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ダンスアーカイブの現在と未来


こんにちは。
本日は、今年最後のコラムをお届けします。
テーマは、「ダンス」の「アーカイブ」です。

年の瀬に、関係者の方からご案内を頂き、音楽とダンス(舞踏)のパフォーマンスを観る機会に恵まれました。

私が観たのは、天王洲アイルの寺田倉庫で開催された、
「Dance Archive Project in Tokyo 2017」のうち、
大野慶人×アノーニ「たしかな心と眼」のセッション。

これは、舞踏家の大野慶人氏と、ミュージシャンのアノーニ氏のコラボレーション企画です。
 


大野慶人氏は、土方巽氏らとともに現代舞踏を確立した大野一雄氏のご子息で、86年以降の一雄氏の全作品を演出し、自身も舞踏家として活動されています(御年79歳)。

一方のアノーニ氏は、かつてアントニー&ザ・ジョンソンズで、アントニーの名義で活動していたミュージシャン。
"天使のような"とも形容されるファルセット・ヴォイスは、ルー・リードやビョークらのミュージシャンをも魅了してきました。
アントニー氏は、自身がトランスジェンダーであることを公表しており、2016年にアノーニ名義に改名して活動を続けています。

では、どうしてイギリスのミュージシャンと、日本の舞踏家がコラボレーションに至ったのか?

アノーニ氏は、かねてより大野一雄氏を敬愛しており、2009年のアルバム『The Crying Light』のジャケットでも大野一雄氏のポートレートを使用していました。
 


その縁から、アノーニ氏と大野慶人氏は過去にも共演を果たしており、今回が7年ぶりのコラボレーションとなります。

 

そんな7年ぶりの再会を待ちわびた観客で、会場は超満員。
息をひそめて開演を待ちます。

いよいよ開始時間になると、全身白塗りの大野慶人氏がおもむろに現れ、ピアノの前に立って、「アノーニ、アノーニ・・」と静かに呼びかけます。
そこにアノーニ氏も現れて、ピアノに座って・・・

 

そこからの2人のパフォーマンスは、圧巻の一言でした。
アノーニ氏の、空間を震わすファルセット。
大野氏の、体を動かすほどにかえって繊細さが際立つ舞い。
1時間強の舞台に、みな目を逸らせませんでした。

終演後には、割れんばかりのスタンディング・オベーション。
2人の7年ぶりの再会は、これ以上ない形で実現しました。
 


終演後には、ライブの感銘もまだ冷めない中で、会場を一巡してみました。

そもそもこのイベントは、現代の舞踏文化を次世代に継承することを目指す、ダンス・アーカイブのプロジェクトの1つです。

会場には、主催者の「NPO法人ダンスアーカイヴ構想」による展示もありました。
 


中でも特に気になったのが、VRによる展示です。
 


会場に設置されたゴーグルをつけると、VR空間のすぐ目の前に、ポリゴン状の大野氏が現れて、舞踏を披露します(下記の写真のPC画面を参照)。
 


非常に興味深い試みです。

思えば、ダンスという、動きをともなうアートの「記録」と「再現」には、特有の難しさがあります。

以前に書いたデジタルアーカイブ学会の記事で、多方向同時撮影について少し触れましたが、ダンスのように空間を使った3次元のパフォーマンスを正確に保存するには、テキストや映画の保存とは異なり、まずは様々な方向から、動きそれ自体を「記録」する必要があります。

このようなアーカイブの方法論については、様々な議論があるところですが、例えば、映画・メディア・知覚研究の平倉圭先生が、最近Twitterで下記のように書かれていたことが、一つの方向性になるように思われます。

平倉圭氏Twitter  2017年12月1日付

「ダンスのアーカイブは、まずはその時点で使える最高解像度の映像を残すのが先決だと思う。現時点で分解できなくても今後かならず分解可能になる身体の思考が膨大にある。それは「写る」(写ったものからいつか解析できる)。それは作り手の意識的思考(言葉や指示で外化されるもの)を超えている。」


上記のTwitterのレス欄でもすでに議論されていますが、ダンスのアーカイブに際しては、まずは解像度の高い映像を撮って、3Dモーションキャプチャーにデータ変換して、そのデータ保存すること、それが「身体の思考」を後世に残すための出発点になるでしょう。

 

ビジネスのフィールドに目を転じると、例えばZOZOSUITを使えば誰でも簡単に身体の採寸ができてしまう時代に、ダンスのアーカイブにおいてどのような技術を使って、どのように(経済的コストも考えつつ)身体の記録を残してゆけばよいのか。

そしてそのデータをどのように「再現」して、後世の人に知覚させるのか。

アーカイブに残された未来の課題をめぐって、ダンスアーカイヴ構想や、寺田倉庫の試みには引き続き注目したいと思います。

弁護士 数藤 雅彦