はじめに
ウェブサイトのHTMLやプログラムを外部のベンダーに発注して制作した場合、その成果物の著作権は誰に帰属するのでしょうか。また、契約終了後にHTMLの記述を流用された場合、発注者・受注者のいずれも著作権侵害を主張することはできるのでしょうか。これらは、ウェブサイト制作の実務において、契約締結時にも、契約終了後にも、繰り返し問題となる論点です。
今回のコラムでは、HTMLプログラムの著作物性が問題となった知財高裁平成29年3月14日判決(サプリメント会員登録サイトHTML制作事件)を取り上げ、企業のウェブ担当者・法務担当者の方向けに、その判断内容と実務上の留意点を解説します。
本判決は、HTMLプログラムについて、その記述がHTMLの文法・ルールに従ったものであり、変数名等もありふれた表現にすぎないとして、創作的表現を否定し著作物性を認めなかった事例です。本判決を理解することで、ウェブサイトの制作委託契約において、成果物の著作権をめぐる紛争を未然に防ぐための契約上・実務上の手当てを検討する手がかりが得られます。
事案の概要
控訴人X社は、コンピュータシステム及びコンピュータソフトウェアの開発・製造・販売等を業とする会社です。被控訴人Y社は、イチョウの葉の抽出物を原料としたサプリメント(「ナチュラルメディスンギンコ」)を、登録会員向けに販売する会社であり、新規の登録会員が既存の登録会員の下位の会員として増えていく親子ネットワークのシステム(連鎖販売取引)を採用していました。
X社とY社は、平成20年5月1日、Y社の販売事業のための通販管理システムの利用に関する覚書(本件覚書)を取り交わしました。本件覚書の主要な条項は、以下のとおりです。
| 条項 | 内容 |
|---|---|
| 1項 | システムの範囲は別紙仕様書記載の項目およびポイント計算・ボーナス計算等。「一般人が閲覧するホームページは範囲に属さない」 |
| 7項 | システムの所有権はX社(原告)に属するものとする |
| 8項 | システムの利用中に発生するデータはY社(被告)に属するものとする |
| 9項 | 日常のデータ入力や作業等はY社(被告)が行うものとする |
Y社は、平成20年11月頃以降、本件契約に基づきX社が作成した通販管理システム(本件システム)及びこれを機能させるためのプログラム(以下「本件プログラム」といい、そこに含まれるHTMLを「本件HTML」といいます。)を利用していました。
本件HTMLは、Y社の新規会員登録ページ(「新規会員登録」「登録申請時確認テスト」「登録申請時確認テスト解説」「基礎情報登録」「基礎情報登録の確認」の5画面)を構成するもので、X社の従業員Aが作成しました。なお、Y社は、これに先立ち、有限会社ライオンハートに対し、Y社のサイトのリニューアル、デザイン及びシステム制作を委託しており(委託料130万円)、ライオンハートが画面デザイン等を作成のうえ、そのデータをX社に送信し、X社がこれを用いて本件HTMLを作成するという三者構造になっていました。本件HTMLは、Y社との契約が終了する平成25年10月31日まで使用されていました。
以上を踏まえ、本件の経緯を時系列に整理すると、以下のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成20年5月1日 | X社・Y社間で本件覚書を締結 |
| 平成20年11月頃 | Y社が本件システム・本件プログラムの利用を開始 |
| 平成21年10月23日 | 通販管理システム継続利用に関する覚書(本件継続覚書)により本件契約を更新 |
| 平成23年1〜2月頃 | Y社がオンライン会員登録システムの開発を開始/Y社がライオンハートにサイトのリニューアル等を委託 |
| 平成23年2月〜9月頃 | X社の従業員Aが本件HTMLを作成 |
| 平成25年7月31日 | Y社がX社に対し契約更新をしない旨を通告 |
| 平成25年10月31日 | 本件契約が終了 |
| 平成25年11月頃 | Y社が被控訴人HTMLの使用を開始 |
| 平成27年11月頃 | Y社が被控訴人HTMLの使用を停止(同年12月頃にサイトをリニューアル) |
| 平成28年9月29日 | 原審判決(東京地裁、X社の請求棄却) |
| 平成29年3月14日 | 本判決(知財高裁、X社の控訴棄却) |
本件契約終了後の平成25年11月頃から平成27年11月頃まで、Y社は、本件HTMLとほぼ同一の内容を有するHTML(被控訴人HTML)を使用してウェブサイトを運用しました。X社は、これが本件HTMLの複製権を侵害すると主張し、著作権法114条3項に基づく実施料相当額(販売個数1個につき月額300円)及び弁護士費用相当額の合計1896万4000円の損害賠償等を請求しました。これに対し、Y社は、複製を行ったとしても本件契約9項及び著作権法47条の3第1項(現行47条の4)に基づくバックアップ目的での適法な複製であり、また本件HTMLは本件覚書1項にいう「一般人が閲覧するホームページ」に該当しX社の業務範囲外であるなどと反論しました。原審(東京地裁)は、本件HTMLにも本件プログラムにも、X社の従業員が創作的表現を作成したと認めるに足りないとして、X社の請求を棄却しました。X社が、これを不服として控訴したのが本件です。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点番号 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件プログラム(本件HTMLを含む。)の著作物性及び著作者 |
