※ この記事は、「アーカイブサミット2017に参加しました(前編:1日目)」の続編です。
「アーカイブサミット2017 in 京都」2日目です。
この日も京都は、朝から真夏のような晴天でした。
2日目の朝は、ミニシンポジウムからスタートしました。
ミニシンポジウム
ミニシンポジウムは、2つの会場で、以下の2種類が同時に開かれました。
1 「届く、使うデジタルアーカイブ」
ユーザ視点からのアーカイブ利用について議論します。
登壇者:
・梅林秀行氏(京都高低差崖会崖長)
・沢辺均氏(openBDプロジェクト・版元ドットコム・ポット出版代表)
・松田法子氏(京都府立大学講師)
2 「クールジャパンの資源化について」
マンガ・アニメ・ゲームなどのコンテンツについて議論します。
登壇者:
・佐藤守弘氏(京都精華大学教授)
・細井浩一氏(立命館大学教授、アート・リサーチセンター長)
・森川嘉一郎氏(明治大学准教授)
・吉田力雄氏(日本動画協会副理事長、トムス・エンタテインメント特別顧問)
私(数藤)は、2「クールジャパンの資源化について」を聴講しました。
以下、各登壇者の発表につき、私のメモを基にした要約です。
(※以下の記載はいずれも、筆者のメモを基にした要約です。要約内容が不適切な箇所や、要約行為それ自体を希望されない箇所等がございましたら、お手数ではございますが、当サイトのお問い合わせフォームからご連絡を頂けますと幸いです。)
佐藤守弘氏(京都精華大学教授)
・ロンドンでは、サブカルチャーも観光資源に活かされている。例えば、街で見かけたロックバンドのザ・ジャムのコレクション。あるいは、ロンドンオリンピックの閉会式では、モンティ・パイソンに言及があり、モッズのスクーター・ランが行われた。クール・ブリタニアがある意味で成功していると思われた。ヴィクトリア&アルバート・ミュージアムでは、サブカルチャーコレクションも設けられている。
・ただし、一部では違和感も表明されている。例えば昨年「パンク・ロンドン」企画が開かれ、ロンドン市長もバックアップした。それに対して、「ロンドン・パンクを焼け」事件(マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウェストウッドの息子、ジョセフ・コーが、自ら所有する数億円とも言われるパンクコレクションを焼き捨てる事件)があった。これは一研究者としては、文化破壊的行為と感じる。他方で、そもそもエフェメラル(ephemeral)なこと=ある時期だけ意義をもった事象をコレクションするのはどのような意味があるのか? ポピュラーカルチャーを保存することへの違和感の表明とも見ることができる。
・「クール・ジャパン」の定義はあいまいだが(政府は、能や狂言までクールジャパンと言う)、ここではマンガ、アニメ、ゲームの3点から議論する。
・マンガ、アニメ、ゲームは、メディア/メディウムの特性に差異がある(例えば、マンガは本の媒体であり、アーカイブの先行例として図書館があるが、ゲーム=プログラムには先行例はない)。そして、近年では、物理的保存に加えて、デジタル媒体に保存が一元化されることで、メディア・コンバージェンスし得るという特性もある。
森川嘉一郎氏(明治大学准教授)
・明治大学のアーカイブ施設「東京国際マンガ図書館」を準備中。先行して、米沢嘉博記念図書館を公開した。
・マンガ・アニメ・ゲームのアーカイブの課題を考えると、
(1) 理論・理念的課題(アニメやゲームの定義や関連資料の定義)、
(2) 制度・組織・財政的課題(設置・運営主体、財源、場所、人材とその育成)、
(3) 技術的課題(保存法、データベースの設計)がある。
そして現在は、(2)が重要と思われる。
・財政面について、クラウドファンディングを提案する人もいるが、アーカイブは継続的なものなので、一時的なクラウドファンディングでは不十分と思われる。・以下、3つのテーマをそれぞれ掘り下げる。まず(1)理論・理念的課題について。
・(1)-1:同人誌。公的な資金で同人誌をアーカイブするためにはなお議論が必要。もっとも、ガンダムの時代から、二次創作同人誌の影響が一次創作にも反映される例がある(敵役の男性が美形に描かれたり、シャワーシーンが出てくる等)。そのため、二次創作の歴史は、一次創作を分析する上でも重要。
