03-6550-9202 (受付時間 平日10:00〜17:00)

お問い合わせ

割賦販売法改正(令和2年改正)の5つのポイント【弁護士解説】

2020年6月に改正された割賦販売法(昭和36年法律第159号)が今年(2021年)4月1日から施行されました。

改正法では、技術の進展に伴い新たな与信審査が可能となっていること、さらには、電子商取引の拡大により少額の包括信用購入あっせんに係る取引が増加している現状を踏まえ、①少額の包括信用購入あっせんを行う事業者の登録制度や②新たな手法により与信審査を行う事業者の認定制度を創設するとともに、併せて、決済手段の多様化に対応するため、③クレジットカード番号等の適切な管理を行うべき者の対象を拡大するなどの措置が講じられました。

すでに、改正後の内容を踏まえた対応が済んでいる事業者の方がほとんどだと思いますが、中には、まだ改正法の内容自体をフォローアップできていないという事業者の方もいらっしゃるかと思います。

そこで、今回のコラムでは、令和2年の割賦販売法改正について、

①少額の分割払い規制の導入

②新たな与信審査手法に対する認定制度の創設

③決済代行業者等のセキュリティ対策

④電子メール等による情報提供と契約解除等に係る催告

⑤業務停止命令と罰則の追加

という5つの観点から、旧法と比較しつつ、概要を解説したいと思います。

 

少額の分割払い規制の導入(登録少額包括信用購入あっせん業者制度の新設)

まず、旧法では、包括信用購入のあっせんに対し、事業規模や極度額、さらにはリスクの大小にかかわらず、一律に規制を課していました。

これに対し、改正法では、いわゆるリスクベース・アプローチの考え方に基づき、極度額が10万円以下の少額の分割後払いサービスの提供事業者を「登録少額包括信用購入あっせん業者」として登録する制度を新設し(新法35条の2の3、施行令24条)、登録要件与信審査契約の解除等について、以下の規制を設けることとしています。

(1)登録要件

旧法では、包括信用購入あっせん業者に関する登録要件として、①資本金要件(資本金又は出資の額が2000万円以上)及び②純資産要件(資産の合計額から夫妻の合計額を控除した額が資本金又は出資の額の100分の90以上)が定められていました(旧法33条の2第1項3号、施行令5条2項、旧法33条の2第1項4号)。

これに対し、改正法では、少額包括信用購入あっせん業者に関する登録要件について、①資本金要件を定めず、②純資産要件についても緩和し、グループ企業全体で上記基準を満たすか、事業開始から5年以内に1000万円以上の純資産を保有することが見込まれれば良いとされました(改正法35条の2の11第1項3号、施行規則68条の10)

(2)与信審査

改正法では、登録少額包括信用購入あっせん業が行う与信審査について、①カード等の交付・付与、極度額の増額に当たって「利用者支払可能見込額」(※利用者が包括信用購入あっせんに係る購入等の方法により購入する商品等の支払に充てられると想定される額)を算定するなどしなければならないこと(改正法35条の2の4)及び②極度額の利用者支払可能見込額を超えるときは、カード等の交付・付与や極度額の増額をしてはならないこと(改正法35条の2の5)がルール化されました。

併せて、利用者支払可能見込額の算定について、算定の方法及び算定を行う体制が施行規則で定める基準に適合すること(改正法35条の2の11第1項11号、施行規則68条の13)、報告の対象となる事業年度の延滞率の実績その他利用者支払可能見込み額の算定に関する事項を定期的に経済産業大臣に報告しなければならないこと(改正法35条の2の7、施行規則68条の8第2項)もルール化がされています。

(3)契約の解除等

旧法では、包括信用購入あっせん業者は、「20日以上の相当な期間」を定めて支払を書面で催告し、期間内に支払義務が履行されない場合でなければ、カード代金の支払の遅滞を理由として契約を解除することはできないとされていました(旧法30条の2の4第1項)。