| 争点② | Y社による本件プログラムの複製権侵害の有無 |
| 争点③ | X社の損害額 |
裁判所の判断
知財高裁は、以下のとおり判断し、X社の控訴を棄却しました。
争点① 本件プログラム(本件HTMLを含む。)の著作物性について
裁判所は、まず、プログラムの著作物性について、以下のように一般論を述べました。
プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同条1項10号の2)であり、コンピュータに対する指令の組合せであるから、正確かつ論理的なものでなければならないとともに、著作権法の保護が及ばないプログラム言語、規約及び解法(同法10条3項)の制約を受ける。そうすると、プログラムの作成者の個性は、コンピュータに対する指令をどのように表現するか、指令の表現をどのように組み合わせるか、どのような表現順序とするかなどといったところに表れることとなる。したがって、プログラムの著作物性が認められるためには、指令の表現自体、同表現の組合せ、同表現の順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要するということができる。プログラムの表現に選択の余地がないか、あるいは、選択の幅が著しく狭い場合には、作成者の個性の表れる余地がなくなり、著作物性は認められなくなる。
そのうえで、本件HTMLの作成経緯について、裁判所は、Y社が本件画面の記載内容を決定してこれをX社に伝えるとともに、文字の大きさ、配列及び図柄等の表現形式についてもX社に詳細な指示を与えていたこと、ライオンハート(Y社からウェブサイト制作を受託していた会社)が画面デザイン等を制作してそのデータをX社に送信していたことを認定し、以下のとおり判断しました。
本件HTMLは、被控訴人が決定した内容を、被控訴人が指示した文字の大きさや配列等の形式に従って表現するものであり、そもそも、表現の選択の幅は著しく狭いものということができる。
そして、X社が独自の創作的表現であると主張した8つの記述部分について、それぞれ、以下のとおり検討しました。
| 記述部分 | 主張された創作性の内容 | 裁判所の判断 |
|---|---|---|
| 別紙① | form タグの action 属性等によりphpプログラムと連動させる記述、?ts=%ts% の独自記述 | HTMLの事典・辞典に記載された記述ルールに従ったものであり、URLにクエリ情報を付加することは頻用される手法であって、作成者の個性の表れる余地があるとは考え難い |
| 別紙② | ラジオボタンで「はい」に「1」、「いいえ」に「ア」を送信する記述 | HTMLの辞典に記載された記述ルールに従ったものにすぎず、どの値を変数に指定するかは著作物性の問題ではない |
| 別紙③ | エラー表示のための <!-- IF --> コメント、{{ }} で変数を囲む記述 | コメント付加自体はありふれた手法であり、{{ }} で変数を囲む手法もプログラム表記においてありふれた手法である |
| 別紙④ | 会員番号入力で氏名を表示する onkeyup 等の記述 | 氏名変換処理はJavaScript(ajax_member.js)で行われるものであり、本件HTMLの記述自体に作成者の個性が表れているとはいえない |
| 別紙⑤ | 入力エラー時に先の入力値を再表示する {#変数#} の記述 | 変数名は入力欄の内容を名称化したものにすぎず、{# #} で変数を囲む手法もありふれている |
| 別紙⑥ | 同意チェックで確認ボタンを表示させる onClick 等の記述 | ボタン表示制御はJavaScript(name3.js)の動作であり、HTMLの記述自体は教本・辞典記載のルールに従ったありふれたものである |
| 別紙⑦ | 入力エラー内容を赤文字で表示させる <font color="#FF0000"> 等の記述 | HTMLの辞典記載のルールに従ったものであり、変数名も入力欄の内容を名称化したにすぎない |
| 別紙⑧ | 確認画面に入力値を表示させる {{変数}} の記述 | 変数名は入力欄の内容を名称化したものにすぎない |
裁判所は、これらの検討を踏まえ、以下のとおり結論づけました。
控訴人においてAによる創作的表現である旨を主張している部分についても、作成者の個性が表れているということはできず、よって、著作物性は認められない。
