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著作権法の新たな動向について(文化庁WG傍聴記)

著作権法に、新たな動きがみられます

2015年10月7日、文化庁にて、「法制・基本問題小委員会」の議事が開催されました。

小委員会の名は、「新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム」。

デジタル・ネットワークの発達に対応した法制度を整備するため、新しく設置されたチームです。

 

このチームの議事は、来年にむけて、著作権法まわりの重要な動きの1つになると思われますので、本コラムでも継続的にフォローしていきたいと思います。まずは当事務所のメンバーが、第1回議事を傍聴してきましたので、概要についてご報告いたします。

以下では、

  • 1 設置の経緯
  • 2 チームメンバー
  • 3 第1回の議事内容
  • 4 今後の展望

の順でお伝えします。

 


1.設置の経緯は?

 

最初に、このワーキングチームの位置づけについて確認しておきましょう。

近年、デジタル・ネットワークの発達に関連して、著作権法の改正が検討されてきました。

 

○ たとえば平成21年改正では、検索エンジンサービスを行うための複製等に関する権利制限規定の規定(著作権法第47条の6)や、コンピュータ等を用いた情報解析のために行われる複製等の規定(47条の7)が設けられました。

○ また、平成24年改正では、いわゆる「写り込み」(付随対象著作物の利用)等に係る規定(30条の2)や、情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用に関する規定(47条の9)が設けられました。

○ さらに、平成26年から平成27年2月にかけては、「クラウドサービス等と著作権」に関する検討が行われました。こちらは法改正には至りませんでしたが、最終報告書では、権利の集中管理による契約の促進が提言されています。

○ そして、平成27年6月には、「知的財産推進計画2015が決定されました。そこでは検討課題として、「インターネット時代の新規ビジネスの創出人工知能3Dプリンティングの出現などの技術的・社会的変化やニーズを踏まえ、知財の権利保護と活用促進のバランスや国際的な動向を考慮しつつ、柔軟性の高い権利制限規定や円滑なライセンシング体制など新しい時代に対応した制度等の在り方について検討する」ことが挙げられていました。

 

本ワーキングチームは、このような近年の法改正の動向や、「知的財産推進計画2015」の内容をふまえて設置されたものです。

 


2.チームメンバーは?

 

今回のメンバーは、計11名。全員が法律関係者です。

その内訳は、次のとおりです。

 

○ 知的財産権法分野の学者5名(上野達弘氏、大渕哲也氏、奥邨弘司氏、土肥一史氏、前田健氏)、

○ 法務省2名(刑事局局付の煙山明氏、民事局局付の立川英樹氏)、

○ 裁判官1名(長谷川浩二氏)、

○ 弁護士3名(池村聡氏、末吉亘氏、龍村全氏)、

 

なお、文化庁サイドからも、6名が出席されていました(次長、長官官房審議官、著作権課長、著作権課長補佐、著作権課著作物流通推進室長、著作権調査官)。

今後はさらに、議題ごとに応じて、事業者や権利者へのヒアリングを予定しているようです。

 


3.第1回の議事内容は?

 

さて、今回の議事で特筆すべき点は、文化庁が事前にひろく「アンケート」のようなことを行い、その結果をもとにして議論が進められたことです。

そもそも、これまでの著作権法改正の議事においては、「ともすれば抽象論におちいることもあった」との指摘があります。実際、今回配布された資料の中も、一部の委員から「ファクツ(facts)なりニーズをきちんと把握していかない限りは、意味のある議論が始まらない」との厳しいコメントがみられました。

 

そこで文化庁では、平成27年7月、「著作物等の利用円滑化のためのニーズの募集について」と題したアンケート企画を行い(実施期間:20日間)、その結果が今回まとめて公表されました。とても画期的な試みです。

資料によると、ざっと200を超える「ニーズ」の応募があったようで、個人の方はもちろん、JEITA、富士通、ヤフー、日本図書館協会、MIAU、コモンスフィアなどの事業者からも、多くの意見が寄せられています。

 

この「募集」に対して提出された「ニーズ」の資料はとても重要です。

まず、ここで挙げられたニーズ自体が、現在の著作権法の課題(いま、現実に事業者やユーザーが困っていること)を数多くあぶり出しています。

また、ニーズを詳しく見ると、さまざまな事業者が検討中の新しいビジネスモデルが、そのまま書かれており、その点でも熟読に値しますね。

 

「ニーズ」の内容としては、ざっくり分類すると、以下のパターンのものが多くみられます。

 

○ 新しいサービスをはじめようと思っても、著作権法の解釈上、侵害にあたる可能性があり、萎縮効果がはたらく

○ 権利処理団体がないため、著作物を利用しようと思っても、手続が煩雑になる

○ 一般的に企業内で行われているような軽微な著作物の利用が違法となってしまう

○ 教育機関や障がい者向けに著作物を利用したいが、現在の法律では違法になってしまう

○ いわゆる「孤児著作物」(権利の所在が不明な著作物)を円滑に利用したい

○ いま一般的に行われているパロディやコラージュが違法になってしまう

 

そして、第1回の議事では、これらのニーズの中でも、とくに、近年の情報技術の発達に関する部分にスポットがあたりました。委員の方々から熱い視線を浴びていたのは、たとえば以下のニーズです。

 

● ビッグデータ関連の利用

● リアル情報等の所在検索サービスでの利用

● 情報分析などのバックエンド分野での利用

● サイバーフィジカルシステム(CPS)に関する利用

 

とりわけ、サイバーフィジカルシステム(CPS)については、IoT(Internet of Things:モノのインターネット化)にも関連する注目分野ということもあって、「具体的なビジネスの内容を把握するためにも、事業者へのヒアリングがこれから必要になってくるだろう」との意見が出されました。おそらくこのワーキングチームの、第2回以降の議事において、ヒアリングがなされる見込みです。

 


4 今後の展望は?

 

さて、著作権法の改正については、毎年のように検討されている一方で、「新規ビジネスにとってほんとうに有用なものなのか?」という声も挙がっています。

 

ここ数年の法改正を振りかえってみても、

「ビジネス上、とくに問題視されていない点について、わざわざ法律で明記したのではないか」、

「法律の条文において、適法とされるための条件が非常に限定されており、かえって新規ビジネスを検討するにあたって判断に迷ってしまう」、

「条文が複雑すぎて、一般人には理解が難しい」

などの批判が聞かれるところです。

 

はたして、今回のワーキングチームの議事においては、「知的財産推進計画2015」に掲げられたような、「柔軟性の高い権利制限規定」や「円滑なライセンシング体制」などの「新しい時代に対応した制度等の在り方」が実現されるのでしょうか。

当事務所としても、今後の動向を注視していきたいと思います。