令和3年6月2日、著作権法の一部を改正する法律が公布されました。
今回の改正は、以下のとおり、図書館関係の権利制限規定の見直しと放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するものです。
テーマ | 改正項目 | 条文 |
図書館関係の権利制限規定の見直し | 国会図書館による絶版等資料のインターネット送信 | 改正法31条4項から7項 |
図書館資料のメール送信等 (複写サービス) | 改正法31条2項から5項 改正法104条の2、4 | |
放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化 | ①権利制限規定の拡充 | 学校教育番組の放送等(改正法34条1項) |
非営利・無料又は通常の家庭用受信機を用いて行う公の伝達等(改正法38条3項) | ||
時事問題に関する論説の転載等(改正法39条1項) | ||
国会等での演説等の利用(改正法40条2項) | ||
放送事業者等による一時的固定(改正法44条) | ||
放送のための実演の固定(改正法第93条) | ||
②許諾推定規定の創設 | 改正法63条5項) | |
③レコード・レコード実演の利用円滑化 | 改正法94条の3 改正法96条の3 | |
④映像実演の利用円滑化 | 改正法93条の3 改正法94条 | |
⑤協議不調の場合の裁定制度の拡充 | 改正法68条 改正法103条 |
改正法については、文化庁より説明資料が公表されていますが、図書館関係者の方や放送事業者の方のお話を聞いていると、「難しい」「取っつきにくい」と言った声も聞こえてきます。
そこで、今回のコラムでは、文化庁が公表している上記資料を踏まえ、改正法の概要について、簡単に解説をしてみたいと思います。
なお、図書館関係の権利制限規定の見直しについては、別のコラムで解説をすることを予定しているため、以下、放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化について、取り上げることにします。
施行日
まず、実務的に一番重要な施行日から確認していきましょう。
放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化の施行日は、いずれの内容についても令和4年1月1日とされています。
放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化の概要
次に、同時配信等に係る権利処理の円滑化について、概要を見ていくことにしましょう。
放送番組のインターネット同時配信等は、視聴者の利便性向上やコンテンツ産業の振興等の観点から非常に重要であるものの、改正前の著作権法においては、放送番組のインターネット同時配信について、権利処理が煩雑・困難であり、実務上、いわゆる「フタかぶせ」等の支障が生じていました。
そこで、今回の改正では、上記課題を解決するため、権利処理の円滑化を図る観点から、大きく、以下の5つの項目について改正が行われました。
・①権利制限規定の拡充
・②許諾推定規定の創設
・③レコード・レコード実演の利用円滑化
・④映像実演の利用円滑化
・⑤協議不調の場合の裁定制度の拡充
誤解をおそれずに、ざっくりと説明すると、①は現行法上、「放送」に限り認められていた例外的な処理を同時配信等に拡充する、②は放送への許諾には同時配信等の許諾も含むと推定する、③及び④は一定の場合について事前許諾を不要としつつ、お金(報酬)で解決する、⑤は権利者と揉めた場合の裁定制度を同時配信等でも利用できるようにするというものです。
以下、具体的に見ていくことにしましょう。
権利制限規定の拡充
まず、権利制限規定の拡充から。
改正法では、現行法上、「放送」について権利者の許諾なく著作物等を利用できることを定める以下の権利制限規定について、全て「同時配信等」にも適用できるよう拡充されました。
(1)学校教育番組の放送等(改正法34条1項)
(2)非営利・無料又は通常の家庭用受信機を用いて行う公の伝達等(改正法38条3項)
(3)時事問題に関する論説の転載等(改正法39条1項)
(4)国会等での演説等の利用(改正法40条2項)
(5)放送事業者等による一時的固定(改正法44条)
(6)放送のための実演の固定(改正法第93条)
以下、個別に概要をみていきましょう。
学校教育番組の放送等(改正法34条1項)
現行法では、放送大学やNHKの教育番組のように教育課程の基準に準拠した学校向けの放送番組に用いられる著作物(小説、写真、図表など)について、放送で流すことはできますが(なお、第2項に基づき補償金の支払いは必要です)、同時配信等で流すことはできません。
