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映画ビジネスとJASRACの使用料規程


こんにちは。
今日のコラムは、いま話題の、映画とJASRACの話です。

JASRACは先日、映画音楽の上映権の使用料を引き上げたい意向を発表しました。
このニュースは盛んに報道され、映画関係者らを中心に、大きな議論をよんでいるところです。


まずは、事実を正確におさえておきましょう。
新聞報道をふまえると、JASRACの主張は次のように要約できます。

【JASRACの主張の要点】

(1) 現在、外国映画を上映する際の使用料は、興行収入の大小にかかわらず、1作品あたり定額で18万円である(2014年の国内外作品の興行収入比で0.08%相当)。この使用料は、過去に全興連(映画館が加盟する団体)との協議で定めたものである。

(2) もっとも、欧州では、興行収入に比例する利用料が定められている国がある。料率は英国で1%、フランスで2%と、日本より高額である。そのため、JASRACは、海外の著作権管理団体などから、徴収額を上げるよう求められてきた。

(3) そこで、JASRACは6年前から、料率の引き上げのため、全興連と協議を続けてきた。最終的には、興行収入の1〜2%を目指したい意向だが、まずは段階的な対応を検討中である。

(4) また、これまで上映使用料は配給業者が支払ってきたところ、支払う者を劇場に変えたい。

(5) 今後は日本映画についても、支払主体を劇場に変え、興行収入に応じた徴収額にしたい。


このニュースについてはすでに様々な議論があるようです。

もっとも、話の前提として、

・「配給業者」と「劇場」はどう違うのか?

・もし業界団体との協議がまとまらなければ、JASRACは独断で料率を決められるのか?

という2点については、あまり解説されておらず、一般の方にはイメージしづらいかと思います。
そこで、本コラムでは、この2点に絞って、ポイントを解説します。
 


「配給業者」と「劇場」の違い


そもそも、「配給業者」と「劇場(映画館)」はどう違うのでしょうか?

読者の多くにとって、映画は観るもので、作るものではありません。
映画の"後ろ側"がどうなっているか、詳しくご存じでない方も多いと思います。
そこで、まずは映画のビジネスモデルを概観します。


映画ビジネスは、ざっくり大きく整理すると、
製作」→「配給」→「興行
の3つのプロセスから成ります。

ごく簡単に説明しますと、

製作」は、資金を集めて映画を撮って、作品それ自体を完成させるプロセスです。
配給」は、完成した作品を宣伝するプロセスです。
興行」は、映画館(劇場)がフィルムを配給会社から借りて、上映するプロセスです。


イメージを持っていただくため、(少し古い図ですが)経済産業省がインターネット上で公表した資料から2点引用しましょう。

(「映画産業の現状と課題について」(2003年)4頁の図から部分引用)

 

(「映画産業ビジネスモデル研究会報告書」(2009年)付属資料ⅰ頁から孫引き)

(なお、映画ビジネスをめぐる法律については、12月に実施するセミナーにて詳しく解説する予定ですので、ご関心ある方はお越しください)

 

そして、今回のJASRACの主張をみると、

・法的に使用料の支払義務があるのは、映画上映の直接の主体である劇場経営者である。

・映画の製作・配給業者は、劇場に代わって支払の手続をする立場にすぎない。

と述べられています(参照、JASRACウェブサイト内「映画上映と音楽著作権について(Q&A)」のQ2)。

 

もっとも、今なぜ、劇場からの徴収に移行するのでしょう?
その理由については、具体的には述べられていないようです。

もし現状で円滑な徴収が実現できているのであれば、あえて徴収先を変更する必要はないようにも思えます。
そのため、推測になりますが、

・かつては配給会社も、大手製作会社の配給部門(東宝、松竹、東映等)で寡占状態だったため、徴収に差し支えがなかったが、現在は中小の配給会社も存在し、徴収が円滑に進まない例があり得ることや、

・例えばODS(映画以外のコンテンツを映画館で上映すること)のように、従来と異なる上映スタイルが見られるため、配給会社のみから使用料を徴収することが困難になったこと

などの点が、背景として想像できるところです(参照、キネマ旬報映画総合研究所「映画における音楽著作権料」)。
 


JASRACは独断で利用料を決められるのか


以上の前提もふまえたうえで、今後の展開について考えてみましょう。

JASRACは、全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)との間で、6年間にわたって使用料の交渉を行ってきたと報道されています。

しかし、もしこの協議がまとまらなければ、どうなるのでしょうか?
法律の規定を見ながら考えてみましょう。

 

JASRACが使用料を徴収できる根拠については、「著作権法管理事業法」という法律で定められています。

JASRACは、法律上の「著作権等管理事業者」に該当し、音楽の権利者から著作権等の移転を受けて、自らその管理を行っています(この、著作権等そのものをJASRACに移す点に特徴があり、「信託」と呼ばれます)。

