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ライセンス先が無断で第三者に利用許諾した場合の契約解除の可否(大阪地裁平成28年2月8日判決)

はじめに

教材、ソフトウェア、キャラクター、コンテンツなど、著作物や商標のライセンス(利用許諾)を軸とするビジネスでは、ライセンスを受けた側(ライセンシー)が、許諾の範囲を超えて利用したり、無断で第三者に利用させたりするトラブルが起こり得ます。特に、長年の付き合いの中で契約書が整備されないまま取引が続いている場合、逸脱行為が起きたときに、契約を解除できるのか、解除後の利用にどう対応するのかが問題となります。

今回のコラムでは、算数・数学の学習教材のライセンス契約について、ライセンシーが無断で第三者に教材の分冊発行・販売を許諾していたことが継続的契約の信頼関係を著しく破壊するものであるとして無催告解除が認められ、解除後も複製販売を続けたライセンシー側に対し、差止め、教材の廃棄及び約830万円の損害賠償が命じられた裁判例(大阪地裁平成28年2月8日判決)をご紹介いたします。

本判決は、①ライセンシーが負う信義則上の権利保護義務と無催告解除の考え方、②解除から長期間が経過した後の権利行使と権利失効の原則、③著作権法114条2項の「利益」(限界利益)の算定と当事者の立証態度の影響という、ライセンスビジネスの紛争で問題となる論点を1つの事件の中で扱っており、コンテンツや教材を扱う企業のご担当者にとって有益な裁判例です。

事案の概要

X1は、算数・数学のプリント教材(以下「本件教材」といいます。)を開発・作成し、その著作権を有する会社であり、X2は、X1の代表者で、教材に使用する商標の商標権者です。Yは、X1らと取引をしていた個人事業者(判決文では「P2」と表記されています。以下「P2」といいます。)の事業を包括的に承継した会社です。

X1とP2は、昭和62年頃、学習塾向けに本件教材を販売する継続的契約を締結し、さらに、P2が本件教材を複製し、商標に類似した標章を付して一般家庭向けに販売することを許諾する契約(以下「本件許諾契約」といいます。)が成立していました。P2は、販売した教材1枚につき2円の許諾料をX1に支払っていました。いずれの契約についても、詳細な契約書は作成されていませんでした。

ところが、P2は、X1らに無断で、学習塾を経営する第三者との間で、本件教材の分冊発行権・販売権を設定し、その対価をP2自身が受け取る内容の覚書を締結し、この第三者は、分冊教材を国内外の学習塾に売り込んでいました。これを知ったX2は、平成11年9月8日、P2に対し、内容証明郵便で、信頼関係が破壊されたとして、教材のセット販売や「自宅学習会」という形での普及販売の禁止等を通知しました。

しかし、P2及びYは、その後も本件教材を複製した教材の販売をインターネット上で継続したため、X1らは、著作権侵害・商標権侵害を理由に、販売等の差止め、教材の廃棄、ホームページ上の標章の削除と、平成16年8月1日から提訴日(平成26年7月8日)までの損害賠償合計831万円を求めて提訴しました。

なお、以下の判決文の引用部分では、X1は「原告会社」、X2は「原告P1」、Yは「被告」と表記されています。

本件の争点

本件の主な争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①ライセンシーによる無断の第三者への許諾を理由として、本件許諾契約等の解除が認められるか
争点②解除から長期間が経過した後の権利行使は、権利失効の原則により許されないか
争点③著作権侵害・商標権侵害によりX1らに生じた損害の額をどのように算定するか

裁判所の判断

争点① 無断の第三者への許諾を理由とする解除の成否について

Y側は、問題の覚書は、X2が自ら文案を作成してP2らに記名押印させたものであると主張しました。しかし、裁判所は、以下の点を指摘して、この主張を不自然かつ不合理であるとして退け、P2が自らの判断で第三者に分冊化を許諾し、自己の収益を得ようとしたと認定しました。

