一に、キャラクター名、タイトル、キャッチフレーズなど著作権法では保護が及びにくい要素について、その使用条件を契約書に具体的に規定することです。「二次的使用」等の一般的な文言では、キャラクター名の使用が対象に含まれるか否かが不明確となるおそれがあります。

第二に、既存の出版契約やライセンス契約を見直し、著作物性の有無にかかわらず保護したい要素が適切にカバーされているかを確認することです。本件のように、契約締結後に別のメディア展開が行われるケースでは、当初の契約で想定されていなかった利用形態が生じることがあります。

第三に、原作付きのメディアミックス展開を行う際には、関連する創作者との間で、事前に十分な協議を行うことです。本判決は法的義務としての協議義務を否定しましたが、クリエイターとの良好な関係を維持するための実務的な配慮として、事前の協議やクレジット表示等を行うことは、紛争予防の観点から有益です。

コンテンツに関する契約の設計や既存契約の見直しにあたっては、著作権法の保護範囲と契約によるカバー範囲のギャップを正確に把握した上で対応する必要があります。お悩みの点がございましたら、著作権法に精通した弁護士にご相談されることをお勧めします。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。