・コミケは25年にわたり、歴代の同人誌を収集してきており、計200万点に及ぶ(年間8万点程度。それに対して、商業漫画は年間1万点強にすぎない)。・次に(1)-2:原画類について。全部を保存しきれないとすると、どういう仕組みで選別するのか。ドイツ・アメリカで開かれた「Anime! High Art-Pop Culture」展のパンフレットをみると、戦前からのセル画類も多数掲載されている。しかも、複数の権利元にまたがった内容が掲載されている。クレジットをみると、個人コレクターにコンタクトした可能性が窺われる。このように、海外にセル画が流出しており、日本では不可能な展示がすでに海外で実現している。
・(1)-3。メディアミックスについて。著名な例として「ひみつのアッコちゃん」(1969年)のコンパクトがある。原作漫画では卓上の鏡だったが、スポンサーが、鏡をコンパクトにしてほしいという要望し、かつコンパクトを商品化してベストセラーにした。そこからアイテム化のスキームが生まれた。それ以降、プリキュアに至るまで全く同じことが続けられている。アニメが本体で、グッズがサブと捉えられがちだが、社会現象としては、グッズがメインで、アニメが関連映像と見ることもできる。このグッズのアーカイブがないと、なぜ日本で魔法少女ものアニメが延々作られてきたかがわからない(同様のことは、超合金マジンガーZに始まるロボットアニメの歴史にも言える)。しかし、関連商品をアーカイブするのは大変な作業となる。
次に(2)制度・組織・財政的課題について。
・最近、マンガ・アニメ議連が話題になった。国立「MANGA図書館」の計画がある。国立国会図書館の支部と位置づける予定。国会図書館では、著作権法上、デジタル化する権利も与えられている。
・クールジャパン戦略推進匿名委員会提言。「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)を紹介。
・2017年6月の国会で、「文化芸術振興基本法の一部を改正する法律」が滑り込みで入った。条文文言に、「メディア芸術の制作等に係る物品の保存への支援」が追加された。
・現時点の最新情報としては、MANGA議連で、MANGAナショナル・センター整備推進法案が議論されている。
吉田力雄氏(日本動画協会副理事長、トムス・エンタテインメント特別顧問)
「アニメーションにおけるデジタル保存の現況と取り組み・展望」
・日本の商業アニメーションが初めて常設映画館で公開されたのは1917年。それ以降制作された作品は、約12,000にのぼる。
・デジタル化以前のアニメは、手描きのセル画を1コマごとフィルム撮影していた。それらの素材を各社で保管しているのが現状。
・なぜセル画のような中間成果物を保存するのか。理由は、完成素材が紛失・消去されても、再び同じものを生成できるから。4K、8Kにも対応できる。
・保存方法は紙、音などでそれぞれ異なる。詳細な保存方法については、プロダクションI.G.の山川氏が整理して発表されているので、そちらを参照。・問題点として、業界で保存形式が統一されていない点がある。利活用を目的とした、会社内でのアーカイブ方針を定める必要がある。
・今後の課題として、ボーンデジタル作品のマスター管理の問題がある。昨今は製作委員会方式が多く、適切な保管場所、マイグレーション、経費の問題が詰められていない。
・展望として、「データベース・アーカイブ委員会」の発足と取組みがある。日本動画協会では取組みを進めている。現状は、原版、成果物がバラバラなので、業界としてのアーカイブ・フォーマットの共通化が必要(画像・メタデータ)。・メディアミックスは、今のところリターンが少ない状況。
・問題点として、会社買収の際に、アニメを理解しない新経営者から、フィルムを捨てるよう指示されることもある。フィルムへの理解を高める必要がある。
・「アニメNEXT100」で、日本のアニメーション大全、アニメーションデータベースを少しずつ準備している。
細井浩一氏(立命館大学教授、アート・リサーチセンター長)
