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アーティスト専属契約における報酬の算定方法と支払時期(東京地裁平成30年8月30日判決)

キーワード:アーティスト専属契約/マネジメント契約/報酬の分配/経費控除/附属合意書/月払い/精算方式/非債弁済/エンターテイメント法/芸能マネジメント/K-POP/未払報酬請求

はじめに

アーティストと芸能事務所との間で締結される専属契約(マネジメント契約)においては、報酬の算定方法、経費の控除の可否、分配比率、支払時期等について、契約書の文言や附属合意書の内容、実際の運用実態から当事者の合意内容が解釈されます。契約書の記載が不明確であったり、本体の契約書と附属合意書とで規定の表現に差異があったりすると、後日、報酬をめぐる紛争が生じることがあります。

今回のコラムで紹介する東京地裁平成30年8月30日判決は、韓国で結成されたアーティストグループ「5tion(オーション)」のメンバー4名と、同グループのマネジメント業務等を行っていた日本の事業者との間で、専属契約に基づく報酬の算定方法及び支払時期をめぐって争われた事案です。

上記東京地裁判決は、①専属契約書と附属合意書の関係と収益・経費の解釈、②附属合意書上の分配比率に関する事後的な変更合意の認定、③報酬の支払時期についての黙示の合意(月払い合意)の認定など、エンターテイメント業界における契約実務の論点について判断を示しており、参考になります。

事案の概要

本件は、韓国及び日本で「5tion(オーション)」というグループ名でアーティスト活動をしている原告ら4名が、エンターテイメント事業を行う被告(ライブ会場「SHOW BOX」の運営会社)との間で平成25年8月に締結した専属契約及び附属合意(本件契約)に基づき、未払報酬を請求した事案です。

被告は、反訴として、原告らに支払った報酬が過払いであるとして、不当利得返還を請求しました。

本件契約における報酬は、以下の3種類に区分されていました。

報酬区分対象となる収益分配比率
報酬①SHOW BOXでの公演の収益被告70%、5tion 30%
報酬②SHOW BOXでの写真撮影・物品販売等の収益被告20〜30%、5tion 70〜80%(メンバーごとに異なる定め)
報酬③SHOW BOX以外の対外活動の収益経費控除後、アーティスト50%、被告30〜50%、K-Story 20%等

専属契約書10条3項には、収益分配の対象となる「収益」とは、「5tionの芸能活動で発生したすべての収入から、5tionの公式的な芸能活動の現場で直接的に必要とされる費用と広告手数料などを支出した費用を控除した金額をいう」と規定されていました。これに対し、附属合意書には、報酬③についてのみ「すべての経費を除外した収益」という明文の規定が置かれ、報酬①・②については単に「収益の分配」とのみ規定されていました。

本件契約は平成27年8月5日の経過をもって終了しましたが、原告らは、報酬が未払いであるとして本訴を提起し、被告は、過払いであるとして反訴を提起しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点の内容
争点①報酬①及び報酬②の算定において収益から経費を控除すべきか
争点②報酬②における原告らへの分配の割合
争点③債務不履行(平成27年3月の被告による公演開催義務違反)の有無
争点④報酬①ないし報酬③における売上、経費及び既払金の額
争点⑤報酬①ないし報酬③の支払時期
争点⑥(過払報酬がある場合)被告による非債弁済(民法705条)の成否
争点⑦(上記①ないし⑤を踏まえた)未払報酬額ないし過払報酬額

裁判所の判断

裁判所は、原告らの請求の一部を認容し、被告の反訴請求を棄却しました。具体的には、原告Aについて173万3392円、原告B及び原告Dについて各241万6980円、原告Cについて197万7171円の支払を命じ、その余の本訴請求及び反訴請求を棄却しました。

争点① 報酬①及び報酬②の算定における経費の控除について

裁判所は、報酬①及び報酬②の算定においても、収益から経費を控除すべきであると判断しました。

原告らは、附属合意書において、報酬③では「経費を除外した」収益を分配するとの明文があるのに対し、報酬①・②ではそのような明文がないことを根拠に、報酬①・②については経費を控除すべきではないと主張しましたが、裁判所は、以下のとおり判示し、原告らの主張を採用しませんでした。