また、本件HTMLが本件phpプログラムと連動することから著作物に該当するとのX社の主張についても、HTMLをphpプログラムやJavaScriptと連動させること自体はありふれたものであり、本件phpプログラムの著作物性については具体的な主張・立証もないとして、これを排斥しました。
なお、争点②及び争点③については、本件プログラムの著作物性が認められない以上、判断するまでもないとされ、控訴は棄却されました。
コメント
本判決は、ウェブサイトのHTMLについて、その著作物性を一般的に否定したものではなく、本件HTMLの具体的な記述に即して、創作的表現が表れているかを逐一検討し、これを否定した事例判断です。もっとも、本判決の射程を踏まえると、企業のウェブ担当者・法務担当者の方には、以下の対応が考えられます。
(1)権利帰属条項の限界と契約終了後の利用関係の明確化
ウェブサイトの制作委託契約においては、HTMLその他の成果物の著作物性が否定される可能性があることを前提に、契約終了後の利用関係を契約条項であらかじめ明確にしておくことが望ましいと考えられます。本件覚書には、「システムの所有権は原告に属するものとする」(7項)との条項が置かれていました。
しかし、民法上、所有権の対象は有体物に限られます(民法85条、206条)。プログラムやHTMLのような無体物は、本来、民法上の所有権の対象とはなりません。したがって、契約上「システムの所有権はベンダーに属する」旨を定めたとしても、それが意図する権利関係(著作権の帰属、独占的な利用権の設定など)が条項上明確でない場合、契約終了後の成果物の利用関係を規律する根拠としては機能しないことになります。
実際、本判決は、本件HTMLその他本件プログラムの著作物性そのものを否定して請求を棄却しており、著作物性が認められない以上、著作権による保護は及びません。本件覚書7項のような「所有権はベンダーに帰属する」旨の規定があったとしても、著作権侵害を理由とする請求は成立しないことになります。発注者・受注者のいずれの立場からも、権利帰属条項を置くだけでなく、契約終了後の成果物の利用範囲、複製の可否、流用の制限等について、債権的な合意としても具体的に定めておくことが有益といえます。
(2)三者構造における役割分担と権利帰属の整理
本件のように、発注者・システム開発会社・ウェブ制作会社の三者がそれぞれ役割を分担して関与する開発体制は、ウェブサイト制作の実務では珍しくありません。本件覚書1項は「一般人が閲覧するホームページは範囲に属さない」と定めていましたが、会員登録ページがこれに該当するか否かについては当事者間の主張が対立しました。三者構造のもとでは、各社の作業範囲、成果物の権利帰属、他社の成果物との連携部分の取扱い等について、関係者間の契約・覚書で齟齬なく整理しておくことが望ましいといえます。
(3)受注者における創作的表現の具体的な主張・立証
受注者の立場からは、創作的表現を主張するためには、具体的にどの表現にどのような選択の幅があり、その中で作成者の個性が表れているのかを、HTMLの教本・辞典等に記載された一般的な記述ルールとの対比において、具体的に主張・立証する必要があることが確認されました。本判決は、X社が「独自の記述」「独自の工夫」と主張した部分について、その大半がHTMLの事典・辞典に記載された記述ルールに従ったものや、機能をありのままに記述したものにすぎないと判断しています。受注者としては、契約締結時から成果物の独自性をどのように位置付けるか、検討しておくことが有益です。
(4)発注者による指示・授受の記録の保存
発注者の立場からは、HTMLの記述内容や画面のデザイン・表現形式について発注者側が詳細な指示を与えていた事実は、受注者側に著作権が帰属することを否定する方向に働く要素となり得ることが示されました。発注の経緯を裏付けるメール、仕様書、デザインデータの授受の記録等を保存しておくことは、契約終了後の紛争に備えるうえで有意義といえます。
(5)契約終了後のシステム・データの取扱いとバックアップ抗弁
契約終了後のシステム・データの取扱いについては、本件でY社が主張したように、契約上のバックアップ条項や著作権法47条の4(本件当時は47条の3第1項)を根拠とする抗弁が問題となり得ます。本判決は、著作物性の不存在を理由に請求を棄却したため、争点②(複製権侵害の有無)については判断していませんが、契約終了に伴うシステムの引継ぎ、バックアップデータの取扱い、データ移行の方法等については、契約段階から想定して条項を整備しておくことが望ましいといえます。
おわりに
ウェブサイトの制作・運用にまつわる著作権の問題は、契約条項の作り込み、成果物の権利帰属の整理、契約終了後の利用関係の処理など、多くの実務上の論点を含んでいます。これらの論点については、個別の事案に応じた専門的な検討が必要であり、弁護士に相談することが有益です。
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