(定義)
第二条 この法律において「管理委託契約」とは、次に掲げる契約であって、受託者による著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(中略)の利用の許諾に際して委託者(中略)が使用料の額を決定することとされているもの以外のものをいう。
一 委託者が受託者に著作権又は著作隣接権(中略)を移転し、著作物等の利用の許諾その他の当該著作権等の管理を行わせることを目的とする信託契約
(中略)
2 この法律において「著作権等管理事業」とは、管理委託契約(中略)に基づき著作物等の利用の許諾その他の著作権等の管理を行う行為であって、業として行うものをいう。
3 この法律において「著作権等管理事業者」とは、次条の登録を受けて著作権等管理事業を行う者をいう。


そして、JASRACは、著作物等の使用料等について、「使用料規程」を定め、公表する義務があります。

(使用料規程)
第十三条 著作権等管理事業者は、次に掲げる事項を記載した使用料規程を定め、あらかじめ、文化庁長官に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
一 文部科学省令で定める基準に従い定める利用区分(中略)ごとの著作物等の使用料の額
二 実施の日
三 その他文部科学省令で定める事項
(中略)
3 著作権等管理事業者は、第一項の規定による届出をしたときは、遅滞なく、その届出に係る使用料規程の概要を公表しなければならない。


実際に公表された、JASRACの「使用料規程」をみると、映画の上映に関する使用料については、次のように定められています。

一般社団法人日本音楽著作権協会「使用料規程(平成28年6月24日届出版)」66頁より

第3節 映画
(中略)

2 上映 
(中略)
(4) 生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律第 53 条により組織された 興行場営業に係る生活衛生同業組合連合会(以下「連合会」という。)が、会員たる組合の組合員のために映画の上映について契約を締結する場合の当該映画の上映使用料は、プリント1本につき録音使用料の20/100の範囲内において、連合会と協議のうえ定めるものとする。 


冒頭でも述べましたように、JASRACはこの規定に基づき、全興連と協議して映画の上映使用料を定め、運用しています。

では、この使用料規程を変更するにはどうすればよいのでしょうか?
著作権等管理事業法13条2項では、次のように定められています。

2 著作権等管理事業者は、使用料規程を定め、又は変更しようとするときは、利用者又はその団体からあらかじめ意見を聴取するように努めなければならない


つまり、JASRACが、映画の利用団体などからあらかじめ意見を聴取するという、努力義務のみが課されています(このように、意見聴取の努力義務だけが定められている理由としては、管理事業者の中には小規模のものも存在することや、利用者団体が存在しない場合があることなどが挙げられています)。

そのため、JASRACが利用者団体と協議するなどして、意見を聴取しさえすれば、自らの判断で使用料規程を変更しようとすることも(法的には)可能です。

【2017/11/21追記】 なお、全興連会長の大蔵満彦氏は、2013年のインタビューで、全興連とJASRACの契約は、双方の合意がないと変更できない内容であるという旨の解釈を示しています(月刊文化通信ジャーナル2013年8月号40頁以下)。本コラム筆者は、この契約の原文を確認できていないため、ここでは著作権等管理事業法の規定の解説にとどめます。)


報道によると、JASRACは6年間にわたって全興連と協議を続けてきたということですので、(協議の内容次第ではありますが)意見を聴取する努力義務は尽くされたという判断もあり得ます(そのような背景をふまえて、JASRACが今回の発表に踏み切った、とみることもできます)。


この著作権等管理事業法と関連法令には、他にも解説したい条文がいろいろありますが(例えば、使用料が「著しく高い」と判断された場合の措置など)、ひとまずこのコラムでは、JASRACが利用者団体からの意見聴取に努めれば、使用料規程を変更することができるという点を指摘しておきます。
 


おわりに 〜 権利者と利用者の「調整」に向けて


以上、今回のニュースの前提となる知識について簡単に解説しました。

JASRACの今回の主張に対しては、映画関係者から「小さな映画館にとっては死活問題だ」という指摘もあるようです。

他方で、JASRACに委託している音楽家の立場からすると、どれだけ映画がヒットして、自分の音楽が多数回利用されても使用料(ひいては自分のロイヤルティ)が増えないという現状には、再考の余地もあるように思われます。


ネット上の議論には、JASRACという組織に対する感情的な反発も散見されますが、使用料の金額換算の面については、できる限りの実証データ(特に2011年頃のデジタルシネマ導入後における、小規模な配給会社や映画館の費用負担の現実)をふまえつつ、利用者と権利者のバランスを目指した議論がなされることが望まれます。

弁護士 数藤 雅彦

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