観点裁判所の指摘
覚書の当事者権利者側が問題視していたのであれば、権利者と第三者との間で覚書を作成するのが通常であるのに、覚書はP2と第三者との間で作成されている
覚書の内容分冊化を「よりよき活用を促進する試み」として第三者による分冊販売を許諾し、その使用料をP2のみが受け取る内容であり、権利者に何の利益ももたらさない
P2の説明P2が覚書に押印した理由について、合理的な説明がない
通知への対応覚書の作成を問題視する通知を受けた際、覚書はX2の指示で作成した旨の反論をした事実が認められない

その上で、裁判所は、次のとおり判示し、無催告での解除原因を認めました。

「原告学習材の本件塾向け契約及び本件許諾契約では、その継続的契約としての性質上、P2は、原告らに対し、原告学習材に化体された原告らの著作権及び商標権を保護すべき信義則上の義務を負うとともに、その保持は、契約の基礎となる信頼関係の中核をなすものと解するべきところ、上記のP2の行為は、原告商標及び原告学習材の使用・改変を無断で許諾して自己の収益を得ようとするものであり、この信義則上の義務に違反するとともに、継続的契約の基礎にある信頼関係を著しく破壊するものというべきであって、それらの契約の無催告による解除原因となると解するのが相当である。」

また、裁判所は、平成11年9月8日の内容証明郵便に「解除」という文言が明示されていなくても、教材のセット販売や「自宅学習会」という形での普及販売を禁止する旨の通知内容から、契約を解除する意思表示があったと認め、同日頃に各契約が解除されたと判断しました。

争点② 権利失効の原則の適用の有無について

Yは、解除後も長期間にわたりX1らが権利行使をしなかったことから、本件請求は権利失効の原則により許されないと主張しました。X1らは、平成16年の交渉決裂後、平成25年の通知書送付まで9年間、請求をしていませんでした。

しかし、裁判所は、以下の事情を挙げて、権利失効の原則の適用を否定しました。

観点考慮された事情
交渉の経緯X1らは、解除後の平成16年に、P2の著作権・商標権侵害行為があったことを前提として、解決に向けた交渉をしていた
交渉決裂時の対応交渉決裂時に、X1らがP2の言い分を認めるとか、今後何らの請求もしないといった意向を示した事情は認められない

判示部分は、次のとおりです。

「本件においては、P2及び被告が原告らから本件請求を受けることはないと正当な信頼を有するに至る特段の事情は認められない。」

争点③ 損害額の算定について

裁判所は、著作権法114条2項(侵害者の利益額を損害額と推定する規定)の「利益」について、次のとおり判示しました。

「著作権法114条2項にいう「利益」とは、侵害による売上高から、その販売に追加的に要した費用を控除した額(限界利益)と解するのが相当であり、侵害品の売上げによって追加的に要しなかった経費は控除すべきではない。」

その上で、裁判所は、損害額を以下のように算定しました。

項目裁判所の判断
売上高の認定Y自身が「約60名の会員に月額平均約2000円程度で継続販売している」と自認していたことから、月額12万円(年間144万円)の売上げがあったと推認
Y提出の集計表訴訟のために改めて作成されたもので、裏付け資料の開示がなく、X1らの開示請求にも応じなかったことから、信用できない
控除する経費争いのない複写権使用料5%・紙代10%・発送通信費15%のみを控除し、利益率は70%。複写機リース料等は、追加的に必要となった経費であることの裏付けがなく控除しない
商標権者X2の損害X2自身は競合する事業活動を行っていないため、商標法38条2項の適用の前提を欠き、差止請求のための弁護士費用30万円のみを損害と認定

以上により、裁判所は、著作権侵害によるYの利益を約1001万円と算定し、弁護士費用と合わせるとX1の損害は請求額を上回るとした上で、請求の上限である831万円を按分して、X1に約808万円、X2に約22万円の賠償を命じ、あわせて、教材の複製・販売等の差止め、教材の廃棄及びホームページ上の標章の削除を命じました。