これに対し、改正法では、登録少額包括信用購入あっせん業者による契約の解除等に係る催告期間を「7日以上20日以下の間で政令で定める日数以上の相当な期間」に短縮し(改正法35条の2の6第1項)、具体的には「7日」と定められました(施行令25条1項)。

このように、新設された「登録少額包括信用購入あっせん業者」については、ざっくりいうと、登録要件と契約解除等の規制が緩和されているのが特徴と言えます。

 

新たな与信審査手法に対する認定制度の創設

次に、新たな与信審査手法に対する規制の創設について、概要を見ていくことにしましょう。

旧法では、包括信用購入あっせん業者は、①包括支払可能見込額を算定するための調査を行わなければならず(旧法30条の2)、②極度額が包括支払可能見込額に100分の90を乗じた額を超えるときは、カード等の交付・付与や極度額の増額をしてはならないとされていました(旧法30条の2の2)。

これに対し、改正法では、ビッグデータやAI等を活用した新たな与信審査が可能となりつつある現状を踏まえ、包括支払可能見込額の調査に代わる新たな与信審査手法に関する認定制度を創設しました。具体的には、新しい与信審査手法について、事前及び事後のチェックを通じて規制をするものであり、概要は、以下のとおりです。

(1)事前規制

まず、包括信用購入あっせん業者が、包括支払可能見込額に代えて、利用者支払可能見込額の算定を行う場合、次の基準に適合する旨の経済産業大臣の認定を受けることができます。

①与信審査手法(改正法30条の5の4第1項1号、施行規則62条1項)

・不適正または不十分な技術・情報を利用していないこと

・利用者の支払能力に関する情報を当該利用者に対する不当な差別、偏見その他の著しい不利益が生じるおそれがあると認められる方法により利用していないこと

・指定信用情報機関が算定する延滞率を越えないように延滞率を管理すること

②内部管理体制の整備(改正法30条の5の4第1項2号、施行規則62条2項)

・利用者支払可能見込額の算定の円滑な実施を確保するために必要な体制が定められていること

 

(2)事後規制

そして、事後規制としては、以下の2つがルール化されました。

①定期的な報告等

・認定包括信用購入あっせん業者は、報告の対象となる事業年度の延滞率の実績その他利用者支払可能見込額の算定に関する事項を経済産業大臣に報告しなければならない(改正法30条の5の5第4項、施行規則62条の5醍2項)。

・認定包括信用購入あっせん業者は、極度額が利用者支払可能見込額を超えるときは、カード等の交付・付与や極度額の増額をしてはならない(改正法30条の5の6)

②改善命令等

・経済産業大臣は、認定包括信用購入あっせん業者が、業務の運営に関する措置等の規定に違反していると認めるときは、業務の運営を改善するため必要な措置をとることを命ずることができ(改正法30条の6)、上記(1)の認定基準に適合しなくなったと認められるなどのときは、認定を取り消すことができる(改正法30条の5の4第5項)。

 

決済代行業者やQRコード決済事業者等のセキュリテイ対策

次に、決済代行業者等のセキュリティ対策について、見ていくことにしましょう。

旧法では、クレジットカード等購入あっせん業者、立替払取次業者及び加盟店を「クレジットカード番号等取扱業者」とし、施行規則に定める基準に従い、クレジットカード番号等の漏えい、滅失又は毀損の防止その他クレジットカード番号等の適切な管理のために必要な措置を講じなければならないとする一方(旧法35条の16第1項、施行規則132条)、決済代行業者やコード決済事業者、ECモール事業者等については、現実に大量のクレジットカード番号等を取扱っている場合であっても、原則としてクレジットカード番号等の適切管理義務の対象外とされていました。

これに対し、改正法では、クレジットカード情報の保護の実効性を高める観点から、決済代行業者、コード決済事業者、ECモール事業者、決済システムの中で大量のクレジットカード番号等の取扱いを受託する事業者等についてもクレジットカード番号等取扱業者として位置づけ、クレジットカード番号等の適切管理を義務づけています(改正法35条の16第1項)。

