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図書館総合展と未来の図書館

弁護士 数藤 雅彦

 

 

すこし前の話ですが、図書館総合展に行ってきました。

 

図書館総合展とは、図書館関係者が集う展示や交流のイベントです。

公式サイトには、「図書館関連で最大のトレードショー」で、「図書館について大いに見て聴いて、大いに話して、大いに持ち帰る場」とあります。

デジタルアーカイブ関連の知人もブースを構えていたので、応援のつもりで行きましたが、他にもいろいろと興味深い展示がありましたので、このコラムでは写真メインでご紹介します。

ボリュームが多いので、以下では大きく図書館関連企業関連データアーカイブ関連の3つに分けてみました。

あくまで私が見た展示の紹介にすぎず、全く網羅的ではありませんが、会場に足を運べなかった方にとって、何かご参考になれば幸いです。

 

■ 図書館関連

まずは図書館関連から。

大阪市立図書館は、自館のデジタルアーカイブにて、オープンデータをクリエイティブ・コモンズのCC0マークで提供したことをポスター報告。先日リリースされたばかりの話題ですね。

 

専門図書館協議会は、全国にある専門図書館(企業や各種団体などの図書館)を紹介。各図書館へのリンクはウェブ上にもまとまっています

 

そんな専門図書館のうち、渋沢栄一記念財団情報資源センターは、「渋沢栄一って、誰?」のタイトルの下、渋沢の歴史を1枚のポスターに圧縮。新1万円札の件や、再来年のNHK大河ドラマの件も入った力作です。

 

三康図書館は、仏教書や宗教書も備えた図書館で、業界では知られた存在ですが、さらに知名度を上げるべく「名前だけでも覚えて帰りましょう」と珍しいアピール。

 

国立国会図書館と、官報のブースが背中あわせ。法律関連のリサーチではよくお世話になっています。

 

防災科学技術研究所は、「全国の災害アーカイブ実施図書館」を一覧で紹介。最近の台風や水害の多さをふまえると、タイムリーで重要な課題です。関心のある方は、私が編集で関わった『デジタルアーカイブ・ベーシックス2 災害記録を未来に活かす』もぜひご参照ください。

 

埼玉福祉会は、「読書バリアフリー 何からはじめれば?」のタイトルで、バリアフリー用品や関連書籍などを紹介。読書バリアフリー法が今年6月に施行されたことをふまえ、タイムリーな展示です。

 

変わり種として、公共図書館の「立」の文字の有り無しを研究する個人ブースもありました。「〇〇市図書館」と、「〇〇市”立”図書館」という名称の違いはなぜ生じたのか。図書館の命名の歴史について、図書館資料を手がかりに詳細に分析されていました。

 

 

■企業ブース

企業ブースは十分に回れなかったので、ごく限られた範囲でいくつか挙げておきます。

図書館用品を扱うキハラは、ライブラリーグッズの物販ブースを出展。図書館ではおなじみの「禁帯出」「館内」マークのかわいいバッジも並び、まわりには長い行列ができていました(私も大人買いしました)。

 

蔵書の横断検索サービスを扱うカーリルのコーナーには、クッキースタンドが。「このクッキーは個人情報を収集しません」(笑)

 

倉庫業者の寺田倉庫のブースでは、「外部保管」の4文字が目立ちます。寺田倉庫はデジタルアーカイブ事業も扱っており、VHSのデジタル化なども提案されていました。

 

映像フィルムの保存を扱う足柄製作所は、「フィルムの診療所」事業をスタート。フィルムの現状調査を人間ドックに例えていました。図書館にも意外とフィルムが多くありますね。

 

丸善雄松堂は、アルフォンス・ミュシャのポスターと挿絵本を展示。特に女性が足を止めていました。ミュシャいいですよね。

 

私が個人的に注目したのは、AI・ロボット関連の展示。

京セラコミュニケーションシステムは、「画像解析AIによる蔵書点検システム」のデモを展示。ひょっとしたら将来は、書架にならぶ背表紙を写真に撮るだけで、自動的に蔵書データベースができるようになるのでしょうか。

 

また大日本印刷(DNP)のブースでは、蔵書点検ロボットの実演が。ICタグと自立走行型ロボットにより、蔵書点検とロケーション把握を行います。シンガポールの国立図書館ではすでに実稼働中とのことです。

