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ネット上に拡散された前科・逮捕報道の削除請求


こんにちは。

今日のコラムでは、インターネット上の記事や、検索結果の削除請求について解説します。
とくに、「前科」や「逮捕」報道の削除の話がメインです。

インターネット上には、何年も前の前科・逮捕報道が、いつまでも残っているケースがみられます。

冤罪であった場合はもちろん、犯した罪を真摯に反省し、更生して社会復帰しようとした場合でも、就職活動や結婚、子育ての際に、そのような検索結果が重い足かせになってしまいます。

 

記事の削除請求


新聞社のウェブサイトや、TV局のサイトでは、犯罪者の更生やプライバシーに配慮して、逮捕から一定期間が経過すると、自主的に記事を削除する傾向にあります。

しかし、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)や、2ちゃんねるのコピーサイト(ミラーサイト)ニュースサイト一般のブログなどに転載されてしまった記事については、自主的な削除がなされず、記事が残り続けることが多くあります。

当事務所(五常法律会計事務所)では、2ch.net(現5ch.net)や2ちゃんねるのコピーサイト、キュレーションメディア、一般人のブログやウェブサイト等に対して多数の削除実績がございますので、ご自身で削除請求ができなかった方は、お問い合わせフォームからご相談ください。

本コラムではとりいそぎ、Googleなどの「検索結果」の削除にあたっての注意点を解説します。

 

Googleなどの検索結果の削除請求


前科や逮捕の報道が掲載された元サイトを削除しても、GoogleやYahoo!の検索結果はなお残っているケースがあります。

たしかに、Googleのような検索事業者は、検索結果を提供するという表現の自由を一定の範囲で有しています。また、現代社会において、検索結果が、インターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしているのも事実です。

しかし他方で、過去に罪を犯した人にも、更生を妨げられない権利や、プライバシーの権利があります。

そこで、Googleの検索結果を削除できるのはどのような場合なのか、これまで裁判所で争われてきました。

そして、今年1月に最高裁の決定が出されました。

 

最高裁決定(H29.1.31)の内容


この最高裁のケースは、

・児童売春の被疑事実に基づいて、いわゆる児童売春・児童ポルノ禁止法違反の容疑で平成23年に逮捕され、罰金刑に処された原告が、

・平成27年時点においても、Google検索で自分の名前と県名で検索すると、被疑事実が書かれたウェブサイトのURL等が多数表示されたため、

検索結果の削除を求めた事案です。

最高裁は、様々な考慮要素を比較衡量したうえで、「事実を公表されない法的利益」が、URL等の情報を検索結果として提供する理由に比べて「優越することが明らか」な場合に削除を求めることができると判断しました(平成29年1月31日第三小法廷決定。平成28年(許)第45号)。

詳しい判決文をみると、以下の通りです(下線部は筆者)。

検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。


この最高裁の判断方法については議論がありますが、とりいそぎこの決定をふまえると、削除にあたってどのような点に注意すべきでしょうか?

 

最高裁決定のポイント


最高裁は、検索結果の削除請求が認められるか否かの判断基準として、次の6つのポイント(考慮要素)を挙げています(以下では要点のみを短くまとめます)。

(1) 事実の性質及び内容
(2) 伝達範囲と被害の程度
(3) 社会的地位・影響力
(4) 記事の目的や意義
(5) 記事掲載時の社会的状況とその後の変化
(6) 記事で事実を記載する必要性

そして、この事案においては、各ポイントについて以下のように指摘し、事実を公表されない法的事実が優越することが明らかとはいえない(=削除請求は認められない)と判断しました。

(1) 事実の性質及び内容
→ 児童売春(=児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されている)

(2) 伝達範囲と被害の程度
→ 氏名と、居住する県名で検索した場合の検索結果である(=事実が伝達される程度はある程度限られている)

(3) 社会的地位・影響力
→ 妻子と生活。民間企業で稼働

(4) 記事の目的や意義
→ 具体的な検討なし

(5) 記事掲載時の社会的状況とその後の変化
→ 5年経過(※ 児童売春の公訴時効は5年)

(6) 記事で事実を記載する必要性
→ 具体的な検討なし


この事件で特殊だった点としては、前科が児童売春に関する被疑事実だったという点と、「氏名+県名」で検索した結果が問題になったという点が挙げられます。

そのため、もし児童売春のような罪でなく、いわゆる被害者のいないタイプの犯罪(一人で薬物所持・摂取など)であった場合や、氏名だけの検索でGoogle検索のトップページに前科が表示された場合などは、削除が認められる可能性も考えられます。

また、前科から何年経過したかという「時の経過」も、結論を左右し得るものと思われます。

 

検索結果の削除が認められた裁判例


現に、別の事件をみると、

・児童売春のように未成年者の被害者を想定したものではない前科で、
判決から13年以上刑の執行終了時から10年以上が経過しており、
・前科が婚約相手に伝わり、婚約破棄に結びついた

等の事情がある事案において、地裁の仮処分ではありますが、Googleの検索結果の削除の削除が認められたケースもあります(福岡地裁平成28年10月7日決定〔確定〕。判例時報2331号67頁参照)。

 

終わりに


このように、前科や逮捕報道の削除に関しては、裁判所による判断基準はなお固まりきったわけではありません。

また、そもそも裁判によらずとも、弁護士が交渉した場合には、任意の交渉だけで削除が完了するケースも多くあります。
(このコラムでは、特に前科や逮捕報道について解説しましたが、名誉毀損など、他の違法事由の場合でも、弁護士による削除交渉が有効な場合があります)。


お悩みの方は、お問い合わせフォームから一度ご相談ください。

弁護士 数藤 雅彦

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