平成30年7月6日に成立した「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が、令和2年7月10日に施行されました。
遺言書の作成に関するご相談やご依頼を受けた際、遺言書保管制度についてもご質問をいただくことが増えてきております。
そこで、本コラムでは、遺言書保管制度に関して、良くある質問について、簡単に解説をしたいと思います。
遺言書保管法による保管の対象は、どのような遺言ですか?
自筆証書遺言のみが対象です。このため、公正証書遺言(民法969条)や、秘密証書遺言(970条)は対象となりません。
また、保管の申請をすることができる遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封の遺言書でなければならないとされています(遺言書保管法4条2項)。
遺言書はどこで保管されるのですか?全国の法務局ですか?
法務大臣が指定する法務局(当該指定法務局を「遺言書保管所」といいます)で保管され、現在、312か所が指定されています。
遺言保管所に保管されている遺言書については、家庭裁判所の検認は必要ですか?
検認は不要です。遺言書保管法により遺言書保管書に保管される遺言は、遺言書保管官が厳重に保管するため、保管開始後、偽造、変造等のおそれはないことから、遺言書保管法11条により、民法1004条1項の規定(家庭裁判所の検認)は適用しないとされているためです。
遺言者は、遺言書を作成するにあたり、遺言書保管官に内容等について相談をすることはできますか?
できません。遺言書保管官は、遺言書の保管の申請があった際、遺言者が既に作成した遺言書について、自筆証書遺言の方式である民法986条の定める方式に適合しているか否か等に関する外形的な確認を行うことになりますが、どのような内容の遺言を作成するかを含め、遺言書保管官はその作成に関与することは想定されておらず、相談に応じてはならないとされているためです。
遺言書の保管の申請は誰がするのでしょうか?
遺言者は、遺言保管書に自ら出頭して(遺言書保管法4条6項)、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をする必要があります(同上1項)。遺言者が自ら出頭しなければならないとされているのは、遺言者の意思によらずに作成された遺言書の保管の申請や、遺言者の意思に反して遺言書の保管の申請がされることを防止するためです。
なお、介助のために付添人が同伴することは問題ありません。
遺言書の保管の申請をすることができる遺言書の様式は、どのようなものですか?
保管の申請をすることができる遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならないとされ、遺言書の様式は、遺言書保管省令別記第1号様式によるものとされています(遺言書保管省令第9条)。
具体的には、①遺言書には、左20mm以上、上と右は5mm以上、下は10mm以上の余白を空ける、②用紙は文字が明瞭に判読できる日本産業規格A列4番の紙、③縦置き又は横置きかを問わず、縦書き又は横書きかを問わない、④遺言書にはページ番号を記載する(なお、この記載は総ページ数と併せて記載されていることが望ましく、また、1枚しかない場合であっても、そのことを確認できるように「1/1」と記載することが望ましい、⑤片面のみに記載し、とじ合わせない、とされています。
遺言書の保管の申請は、どの遺言書保管所へ行えば良いですか?
遺言書の保管の申請は、遺言書保管所のうち、遺言者の住所地もしくは本籍地または遺言者の所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対してしなければならないとされています(遺言書保管法4条3項)。
なお、遺言者は複数の遺言書について保管の申請をすることができますが、遺言者の作成した他の遺言書が言に遺言書保管所に保管されている場合には、遺言書の保管の申請は、当該他の遺言書が保管されている遺言書保管所の遺言書保管官に対してしなければならないとされています(同法4条3項括弧書き)。
遺言書の保管が開始されたとき、何か証明書は交付されますか?
遺言書の保管が開始されたときは、遺言者に対し、保管証が交付されます(遺言書保管省令15条1項)。
遺言者は、生存中に保管されている遺言書について閲覧をすることはできますか?
遺言者は、遺言書保管所に保管されている遺言書について、いつでもその閲覧を請求することができます(遺言書保管法6条2項)。
遺言者が引越しをした場合、その旨を届け出る必要はありますか?
遺言者は、遺言書が遺言書保管所に保管されている場合において、遺言者の氏名、出生年月日、住所及び本籍(外国人にあっては国籍)又は受遺者若しくは遺言執行者の氏名又は名称及び住所に掲げる事項に変更が生じたときは、速やかに、その旨を遺言書保管官に届け出なければならないとされています(遺言書保管政令3条1項)。
なお、届出は、遺言者が自ら出頭して行う必要はなく、また、遺言書が保管されている遺言書保管所以外の遺言書保管所の遺言書保管官に対してもすることができます(遺言書保管政令3条2項)。
遺言者は、遺言書の保管の申請を撤回することができますか?
遺言者は、法務省令で定めるところにより、撤回する旨を記載した撤回書に法務省令で定める書類を添付して、特定遺言書保管所の遺言書保管官に提出することにより、いつでも、遺言書の保管の申請を撤回することができます(遺言書保管法8条1項)。
なお、保管の申請の撤回は、保管の場合と同様に、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならないとされており、この場合も遺言書保管官による本人確認が行われます。
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