専属契約書では、収益分配の対象となる「収益」を収入から費用を差し引いた金額として一義的に明確に規定しているところ、附属合意書は、あくまで専属契約書の内容を補充したり、専属契約書で規定されていない事項を規定するためのものにすぎないのであるから、このような専属契約書及び附属合意書の規定の仕方からすれば、附属合意書1項ないし3項における分配の対象となる「収益」は、専属契約書10条3項に定める「費用を差し引いた金額」と解するのが自然であり、これに反して、附属合意書1項及び2項において、SHOW BOXでの公演による収益及びSHOW BOXでの写真撮影等による収益について、専属契約書における定義とは異なる定めをしたものとうかがわせる事情は特に認められない。

さらに、裁判所は、以下の点も考慮しました。

番号考慮事実
1分配の対象となる金額の算出にあたっては、収益から経費を控除するのが一般的であり、当事者の合理的意思解釈にも合致すること
2本件の報酬①及び報酬②において、収益から経費を控除しないものと殊更に合意すべき事情は特に認められないこと
3SHOW BOXでの公演は、専属契約書4条及び附属合意書8項からすると、原告らの主たる活動と認められ、専属契約書10条において本来予定されていない芸能活動とはいえないこと
4実際の明細書では、報酬①については経費を控除していなかったものの分配比率が附属合意書の定めと異なっており、報酬②については経費を控除していたものであり、いずれも実際の算定は附属合意書の定めとは異なっていたこと

争点② 報酬②における原告らへの分配の割合について

裁判所は、報酬②における原告らへの分配の割合は70%であると判断しました。

原告A及び原告Bと被告との間の附属合意書2項には原告らの分配割合が80%と規定されていた一方、原告C及び原告Dと被告との間の附属合意書2項には原告らの分配割合が70%と規定されていました。裁判所は、以下のとおり判示し、原告C及び原告Dの契約締結時点において、原告A・Bの分配割合についても70%に変更する合意がなされたと認定しました。

原告Cおよび原告Dと被告との間の附属合意書が時間的に後であること、原告A、原告B及び原告Eが原告C及び原告Dに附属合意書の内容を説明し、同人らはその内容を把握した上で附属合意書に署名したことが認められ、これらの事実からすれば、原告ら4名は、原告C及び原告Dと被告との附属合意書2項においては、分配割合を被告が30%、5tionが70%とされていることについて理解していたものと認められる。そうすると、原告C及び原告Dと被告との間では、附属合意書2項の記載どおりの合意がされたものと明らかに認められるし、また、5tionのメンバー内で被告との分配割合が異なるのは不合理であるから、原告C及び原告Dと被告との間で附属合意書が締結された時点で、原告A及び原告Bと被告との附属合意書2項の分配割合も、被告が30%、5tionが70%とすることに変更する合意がなされたものと認めるのが相当である。

争点③ 平成27年3月の公演開催義務違反の有無について

裁判所は、附属合意書8項の「5tionは、SHOW BOXでの公演は義務的に1か月に10回から12回以上を公演するものとする」との規定は、原告ら(5tion)の義務を定めたものであり、被告の義務ではないとして、被告の公演開催義務違反を否定しました。

附属合意書8項は、「5tionは、SHOW BOXでの公演は義務的に1か月に10回から12回以上を公演するものとする。」旨規定していることが認められ、SHOW BOXでの公演を義務的に行うこととされている主体は、原告らであり、被告とはされていない。

原告らは、同条項は被告が専属契約におけるマネジメント義務の一内容として公演機会を保証していたものと解釈すべきであると主張しましたが、裁判所は、他の条項にも被告が公演開催を保証するような規定は存在しないとして、この主張を退けました。

争点④ 報酬①ないし報酬③における売上、経費及び既払金の額について

裁判所は、被告が月々作成して原告らに交付していた明細書(売上・既払金)と、被告の総勘定元帳(経費)とを比較検討した上で、売上及び既払金については明細書の記載を、経費については総勘定元帳の記載をそれぞれ信用できるものと認定しました。