改正法では、学校教育番組での利用という特に公益性の高い場面について定めるものであり、また、現行法の補償金の支払いを要件とすることで権利者に与える影響も限定的であると考えられることから、その対象に同時配信等を含めることとされました。
非営利・無料又は通常の家庭用受信機を用いて行う公の伝達等(改正法38条3項)
現行法では、放送される番組について、非営利・無料で大型のスクリーンに投影したり(前段)、営利活動を行う飲食店等でも通常の家庭用受信装置(テレビ)を用いて見せることができますが(後段)、同時配信等を見せることは認められていません。
改正法では、同時配信等のうち、伝達のニーズが高いリアルタイムでの「同時配信」と、それとほぼ同視できる「追っかけ配信」に限り対象に含めることとされました(なお、「見逃し配信」については対象外とされている点に注意してください)。
時事問題に関する論説の転載等(改正法39条1項)
現行法では、新聞や雑誌に掲載された時事問題に関する論説・社説などについて、報道番組などの放送で流すことはできますが、同時配信等で流すことは認められておりません。
改正法では、時事問題に関する論説を広く視聴者に伝達するという特に公益性の高い場面についてのものであり、また、権利者に与える影響も限定的であると考えられることから、その対象に同時配信等を含めることとされました。
国会等での演説等の利用(改正法40条2項)
現行法上、国会等での演説等について、NHKの国会中継など放送で流すことは可能ですが、同時配信等で流すことは認められておりません。
改正法では、国会等公開の場で行われた演説等を広く国民に伝達するという特に公益性の高い場面について定めるものであり、また、演説等を行う者が同時配信等を拒むことも想定し難いことから、対象に同時配信等を含めることとされました。
放送事業者等による一時的固定(改正法44条)
現行法上、放送事業者等は、自己の放送に向けた準備行為として、ビデオ撮りやテープ撮りなどフィルムやテープ等に一時的に著作物等を固定することができますが、同時配信等のために固定することはできません。
改正法では、同時配信等を行うためにも、放送と同様に、その前提として多様かつ大量の著作物等を記録媒体に固定する必要があることから、同時配信等も対象に含めることとされました。
放送のための実演の固定(改正法第93条)
現行法上、まず第1項に関し、放送事業者等は、放送に向けた準備行為として、ビデオ撮りやテープ撮りなどフィルムやテープ等に実演を固定することができますが、同時配信等のために固定することはできないとされ、第2項第1号では、第1項で作成した録音物・録画物を放送外の目的に使用すること、第2号では、第1項により作成された録音物・録画物の提供を受けた放送事業者がこれをさらに他の放送事業者の放送のために提供する行為が規制されていました。
改正法では、第1項に関し、放送事業者等による一時固定(改正法44条)の場合と同様に、同時配信等についても録音物・録画物を用いることができるようにするとともに、第2項についても規定が整備されました。
許諾推定規定の創設
次に、許諾推定規定の創設について、見ていくことにしましょう。
この改正は、テレビ番組を含むコンテンツの制作現場に大きな影響を与えるものです。
まず、放送番組の中で、写真や書籍等の著作物を利用する場合は、当然、権利者から許諾を得る必要があります。そして、「放送」だけではなく、「同時配信等」も行う場合には、明確に「同時配信等」の許諾についても得る必要があります。
しかしながら、放送番組には多様かつ大量の著作物等が利用されており、すべての権利者に対し、明確に同時配信等の許諾まで得るのは、実務的には難しいものがあります。
そのため、実務の現場では、明確な許諾がないことを理由にモザイク処理等のいわゆる「フタかぶせ」により対応をしている実情がありました。
改正法では、「放送」と「同時配信等」の権利処理のワンストップ化を実現する観点から、
権利者が、同時配信等を業として実施している放送事業者(その旨を公表していることが必要。なお、放送事業者から委託を受けて放送番組を制作する者を含む)と、放送番組での著作物等の利用を認める契約を行う際、権利者が別段の意思表示をしていなければ、「放送」に加え、「同時配信等」での利用も許諾したものと推定する
との規定が創設されました(改正法63条5項)。
改正法により、たとえば、上記放送事業者が「あなたが撮影した写真を【番組名】で使って良いですか?」と許諾を求め、権利者が別段の意思表示を示すことなく「良いですよ」と回答(許諾)した場合、同時配信等についても許諾したものと推定され、同時配信等でも当該写真を使うことができるようになります。
なお、上記規定は、あくまで推定規定ですので、権利者が反対の事実(同時配信等を許諾していなかったこと)を証明することで推定を覆すことは可能です。
レコード・レコード実演の利用円滑化
次に、レコード・レコード実演の利用円滑化について。
