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臨床研究法の概要

臨床研究法,概要

平成29年4月7日、臨床研究法(平成29年法律第16号)が成立し、平成30年4月1日から施行されることになりました。

臨床研究法は、平成25年以降、臨床研究に対する製薬会社等の不適切な関与やデータ改ざん事件が相次いで発覚したことを受け制定されたものですが、単に規制を設けるのではなく、医薬品等の開発に不可欠な臨床研究の萎縮防止にも配慮しつつ、手続の透明性を高めながら、臨床研究を推進させていくことが指向されています。

それでは、臨床研究法の制定により、これからの臨床研究はどのように変わるのでしょうか?

今回のコラムでは、大きく、1)規制対象とされる臨床研究の内容2)臨床研究を実施する際のルール3)臨床研究に対する資金等の提供に関する公表の3つの点ついて、臨床研究法の概要を解説いたします。

 

臨床研究法の目的

まず、中身に入る前に、臨床研究法の目的から見ていくことにしましょう。

臨床研究法第1条では、

この法律は、臨床研究の実施の手続、認定臨床研究審査委員会による審査意見業務の適切な実施のための措置、臨床研究に関する資金等の提供に関する情報の公表の制度等を定めることにより、臨床研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じてその実施を推進し、もって保健衛生の向上に寄与することを目的とする。

と規定されており、手続的規制や臨床研究の質の確保、さらには情報公表制度を設けることにより国民の信頼確保を図ることを通じて臨床研究を推進させていくことが示されています。

このように、臨床研究の萎縮防止に配慮する観点から、手続的規制や手続自体の透明性を確保することにより、臨床研究に対する国民の信頼確保を通じて、臨床研究の推進が指向されている点が臨床研究法の特徴といえます。

 

臨床研究法が規制対象とする「臨床研究」

それでは、臨床研究法は、具体的にどのような「臨床研究」を規制対象としているのでしょうか?

結論から言うと、臨床研究法は、

1)いわゆる「治験」については同法にいう「臨床研究」には含まないと整理したうえで、

2)「臨床研究」のうち「特定臨床研究」に該当するものについては、実施基準の遵守義務を課し、その他の臨床研究については、実施基準遵守の努力義務を課す

という仕組みを採用しています(また、後述のとおり、いわゆる「手術・手技の臨床研究」については、今回の立法化に際しては「臨床研究」には含まないと整理されています)。

臨床研究法,概要

 

このように臨床研究法の規制の仕組みは、やや複雑な構造となっていることから、順を追って1つ1つ見ていくことにしましょう。

まず、臨床研究法は、「臨床研究」について、

医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究(当該研究のうち、当該医薬品等の有効性又は安全性についての試験が、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下この条において「医薬品医療機器等法」という。)第八十条の二第二項に規定する治験に該当するものその他厚生労働省令で定めるものを除く。)をいう。

と定義しており(2条1項)、かっこ書きにおいて、医薬品医療機器等法の治験を含まない旨明記しています。

このため、治験については、臨床研究法の規制対象とはならず、これまでと同様に、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年厚生省令第28号)の適用を受けることになります。

それを前提に、臨床研究法は、臨床研究の萎縮防止という観点から、以下のいずれかに該当する「臨床研究」を「特定臨床研究」としたうえで(法2条2項)、「特定臨床研究」の実施について、臨床研究法に基づく実施基準の遵守等を義務付けています。

1)医薬品等製造販売業者又はその特殊関係者から研究資金等の提供を受けて実施する当該販売業者等の医薬品等の臨床研究(法2条2項1号)

2)医薬品医療機器等法における未承認の医薬品等又は適応外の医薬品等の臨床研究(法2条2項2号)

このように、臨床研究法の適用を考える際には、「特定臨床研究」に該当するかどうかが重要なポイントとなります。

そこで「特定臨床研究」の内容について、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。

まず、1)について、「医薬品等製造販売業者」とは、医薬品等に係る医薬品医療機器等法の製造販売業の許可を受けている者をいい(法2条4項)、「特殊関係者」とは、医薬品等製造販売業者の子会社等(会社法2条第3号の2)の関係にある者をいいます(規則3条)。

また、「研究資金等」とは、「臨床研究の実施のための資金(厚生労働省令で定める利益を含む。)」をいい(法2条2項1号)、「厚生労働省令で定める利益」とは、「臨床研究の実施に係る人件費、実施医療機関の賃借料その他臨床研究の実施に必要な費用に充てられることが確実であると認められる資金」とされます(規則4条)。