争点⑤ 報酬①ないし報酬③の支払時期について

裁判所は、原告らと被告との間で、報酬の支払時期について概ね月ごとに支払う旨の合意があったと認定しました。

被告は、韓国のアーティスト専属契約の一般的事情(歩合制・精算方式)を主張しましたが、裁判所は、以下の事情を考慮して、これを採用しませんでした。

番号考慮事実
1専属契約書及び附属合意書には、報酬の支払時期について何ら定めがないこと
2被告は、原告らがSHOW BOXでのライブ活動を開始し収益を上げるようになった平成25年11月以降、概ね毎月、原告らに対して報酬を支払い、その内訳を記載した明細書を交付していたこと
3明細書には当該明細書の対象とする期間が明示されるとともに、「6月収益精算書」「7月分収益精算表」などと記載されていたこと
4月々の支払が仮払金であり、後に改めて精算される旨が被告から原告らに伝えられていた事実は認められないこと
5支払うべき報酬がなかった月にも明細書が交付されていたこと
6平成26年10月以降に交付された明細書には「受領額」欄のほか「仮払金」欄が設けられており、算定された報酬は「受領額」欄に記載されていたこと
75tionは本件契約締結の3か月後の11月には500席のイイノホールでコンサートを開くなど安定してライブ活動を行っており、被告が主張する精算方式が合理的とされる典型例(新人ないし新人同然の場合)とは大きく異なる状況にあったこと

裁判所は、以下のとおり判示し、月ごとの支払合意を認定しました。

これらの月々の支払が仮払金であり、後に改めて精算されるものである旨などが被告から原告らに伝えられていたといった事実は認められない(この点について、明細書を交付する度に仮払金であることを原告らに伝えていた旨の被告代表者の供述は、何らの裏付けがなく、上記の明細書の記載内容や原告D本人の供述とも矛盾するため信用できない。)。そうすると、原告らと被告との間では、報酬の支払時期について、概ね月ごとに支払う旨の合意があったものと認めるのが相当である。

争点⑥及び争点⑦ 非債弁済の成否及び未払報酬額・過払報酬額について

裁判所は、争点⑦について、報酬①では過払報酬額が253万0473円、報酬②では未払報酬額が451万1639円、報酬③では未払報酬額が131万5431円と認定し、合計で原告ら一人当たり329万6597円の未払報酬額があると判断しました。その上で、原告らがそれぞれ個別に受領した金員を控除し、各原告の未払報酬額を認定しました。

なお、争点⑥(被告による非債弁済の成否)については、裁判所が未払報酬額があると認定したことから、判断することなく反訴請求は棄却されています。

コメント

1 本判決の実務上の意義

本判決には、以下のような実務上の意義があると考えられます。

(1)専属契約書と附属合意書の関係に関する解釈指針

本判決は、専属契約書本体と附属合意書との関係について、附属合意書は「あくまで専属契約書の内容を補充したり、専属契約書で規定されていない事項を規定するためのもの」であり、本体の定義規定を変更する意思がうかがわれない限り、本体の定義規定が附属合意書にも適用されると判断しました。

契約書と附属合意書で用語の定義が一義的に明確に規定されている場合には、附属合意書において同じ用語が別の意味で用いられるには、そのことを明示する必要があることを示唆しています。

(2)分配比率に関する事後的な変更合意の認定

本判決は、異なる時期に締結された複数の附属合意書において分配比率の記載が異なっていた事案について、後の附属合意書の内容が既存の附属合意書の内容をも事後的に変更するものと認定しました。

グループメンバーの入替えが生じるたびに契約書が追加・更新されるエンターテイメント業界において、既存メンバーとの契約内容がどのように変更されるかは重要な論点であり、本判決は、メンバー間で分配比率が異なることの不合理性を重視した判断を示しています。

(3)報酬の支払時期に関する黙示の合意の認定

本判決は、契約書に報酬の支払時期について明文の定めがない事案において、実際の運用実態(月々の報酬支払、明細書の交付、「収益精算書」との記載、「受領額」欄と「仮払金」欄の区別等)から、月ごとに支払う旨の黙示の合意があったと認定しました。