現行法上、レコード(市販の音楽CDやレコード等)やレコード実演(CD等に収録された歌唱や演奏)は、録音権に関する許諾を得て作成されており、録音権を行使する時点で実演家としては利益確保などの権利行使の機会が確保されているため、放送で利用(例:CD音源をBGMで流す)する場合、事前に許諾を得る必要はなく、事後、放送事業者が二次使用料を支払うことで放送できることとされています(法第95条第1項及び第97条第1項)。
しかし、同時配信等での録音の利用については、送信可能化権(法92条の2第1項及び第96条の2)が付与されており、放送事業者は権利者から事前に許諾を得る必要があります。そして、JASRAC等の著作権等管理事業者による集中管理等が行われている場合には円滑に許諾を得ることができるものの、そうではない場合には、許諾を得ることができず、結果として、放送で使用したレコードが同時配信等では使えない(差し替えざるを得ない)という事態が生じていました。
そこで、改正法では、同時配信等に関し、
著作権等管理事業者による集中管理等が行われておらず、円滑に許諾を得られないと認められるレコード・レコード実演について、通常の使用料額に相当する保証金を支払うことで、事前の許諾なく利用することができる
こととされました(改正法94条の3、96条の3)。
映像実演の利用円滑化
4つ目として、映像実演の利用円滑化について、見ていくことにしましょう。
現行法上、著作隣接権の対象のうち、映像実演(俳優の演技など)については、「放送」で利用する場合も「同時配信等」で利用する場合も、著作隣接権者である実演家から事前に許諾を得る必要があります。
この点に関し、「放送」については、初回放送の許諾を得た場合には、その際の契約に別段の定めがない限り、再放送については許諾を不要(報酬の支払いは必要)とする特例が認められていますが(現行法第94条(改正法第93条の2))、同時配信等については上記特例が設けられていないため、放送事業者は改めて関係する全ての実演家から同時配信等の許諾を別途得る必要があり、著作権等管理事業者による集中管理がなされていない場合等には、円滑に許諾を得られない(結果的に同時配信等ができない)事態が生じていました。
そこで、改正法では、再放送する放送番組を円滑に同時配信等ができるように
①初回の同時配信等の許諾を得た場合、契約に別段の定めがない限り、再放送の同時配信等について、集中管理等が行われておらず、円滑に許諾を得られないと認められる映像実演について、通常の使用料額に相当する報酬を支払うことで、事前の許諾なく利用することができる(改正法93条の3)
②初回の同時配信等の許諾を得ていない場合(初回放送時に同時配信等がされていない場合)にも、契約に別段の定めがない限り、実演家と連絡するため以下の措置を講じても連絡がつかない場合には、あらかじめ、文化庁長官の指定する著作権等管理事業者に通常の使用料額に相当する保証金を支払うことで、事前の許諾なく利用することができる(改正法94条)
こととされました。
なお、今回の改正は、施行日後に放送同時配信等の許諾を得ようとしても得られない場合について、本人の許諾に代わる権利処理の方法を導入するものですので、改正法による措置は、施行日前に録音・録画された実演についても、施行日後に許諾を得ようとする場合には適用されると考えられます。
協議不調の場合の裁定制度の拡充
最後に、協議不調の場合の裁定制度の拡充について、見ていくことにしましょう。
現行法第68条は、放送の公共的性格に鑑み、放送事業者が著作物を放送するに際し、権利者に協議を求めたものの、その協議が不調に終わった場合について、文化庁長官の裁定を受け、一定の補償金を支払うことで著作物を放送することができる旨を規定していますが(裁定制度)、同時配信等については対象とされていません。
そこで、改正法では、「公表された著作物を放送しようとする放送事業者」に限定されていた本制度の主体を、「公表された著作物を放送し、又は放送同時配信等しようとする放送事業者」に拡大し、かつ、対象行為についても「放送し、又は放送同時配信等することができる」と拡大することで、対象を同時配信等に拡大するとともに(改正法68条)、著作隣接権(実演・レコードなど)についても適用されるように対象範囲を拡充しています(改正法103条)。
ガイドライン等のフォローも忘れずに
以上が放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化の概要となります。
実際に実務を進める際に必要となる詳細(許諾推定規定等)については、ガイドラインを策定することが予定されていますので、今後公表されるガイドライン等もフォローしつつ、来年1月1日の施行に向けて、準備を進めていただければ幸いです。
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