コメント

本判決は、長年の取引経緯に即した事例判断ですが、ライセンスビジネスの契約管理と紛争対応について、以下の点で実務上の示唆に富むものといえます。

1 ライセンシーの無断の再許諾は、無催告解除の原因になること

本判決は、継続的なライセンス契約においては、ライセンシーが、ライセンサーの著作権・商標権を保護すべき信義則上の義務を負い、その保持が信頼関係の中核をなすとした上で、無断で第三者に利用を許諾して自己の収益を得る行為は、催告なしに契約を解除できる原因になると判断しました。詳細な契約書がなく、再許諾禁止の明文条項がない事案であっても、この結論が導かれた点に特徴があります。もっとも、契約書で再許諾の禁止、解除事由、解除後の利用停止義務を明記しておけば、解除の成否をめぐる争い自体を避けることができます。本件の紛争が、覚書の発覚から判決まで20年近くを要したことは、契約書を整備しないことのコストを示しているとも言えます。

2 「解除」と書いていない通知でも、解除の意思表示と認定され得ること

本判決は、「解除」という文言のない内容証明郵便について、販売の禁止を求める内容から解除の意思表示を認定しました。通知の記載が不明確でも救済された事案ですが、解除の対象となる契約と解除の意思を明示しなかったことが、争点化の一因になったことも否定できません。ライセンス違反を理由に契約を終了させる場合には、対象契約、解除原因、解除の意思を明確に記載した通知を送付することが、後日の紛争を防ぐ基本となります。

3 長期間の不行使でも権利は失効しないが、リスクのある状態であること

本判決は、9年間請求をしていなかった事案で、それ以前の交渉の経緯や、交渉決裂時に請求を放棄する意向を示していなかったことから、権利失効の原則の適用を否定しました。権利失効が認められるハードルは高いものの、これは、侵害を長期間放置してよいという意味ではありません。時間の経過は、証拠の散逸や損害立証の困難(本件でも、過去の許諾料からの逆算による損害主張は否定されました。)を招きます。侵害を認識した場合には、権利行使の意思を示す通知や交渉の記録を残し、適時に対応することが重要です。

4 損害立証では、当事者の主張・立証態度がそのまま結果に影響すること

本判決では、Yが訴訟の中で自認した会員数・単価が売上認定の基礎とされる一方、Yが訴訟用に作成した集計表は、裏付け資料の開示がなく、開示請求にも応じなかったことから信用されませんでした。また、経費の控除も、裏付けのない費目は認められず、利益率70%という侵害者に厳しい認定につながっています。侵害者側にとっては、帳簿・原資料に基づく誠実な開示をしなければ、かえって不利な認定を受けることを示すものです。他方、権利者側の視点では、商標権者である代表者個人が自ら事業を行っていなかったため、商標法38条2項による損害額の推定が使えなかった点も参考になります。権利を個人と会社のどちらに帰属させ、どのように利用させるかという設計は、いざという時の損害賠償請求の成否にも影響します。

おわりに

本判決が扱ったライセンシーの逸脱行為への対応は、教材に限らず、コンテンツ、ソフトウェア、ブランドなどのライセンスビジネスを行うすべての企業に共通する課題です。契約書の整備状況、解除通知の内容、その後の交渉経緯といった一つひとつの対応が、長期にわたる紛争の帰趨を左右するため、逸脱行為の兆候を把握した早い段階で、対応方針について専門的な検討を行うことが重要です。

当事務所は、著作権・商標権をはじめとする知的財産権に関するライセンス契約の作成・レビュー、ライセンス違反への対応、侵害訴訟のご相談・ご依頼をお受けしております。ライセンス管理の体制整備や、取引先の逸脱行為への対応をご検討中の企業のご担当者は、お気軽にご相談ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。