法2条2項1号は、製薬会社等からの資金提供等を受けて実施する臨床研究を念頭に置いたものですが、厚生労働省に設置された厚生科学審議会(臨床研究部会)における議論では、実質的に研究に充当される資金によるものは、その名称如何に関わらず「資金提供等」に該当するとされる一方、労務提供や物品提供のみの場合については、これには該当しないと整理されています(詳細は、第2回臨床研究部会:資料4-1)。

次に、2)について、「未承認の医薬品等」とは、医薬品医療機器等法の製造販売の承認・認証・届出が行われていない医療品等のことを指し、また、「適応外の医薬品等」とは、承認・認証・届出されている用法、用量、使用方法等と異なる用法等で用いる医薬品等のことを指します。これらの医薬品等の臨床研究が法2条2項2号が定める「特定臨床研究」に該当することになります。

 

手術・手技の臨床研究について

なお、いわゆる手術・手技の臨床研究については、個別性が高いこと、さらには、EUやアメリカでも原則として規制対象とはされていないことなどを考慮し、今回の立法に際しては、臨床研究法の「臨床研究」には含まれないと整理されています(193回国会衆議院厚生労働委員会議録7号(平成29年3月17日)神田裕二政府参考人答弁参照)。

もっとも、手術・手技の臨床研究についても、研究対象者へのリスクが高いものがあることなどを踏まえ、臨床研究法附則2条1項において、

施行後2年以内に、先端的な科学技術を用いる医療行為その他の必ずしも十分な科学的知見が得られていない医療行為についてその有効性及び安全性を検証するための措置について検討を加え、その結果に基づき、法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする

とされており、今後の動向に注視する必要があります。

 

臨床研究を実施する際のルール

次に、臨床研究を実施する際の具体的なルールについて、見ていくことにしましょう。

臨床研究実施基準

まず、厚生労働大臣は、厚生労働省令で、臨床研究の実施に関する基準(以下「臨床研究実施基準」という。)を定めなければならないとされ(法3条1項)、前述のとおり、特定臨床研究を実施する者に対しては、臨床研究実施基準の遵守義務が、その他の臨床研究を実施する者には、実施基準遵守の努力義務がそれぞれ課されることになります(法4条1項・2項)。

そして、医療研究法においては、臨床研究実施基準について、以下の事項を定めるものとされています(法3条2項)。

1)臨床研究の実施体制に関する事項
2)臨床研究を行う施設の構造設備に関する事項
3)臨床研究の実施状況の確認に関する事項
4)臨床研究の対象者に健康被害が生じた場合の補償及び医療の提供に関する事項
5)特定臨床研究(前条第二項第一号に掲げるものに限る。)に用いる医薬品等の製造販売をし、又はしようとする医薬品等製造販売業者及びその特殊関係者の当該特定臨床研究に対する関与に関する事項
6)その他臨床研究の実施に関し必要な事項

詳細は、規則第8条以下において規定されていますが、基本的には、日本・米国・EU・スイス・カナダの医薬品規制当局と日本・米国・EUの産業界代表で構成された国際会議で策定された国際基準であるICH-GCPに準拠した内容とされており、結果として、特定臨床研究についても、治験と同等の厳格な手続が求められています。

 

特定臨床研究を実施する際の手続

次に、特定臨床研究を実施する際に必要となる手続について、見ていくことにしましょう。

臨床研究法施行後、すなわち平成30年4月1日以後に実施される臨床研究が「特定臨床研修」に該当する場合、概要、以下の手続を履践する必要があります。

①特定臨床研究を実施する者が研究ごとに特定臨床研究の実施に関する計画(実施計画)を作成する
②特定臨床研究を実施する者が実施計画を認定臨床研究審査委員会に提出する
③認定臨床研究審査委員会が提出された実施計画を審査し、特定臨床研究を実施する者に対し、実施計画による特定臨床研究の実施の適否及び実施に当たって留意すべき事項について意見を述べる
④特定臨床研究を実施する者が認定臨床研究審査委員会の意見書を添付して、厚生労働大臣に実施計画を提出する
⑤実施計画を提出した者(「特定臨床研究実施者」)が特定臨床研究を実施する