報酬支払時期について契約書に明文の定めがなくても、実際の運用が継続的に行われている場合には、当該運用が合意内容として認定される可能性があることを示した点で参考になります。

(4)契約運用の実態を踏まえた契約解釈

本判決は、「仮払金」か「確定的支払」かという争点について、被告代表者の供述のみに依拠するのではなく、明細書の記載内容、客観的な運用事実、原告本人の供述との整合性等を総合的に検討して判断しました。契約の解釈にあたっては、当事者の主張だけでなく、実際の書類の記載や運用の実態が判断の根拠となることを示しています。

2 企業等に求められる対応

本判決を踏まえると、アーティストのマネジメント業務やエンターテイメント事業を行う事業者においては、以下の点に留意する必要があります。

番号対応事項具体的内容
1契約書と附属合意書の用語・定義の統一専属契約書と附属合意書を併用する場合には、本体の契約書で用語の定義を明確にした上で、附属合意書において同じ用語を別の意味で用いる場合には、そのことを明示的に規定する必要がある。報酬の算定基礎となる「収益」や「経費」の定義について、本体と附属書の間で齟齬が生じないよう、条項の整合性を慎重に検証することが求められる
2分配比率・算定方法の明確化契約締結時に、報酬の算定方法(経費控除の有無、控除対象となる経費の範囲等)、分配比率、支払時期等を明確に規定しておくことが求められる。特に、複数のアーティストが所属するグループについては、メンバー間で分配比率に差異を設ける場合、その合理的な理由を契約書上で明記しておくことが、後日の紛争を回避する上で有用である
3報酬支払時期の明記と運用の整合性契約書に報酬の支払時期を明記することが基本である。本判決は、明文の定めがなくても、実際の運用実態から黙示の合意が認定される可能性を示しており、契約書の明文の定めと実際の運用が乖離すると、事後的に当事者の意図しない合意内容として認定されるリスクがある。契約書の定めと運用が一致するよう、社内の運用ルールを整備しておくことが求められる
4月々の支払が「仮払」であることを主張する場合の備え月々の支払を「仮払」として取り扱いたい場合には、支払時に「仮払金」であることを明示する書面を交付する、明細書に「仮払」欄を設けて記載する、契約書に「仮払」に関する条項を明記する等の対応が必要である。本判決では、明細書に「仮払金」と明示されていなかったこと、「受領額」と「仮払金」が区別して記載されていたこと等から、確定的支払であったと認定されている
5明細書・総勘定元帳等の経理書類の適切な作成本判決では、売上・既払金の認定にあたって被告が作成・交付した明細書が重視され、経費の認定にあたって被告の総勘定元帳が重視された。アーティストとの間で報酬をめぐる紛争が生じた場合、経理書類の記載内容が事実認定の基礎となるため、日頃から正確で詳細な経理書類を作成し、保管しておくことが重要である

おわりに

アーティストとの専属契約、マネジメント契約、附属合意書の作成・運用、報酬の算定方法、支払時期、契約終了時の精算等に関する実務上の問題は、エンターテイメント業界特有の論点が多く、事案ごとに個別の検討が必要となります。特に、海外アーティストとの契約や、グループ活動におけるメンバーの入替え等が絡む場合には、契約関係が複雑化することも多く、紛争リスクが高まります。

こうした問題については、エンターテイメント法務・契約実務に精通した弁護士に早期に相談することが、適切な契約設計や紛争予防、さらには紛争発生時の対応において有益です。

当事務所では、エンターテイメント・芸能マネジメント・音楽・ライブエンターテイメント業界について、専属契約・マネジメント契約の作成・レビュー、契約交渉、契約終了時の精算対応、報酬・ロイヤルティ紛争対応、訴訟対応まで幅広くサポートを提供しております。

「アーティストとの契約書の内容に不安がある」「所属アーティストとの間で報酬をめぐるトラブルが生じている」「契約終了時の精算方法をどのように設計すべきか分からない」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。


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