「ゲーム保存:誰が、何を、どのように保存すべきか -立命館大学の取り組みを通じて-」
・ゲームのアーカイブは、テクノロジーが加わってくるところが大きいという点で特殊。
・ゲームはほとんどボーンデジタル。
・アーカイブ化の協力を仰ぐにあたって、関係者に対し、「資源化」という言い方をしてしまうと、「資源とは何事か」「愛はあるのか」と言われがちなので注意が必要。
・ゲームの保存のために、「ゲーム・アーカイブプロジェクト」を1998年に起こした。「立命館大学ゲーム研究センター」は2011年から。・始まり(1998-2006)。任天堂の一担当者の理解をきっかけに、アーカイブを始めることができた。セガからも寄贈があった。
・まずは現物(資料)保存が重要。ファミコンは、接合部分が15年でダメになると言われた。そこでエミュレータ保存を考えた。当時は、エミュレータというと犯罪者扱いされたが、交渉して許諾をいただいた。
・ビデオ保存も必要。ゲームプレイの全体を保存する。シーンごとのボタンの操作履歴も記録する。・現在まで(2007-)。上記の現物保存、エミュレータ、プレイ映像記録に加えて、オーラルヒストリーも加えた。
・所蔵資料として、家庭用ゲームソフト8,000点、家庭用ゲームハード80点、関連資料(書籍・雑誌)4,000点がある。
・最近では、プレイ画面に、ユーザーの姿態を正面から撮った動画も入れるようになった。本当はプレイヤーの喜怒哀楽も撮りたいが、プレイに集中して無表情の場合が多い。
・なお、フランスとドイツと日本のプレイ動画を比較したところ、スーパーマリオの遊び方が全然違うことがわかった。押すボタンが違う。文化性の違いがあるのかもしれない。
・医学関係者によると、最近の病院では、子供にも老人にもゲーム性を持たせている。また、腱鞘炎になりやすいゲームとそうでないゲームもすぐわかるため、その方向からの研究も深めたい。
・日本の各施設では、ゲームの所蔵はほとんど存在しない。今後、世界中で同様の調査をしている研究者たちと連携する必要がある。
午後の部〜主催者挨拶、来賓挨拶
午前のシンポジウムを終えて、午後は、隣の建物にある歴彩館の大ホールに移動です。
午後の部では、まず、長尾真氏(アーカイブサミット組織委員長、京都府公立大学法人理事長)による主催者挨拶、山内修一氏(京都府副知事)と門川大作氏(京都市長)による来賓挨拶がありました。
基調講演
続いて、御厨貴氏(東京大学名誉教授)による基調講演「アーカイブの視点から見ると世界が変わる」です。
以下は、私のメモを基にした要約です。
・専門である歴史学の観点から見る。
・まずは、明治の政治家の書簡の話題から。まだ駆け出しの歴史学者だった頃、研究のために書簡の現物を見る機会があった。当時は、国会図書館で、生のものを触ることができた。生のものを見るのは大事。研究対象者の人となりがわかる。紙の折り方からして違う。いちばん几帳面だったのは伊藤博文。それに対して、山縣有朋は書き方も折り方も読みにくい。井上馨は、墨も薄いし、紙も単純に丸めているだけであり、思いついていることは全部書いていた。各人ごとに、和紙の質も、紙の匂いも違う。このように、生のものが語りかけてくることはある。皮膚感覚で当時の政治家を身近に感じられたことが、自分の研究に与えた影響は大きい。
・続いて近現代の政治家について。後藤田正晴の情報を、オーラルヒストリーにまとめたことがある。この本は売れたし、毎年版を重ねている。アーカイブされたものがここまで人口に膾炙する例は多くないが、オーラルヒストリーの重要さを示す一例として挙げた。
・オーラルヒストリーを行うと、「ここまでは喋れるが、ここからは喋れない」というラインがある。戦後の政治家で、自分の情報を操作したという面では、田中角栄の例が面白い。かつて、吉田茂は手紙で人を動かした。佐藤栄作は喋らずに、沈黙で相手を圧した。どちらも情報をストックしておいて、ここぞというときに出す点では変わりない。それに対して、田中角栄の場合、情報はストックではなくフロー。1枚の紙に「○○の件」と表題を書き、理由を3つだけ書く。それが彼の情報処理の方法だった。とにかく情報をフローで流し続けて、その都度必要なものを拾い上げる。それが可能だったのは、彼の得意領域が建設等のインフラストラクチャーだったから(数値が出てくるので、情報を記しやすい)。・続いて、原敬と、後藤新平の比較。原は政党政治を重視した。記録を日記に残していた(金と女の問題は書いてない)。それに対して、後藤は大衆への講演を重視した。また、海外で面白い本を自分で翻訳し、パンフレットをたくさん流した。彼が今生きていたらブログを使っていただろう。後藤は政治のアウトサイダーを含めて政治を伝えようとした。