 

電子メール等による取引条件等に関する情報提供と契約解除等に係る催告

4つ目として、電子メール等による情報提供等と契約解除等に係る催告について、見ていくことにしましょう。

(1)包括信用購入あっせんの取引条件等に関する情報提供

旧法では、包括信用購入あっせん業者に対し。カード等を交付・付与するときなどに、取引条件等を明示した書面を利用者等に交付しなければならないとし(旧法30条1項及び2項、旧法30条の2の3第1項から第3項)、利用者が承諾した場合に、電磁的方法による情報提供を認めていました(旧法30条の6による4条の2の準用)。

これに対し、改正法では、スマートフォンやパソコンを利用したクレジットカード決済が普及するとともに、事業者の負担軽減が重要となっている現状を踏まえ、上記書面交付義務を、電磁的方法を含む情報提供義務に改め(改正法30条1項及び2項並びに施行規則36条及び37条、改正法30条の2の3第1項から3項及び施工規則49条から53条)、電子メール等による情報提供を可能としました。

ただし、電子的通信手段を有しない高齢者等を保護する観点から、利用者等から求められたときは遅滞なく書面を交付しなければならないとされている点には注意が必要です(改正法30条3項、改正法30条の2の3第4項)。

(2)契約解除等に関する催告

また、契約の解除等についても、旧法では、包括信用購入あっせん業者は、契約の解除等に際しては、その支払を書面で催告しなければならないとされていました。

これに対し、改正法では、(1)記載の状況を踏まえ、書面による催告を原則としつつ、包括信用購入あっせん業者が電磁的方法による催告について利用者等の承諾を得ているなど、消費者保護に支障を生ずることがない場合には、電子メール等による催告を認めることとされました(改正法30条の2の4第1項、施行規則55条の3及び55条の4)(なお、登録少額包括信用購入あっせん業者についても同様の規定が設けられています。改正法35条の2の6第1項)。

 

業務停止命令の新設と罰則の追加

最後に、やや細かいですが、新設された業務停止命令と罰則の追加について、概要を見ていきましょう。

(1)業務停止命令

旧法では、包括信用購入あっせん業者に対する主な監督手段として、報告の徴収(旧法40条)、立入検査(旧法41条)、改善命令(旧法30条の5の3)、登録の取消し(旧法34条の2)等を規定していました。

これに対し、改正法では、近時セキュリティリスクが高まっていることを踏まえ、包括信用購入あっせん業者に対する監督手段として、業務停止命令を新設し、検査・監督を強化しています(改正法34条の2第2項。なお、登録少額包括信用購入あっせん業者についても同様の規定が設けられています。改正法35条の2の14第2項)。

(2)罰則の追加

改正法では、改正の実効性を担保するため、以下の罰則が追加されました。

・業務停止命令に係る違反については、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(改正法51条)。

・改善命令に係る違反については、100万円以下の罰金(改正法51条の6)。

・利用者支払可能見込額の算定に関する記録の作成・保存義務に係る違反については、50万円以下の罰金(改正法53条)。

・登録少額包括信用購入あっせん業者における登録事項の変更の届出義務に係る違反については、30万円以下の罰金(改正法53条の2)

・登録少額包括信用購入あっせん業者における営業廃止の届出に係る義務違反については、30万円以下の過料(改正法55条)

 

おわりに

今回の改正は、いわゆるFinTech企業を念頭に「登録少額包括信用購入あっせん業者」制度を新設したり、これまでクレジットカード番号等の適切管理義務の対象外とされていた決済代行業者やコード決済事業者、さらにはECモール事業者等についても、適切管理を義務づけるなど、適用対象を拡大する面があります。

本コラムを参考に、今一度、改正法への対応は万全か、チェックをしていただければ幸いです。

 

お問い合わせ