たとえば、①の実施計画に、具体的にどのような内容を記載する必要があるのかについては、規則39条以下で規定されています。

このように「特定臨床研修」を実施する場合、実施者が作成した実施計画について、臨床研究に関する専門的な知識経験を有するもので構成される認定臨床研究審査委員会審査し、実施の適否及び留意事項について意見を述べたうえで、実施者が当該意見書を添付した実施計画を厚生労働大臣に提出する仕組みが取られています。

臨床研究審査委員会の設置者(病院等の開設者や医学医術に関する学術団体等)は、当該委員会が審査意見業務を適切に実施するための要件に適合していることについて、厚生労働大臣の認定を受けなければならず(法23条1項)、厚生労働大臣は、認定を受けた設置者の氏名等、認定を受けた審査委員会の名称を公示するものとされています(同条5項)。

なお、医療研究法施行の際、現に実施されている特定臨床研究については、附則3条1項で経過措置が設けられているので、そちらをご確認ください。

 

特定臨床研究実施者に対する遵守事項

また、特定臨床研究を実施する者には、以下の事項を遵守することが義務付けられています。

1)臨床研究実施基準の遵守(法4条2項)
2)実施計画の遵守(法7条)
3)適切なインフォームド・コンセントの取得(法9条)
4)特定臨床研究に関する個人情報の保護(法10条)
5)特定臨床研究の対象者の秘密の保護(法11条)
6)特定臨床研究に関する記録の作成・保存(法12条)

いずれも重要であることはもちろんですが、このうち特に注意すべきなのは、3)の適切なインフォームド・コンセントの取得と、6)特定臨床研究に関する記録の作成・保存です。

まず、3)の適切なインフォームド・コンセントの取得について、法9条において、概要、

特定臨床研究を実施する者は、当該特定臨床研究の対象者に対し、あらかじめ、当該特定臨床研究の目的及び内容並びにこれに用いる医薬品等の概要、当該医薬品等の製造販売する製薬企業等から研究資金等の提供を受けて実施する場合には、当該製薬企業等との契約の内容等について、厚生労働省令で定めるところにより説明を行い、その同意を得なければならない。ただし、疾病等の事由により特定臨床研究対象者の同意を得ることが困難な場合は、当該対象の配偶者、親権者等に説明を行い、その同意を得ることで足りる

旨規定したうえで、より詳細な内容・手続を規則46条以下で規定しています。

このため、特定臨床研究を実施する際には、当該臨床研究の対象者に対し、法及び規則で定められた事項を踏まえ、インフォームド・コンセントの取得を行う必要があります。

また、6)特定臨床研究に関する記録の作成・保存については、規則53条で詳細を規定するとともに、違反行為について罰則の適用まで規定している点に注意が必要です(法41条3号)。

手続や義務に違反した場合

そのうえで、医療研究法は、上記規制枠組みの実効性を確保する観点から、これらの手続や遵守事項(義務)について違反が疑われる場合、厚生労働大臣は、特定臨床研究を実施する者に対して報告徴収・立入検査を行い(法35条1項)、違反の事実が判明すれば改善命令により是正を求め(法20条1項)、この命令に従わない場合には研究の停止命令を行い(法20条2項)、さらにこれに従わない場合には罰則を科すという段階的な仕組みを設けています(法41条4号)。

重篤な疾病等が発生した場合の報告

なお、特定臨床研究を実施する者に対しては、特定臨床研究に起因すると疑われる疾病等が発生した場合、認定臨床研究審査委員会に報告して意見を聴くとともに、厚生労働大臣にも報告することが義務付けられています(法13条、14条)。

 

臨床研究に関する資金等の提供

最後に、医療研究法において設けられた臨床研究に関する資金等の提供に係るルールについて、その概要を見ていくことにしましょう。

契約の締結と研究資金等の提供に関する情報等の公表

まず、医療研究法は、32条において、製薬企業等が、特定臨床研究を実施する者に対し、自社製品の医薬品等を用いる特定臨床研究についての研究資金等の提供を行うときは、特定臨床研究を実施する者との間で、契約資金の額及び内容、当該特定臨床研究の内容その他厚生労働省令で定める事項を定める契約の締結を義務付けています。