 

 

■ データアーカイブ関連

図書館は情報のアーカイブ機関でもあるわけで、データアーカイブの試みも見られました。

OpenGLAM JAPANは、「<Open>のための逗留地」と題するブースを設置。

GLAMとは、Gallery、Library、Archive、Museum(ギャラリー、図書館、資料館、博物館)の略で、つまり文化施設を指します(OpenGLAMの原則について詳しくは、東修作氏による翻訳を参照)。

このブースは、東京大学の大向一輝氏と福島幸宏氏が主宰。様々なテーマの企画セッションを次々に開いていました。

私が拝聴できた範囲で紹介しますと、たとえば東京大学地震研究所の加納靖之氏と、国立歴史民俗博物館の橋本雄太氏による「みんなで翻刻」のデモ実演

翻刻については、ちょうど先日、人文学オープンデータ共同利用センターのシンポジウム「AIがくずし字を読む時代がやってきた」も話題になったばかりです(NHKでもニュースになっていました)。

 

他の企画セッションとしては、ウェブメディアの企画やデザインを扱う大橋正司氏は、インフォメーション・アーキテクチャの仕事を紹介(写真なし。スライドはウェブで読めます)。

また、立命館大学ゲーム研究センターの福田一史氏は、図書館目録の国際標準であるRDAとその日本版を使った、ゲームの目録作成と公開について紹介(写真なし。こちらもスライドはウェブで読めます)。

 

データアーカイブ関連では、この「逗留地」ブース以外にも、たとえば国文学研究資料館も出展していましたが、写真を撮り損ねました。いただいた資料には、江戸時代の絵師、中村芳中のかわいい動物が。

 

ちなみに、会場に置かれた「図書館へのおすすめ本コーナー」では、私が責任編集を担当した『デジタルアーカイブ・ベーシックス1 権利処理と法の実務』もありました(写真右上の黄色い表紙の本。置いて下さった方に感謝)。

 

 

■ 図書館の役割と未来の図書館

図書館総合展は、以上の写真からもお分かりのように、展示のテーマが多岐に渡っています。

そして、広くいろいろな展示があるからこそ、逆に「そもそも図書館は何をするところなのか?」という問いが頭に浮かびます。

この問いには様々な答えがあると思いますが、その1つが、図書館総合展でも議論されていました。

すなわち、図書館の役割の一つは、「格差を埋める」ことであると。

 

これは、フォーラム「地域資料とデジタルアーカイブのミッシングリンク-図書館の底力への期待-」のなかで、(ブラタモリでもおなじみの)梅林秀行氏と、上述の福島幸宏氏が語っていたことです。

フォーラムの文字起こしがTRC-ADEACのウェブサイトにアップされているので、そこから一部だけ切り取りましょう(太字は筆者。文脈は原典でお確かめください)。

 

福島氏「社会課題に触れない図書館活動とは何かという問題だろうと思っています。格差を埋めるために図書館は存在する。

(中略)

梅林氏「福島さんのおっしゃったことは端的に言えば文化資本の問題ですよね。世代間で継承される様々な知識・技能について各家庭がプラットフォームになりにくい現状であるならば、図書館がその可能性です。

 

このくだりを聞きながら思い出したのは、今年の夏に満席の岩波ホールで観た、フレデリック・ワイズマン監督の映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』でした。

この映画について書きはじめると、それだけでコラム1本分になりますので、印象的だったシーンを1か所だけ挙げますと、ネット通信の設備を持たない市民のために、図書館がWi-Fiスポットの機器を貸し出していたシーンに驚きました。

 

日米の差は置くとしても、格差を埋める方法は、紙の本を貸すことだけではないはずです。

それは、貧困家庭の学生が勉強するためのテーブルを置くことかもしれませんし、デジタルアーカイブで誰でも資料にアクセスできるようにすることかもしれません(貧困問題への対策も含め、近時の図書館の取り組みを紹介するものとして、とりいそぎ『現代思想』2018年12月号の猪谷千香氏と鎌倉幸子氏の対談を参照)。

 

格差を埋めるために、図書館は何をすればよいのか?

さらに問いを広げると、これからの図書館はどうなるのか?

次回の図書館総合展では、このような「未来の図書館」へのアプローチも見たいところです。