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著作権法の令和5年改正の方向性~政府の規制改革推進会議の資料をふまえて~

弁護士  数藤 雅彦

 

【2022/6/3追記】「知的財産推進計画2022」について末尾に追記しました。

 

政府の規制改革推進会議は、令和4年5月27日付けで、「規制改革推進に関する答申~コロナ後に向けた成長の「起動」~を公表しました。

この資料に、著作権法の令和5年改正に関する記載がありましたので、速報としてご紹介します。

 

資料のうち、「Ⅱ 各個別分野における規制改革の推進」の「2.スタートアップ・イノベーション」の中で、「(6)デジタル時代におけるコンテンツの円滑な流通に向けた制度整備」について定められています(22頁以下)。

そこではまず、「基本的考え方」として、以下の記載があります(紹介にあたり、改行や下線・太字処理を行いました。以下同様です)。

良質なコンテンツの持続的な創造や既存のコンテンツの活用を促進する上では、過去コンテンツ、UGC(User Generated Content:いわゆる「アマチュア」のクリエイターによる創作物)、権利者不明著作物を始め、著作権等管理事業者が集中管理していないものを含めた膨大かつ多種多様な著作物等について、利用円滑化による取引コストの低減と権利者への適切な対価還元を両立することが欠かせない。

(中略)これからのコンテンツ市場において必要とされるのは、放送分野における同時配信等に限らないオンデマンドでの配信や過去の放送番組のアーカイブも含めて、特定のコンテンツや流通経路、クリエイターに限らず、ニーズのあるあらゆる分野を念頭におき、拡大集中許諾制度を基にした WEB3.0の時代に相応する権利処理、利活用推進の制度の整備である。このような制度整備に加え、デジタルで一元的に完結する手続を目指して整備することにより、コンテンツの利用を推進しつつ、対価還元も増加する適切な利活用推進の枠組みを整備していく必要がある。

このためには、権利者・利用者双方のニーズを踏まえ、簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度を構築するとともに、それが実際にひろく活用される制度となるよう運用・広報を行っていく必要がある。以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。

 

そのうえで、具体的に講じる措置としては、まず【a:令和4年度内に法案提出・令和4年度措置】として、以下の記載があります。

a 文化庁は、著作物の利用円滑化と権利者への適切な対価還元の両立を図るため、過去コンテンツ、UGC、権利者不明著作物を始め、著作権等管理事業者が集中管理していないものを含めた、膨大かつ多種多様な著作物等について、拡大集中許諾制度等を基に、様々な利用場面を想定した、簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度を実現する。その際、内閣府(知的財産戦略推進事務局)、経済産業省、総務省、デジタル庁の協力を得ながら、デジタル時代のスピードの要請に対応した、デジタルで一元的に完結する手続を目指して、

① いわゆる拡大集中許諾制度等を基にした、分野を横断する一元的な窓口組織による新しい権利処理の仕組みの実現、

② 分野横断権利情報データベースの構築の検討、

③ 集中管理の促進、

④ 現行の著作権者不明等の著作物に係る裁定制度の改善(手続の迅速化・簡素化)、

⑤ UGC等のデジタルコンテンツの利用促進

を実現すべく、具体的な措置を検討し、令和5年通常国会に著作権法(昭和45年法律第48号)の改正法案を提出し、所要の措置を講ずる。

 

振り返ってみると、一元的な権利処理については、文化庁が2021年12月に「中間まとめ DX時代に対応した『簡素で一元的な権利処理方策と対価還元』及び『著作権制度・政策の普及啓発・教育』について」を公表し、簡素で一元的な権利処理方策と対価還元について、一定の方向性の取りまとめを行っていました。

しかし、そのような経緯をふまえても、上記の①~⑤の実現に向けて令和4年度内に法案提出等を行うのは相当にハイスピードです。今後の動向にも引き続き注視が必要です。

なお、法案提出には至らないまでも、令和4年内や令和5年内に一定の結論を出すものとして、以下のb~dの措置が記載されています。

 

【b:(前段)令和4年内結論、(後段)令和5年内結論】

b 文化庁は、分野横断権利情報データベースについては、内閣府(知的財産戦略推進事務局)、経済産業省、総務省、デジタル庁の協力を得て、持続的に存続するためのビジネスモデルを検討した上で、ニーズのある全ての分野のデータベースとの接続を行うことに加え、ネットクリエイターやネット配信のみのコンテンツ、集中管理されていない著作物等の既存のデータベースに登録されていないコンテンツの登録が円滑に行われるものにしつつ、ニーズのあるあらゆる分野の著作物等を対象として、権利情報の確認や利用許諾に係る意思表示(利用方法の提示を含む)ができる機能の確立方策について検討し、結論を得る。

その際、関係府省庁は、府省庁横断的な検討体制の下、各分野のデータベースとの連携に加え、UGCに係るプラットフォーマーが管理するデータベースとの連携についても検討する。さらに、既存のデータベースの充実、権利者情報の統一やフォーマットの標準化、データベースの紐付けに必要なIDやコードに関するルール等を検討し、結論を得る。

 

【c:令和4年内結論】

c 文化庁は、分野を横断する一元的な窓口組織又は特定の管理事業者による新しい権利処理の具体的な仕組みを、デジタルで一元的に完結する手続を目指して、検討し、結論を得る。

その際、著作権者等による①利用許諾の可否とその条件、②オプトアウトなどの意思表示、③利用・対価還元状況の把握、④個々の許諾手続、⑤データベースに権利情報がなく、集中管理がされておらず、窓口組織による探索等においても著作権者等が不明の場合、意思表示がされておらず、連絡が取れない場合、又は連絡を試みても返答がない場合等における著作者不明等の著作物等に係る拡大集中許諾や裁定制度を含めて検討する。

 

【d:令和4年内結論】

d 総務省は、分野を横断する一元的な窓口組織による新しい権利処理の仕組みを含めたaの「簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度の実現」を促進するために、欧米の制度も参考にしつつ、通信関係事業者の協力体制及び役割分担の枠組みについて、検討し、結論を得る。

 

以上はとりいそぎの速報ですが、続報があればまたお伝えします。

 

【2022/6/3追記】2022年6月3日に公表された、知的財産戦略本部「知的財産推進計画2022」にも、「5.デジタル時代のコンテンツ戦略」の「(2)デジタル時代に対応した著作権制度・関連政策の改革」の「施策の方向性」として、著作権法改正に関する下記の記載がありました(70頁。下線と太字は数藤)。

文化庁は、著作物の利用円滑化と権利者への適切な対価還元の両立を図るため、過去コンテンツ、UGC、権利者不明著作物を始め、著作権等管理事業者が集中管理していないものを含めた、膨大かつ多種多様な著作物等について、拡大集中許諾制度等を基に、様々な利用場面を想定した、簡素で一元的な権利処理が可能となるような制度を実現する。その際、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁の協力を得ながら、デジタル時代のスピードの要請に対応した、デジタルで一元的に完結する手続を目指して、①いわゆる拡大集中許諾制度等を基にした、分野を横断する一元的な窓口組織による新しい権利処理の仕組みの実現、②分野横断権利情報データベースの構築の検討、③集中管理の促進、④現行の著作権者不明等の著作物に係る裁定制度の改善(手続の迅速化・簡素化)、⑤UGC等のデジタルコンテンツの利用促進を実現すべく、具体的な措置を検討し、2023年通常国会に著作権法の改正法案を提出し、所要の措置を講ずる

(短期、中期)(文部科学省、内閣府、経済産業省、総務省、デジタル庁)

 

下記の図は、「知的財産推進計画2022」概要資料の6頁より。