そのうえで、規則88条においては、上記契約で定める事項として、以下の事項を定めています。

①契約を締結した年月日
②特定臨床研究の実施期間
③研究資金等の提供を行う医薬品等製造販売業者又はその特殊関係者の名称及び所在地並びに実施医療機関の名称及び所在地
④研究責任医師及び研究代表医師の氏名
⑤研究資金等の支払いの時期
⑥法第33条に定める研究資金等の提供に関する情報等の公表に関する事項
⑦特定臨床研究の成果の取扱いに関する事項
⑧医薬品等の副作用、有効性及び安全性に関する情報の提供に関する事項
⑨厚生労働省が整備するデータベースへの記録による公表に関する事項
⑩特定臨床研究の対象者に健康被害が生じた場合の補償及び医療の提供に関する事項
⑪利益相反管理基準及び利益相反管理計画の作成等に関する事項
⑫研究の管理等を行う団体における実施医療機関に対する研究資金等の提供に係る情報の提供に関する事項(当該団体と契約を締結する場合に限る)
⑬その他研究資金等の提供に必要な事項

また、33条では、研究資金等の提供に関する情報等の公表を定めています。

すなわち、製薬企業等は、自社製品の医薬品等を用いる特定臨床研究についての研究資金等の提供に関する情報のほか、特定臨床研究を実施する者又は当該者と厚生労働省令で定める特殊の関係のある者に対する金銭その他の利益(研究資金等を除く)の提供に関する情報であってその透明性を確保することが特定臨床研究に対する国民の信頼の確保に資するものとして厚生労働省令で定める情報について、インターネットの利用等の方法により公表しなければならないとされています。

契約の締結(法32条)と研究資金等の提供に関する情報等の公表(法33条)は、いずれも特定臨床研究に対する製薬企業等の関与の透明性を確保し、もって国民の信頼確保を図るために設けられたものです。

 

特殊の関係のある者の範囲と具体的な公表事項等

それでは、研究資金等の提供に関する情報等の公表について、特殊の関係にある者とは具体的にどの範囲を言い、また、どの範囲の情報を公表する必要があるのでしょうか?

まず、特殊の関係にある者について、規則89条では、次に掲げるものとしています。

(1)特定臨床研究を実施する研究責任医師が所属する以下の機関
  ア 医療機関
  イ 大学その他の研究機関
  ウ 一般社団法人、一般財団法人及び特定非営利活動法人等

(2)研究の管理等を行う団体(研究資金等の管理をする団体、臨床研究の支援や受託、複数の実施医療機関の事務を統括管理する団体)   

次に、公表すべき事項について、規則90条では、以下の(1)から(3)について、以下の内容を規定しています。

(1)研究資金等(研究の管理等を行う団体が実施医療機関に対し提供した研究資金等を含む)

・厚生労働省が整備するデーターベースに記録される識別番号
・提供先
・実施医療機関
・各特定臨床研究における研究の管理等を行う団体
   及び実施医療機関ごとの契約件数
・各特定臨床研究における研究の管理等を行う団体
   及び実施医療機関ごとの研究資金等の総額

(2)寄付金(特定臨床研究の実施期間・終了後2年以内に研究責任医師が所属する機関に提供したものを含み、特定臨床研究を実施する研究責任医師に提供されないことが確実であると認められるものを除く)。

・提供先
・提供先ごとの契約件数
・提供先ごとの提供総額

(3)原稿執筆及び講演その他の業務に対する報酬(特定臨床研究の実施期間・終了後2年以内に研究責任医師に提供したものを含む)。

・業務を行う研究責任医師の氏名
・研究責任医師ごとの業務件数
・研究責任医師ごとの業務に対する報酬の総額

そのうえで、規則91条では、法33条による公表は、毎事業年度終了後1年以内に行わなければならないこと及び公表する期間は公表後5年間とする旨規定されています。

なお、経過措置として、医薬品等製造販売業者等の研究資金等の提供に関する情報等の公表については、平成30年10月1日以後に開始する事業年度から適用するとされていることにも注意が必要です(附則第3条)。

 

おわりに

医療研究法の制定により、これまで倫理指針に基づいて行われてた治験以外の臨床研究に対し、はじめて法的な規制が設けられることになりました。

もっとも、医薬品等の開発には臨床研究が不可欠であり、臨床医療法の制定・施行により、臨床研究が停滞してしまったり、過度の萎縮を招いてしまっては本末転倒です。

臨床研究の停滞、過度の萎縮を避け、臨床研究や産学連携を推進させるためにも、医療研究法を正しく理解し、遵守することが不可欠です。

本コラムが読者の皆様の理解の一助となれば幸いです。