・以上は、情報が文字化されたものの話。他に課題として、映像化されたものをどうやってアーカイブするかという難しい問題がある。報道資料の映像を仕事でみることがあるが、戦争花嫁の話題など、よくぞこれを撮ったと思うものが多い。
・また、戦闘機のガンカメラの映像の話。軍隊が、自分たちの攻撃の成果を確認するためにカメラに撮っていた。アメリカの公文書館に映像が残っている。マニアの人が映像から分析したことで、日本のどの土地の映像なのかが判明した。マニアの人の力を借りて、いわばゲーム感覚でそのような作業を進めていくことも重要といえる。
・最後に、映像をどうやって残すのかを考えてほしい。戦後72年が過ぎて、そろそろ証言者が存命の時期を過ぎている。彼らの証言を残すシステムをぜひ作ってほしい。
シンポジウム「社会化するアーカイブ」
続いて、シンポジウム「社会化するアーカイブ」が開かれました。
登壇者は、
・梅林秀行氏(京都高低差崖会崖長)
・河西秀哉氏(神戸女学院大学准教授)
・竹宮惠子氏(京都精華大学学長)
・福井健策氏(弁護士、日本大学・神戸大学客員教授)
の4名で、司会は江上敏哲氏(国際日本文化研究センター)です。
各登壇者に与えられたテーマは、以下の2点です。
・アーカイブが社会にもたらす将来性・可能性とは何か?
・アーカイブを社会に根付かせるために必要なものは何か?
以下は、各登壇者の発表につき、私のメモを基にした要約です。
梅林秀行氏(京都高低差崖会崖長)
・古い図会を、線描だけ抜き出し、着色して分析した。
・元々は考古学が自分の学問的ルーツ。図会を高精度のデータから分析し、細部をみると、おじぎの角度や日傘の文化など、非言語的な情報も取り出せる。
・しかし、日本で、このように高解像度のデータを公開している例は非常に少ない。
・多くの施設では、800×600ピクセル程度の画像をアップしているに過ぎない。つまり事実上、利用者に「閲覧だけ」をするよう強いている状態で、ユーザー側に決定権がない状態を強いていると言える。まさかユーザーが、昔の図会をPCのローカルフォルダにダウンロードして、図会を切り取ったり着色したり、ラベルを張り込んだりするとは思っていない(なお自分の著書では、このような画像データの操作を行った上で、「ラベル・着色は著者」と書いた)。図会に国土地理院の数字データを読み込ませて配色することもある。・「ブラタモリ」の影響もあり、高低差を歩くことがブームになったが、そもそも起伏を歩くことは、社会課題とセットである。高い所には高い所なりの、低い所には低い所なりの住居構造や歴史がある。
・たとえば大阪の上町台地には、観光目線では見えないものがある。江戸時代の地図では、非人小屋(被差別民の地区)がはっきり描かれており、マージナルな空間だったことがわかる。さらに時代が進んで戦災概況図(国立公文書館ウェブサイトで見ることのできる、戦争帰還兵のための地図)をみると別の面もみえる。高低差を出発点に、通史的な分析が可能となる。・そのような研究が、誰にでもアクセスできる環境になっていることが重要。そのため、与えられたテーマへの回答としては、アーカイブが「公共圏」であることが重要だと言える。そして、アーカイブのユーザーの自己決定権や裁量権が保証されなければならない。
・しかし、現状ではその点が非常に弱い。日本の大学の図書館のデータ利用規約をみると、資料の記載目的が限定されていることがある。また、地図のデータを確認しようとしても、町名が読めないような低い解像度でアップロードされていることがある。そのため、自分はカナダの大学のサイトを利用している(カナダの大学のサイトで、日本の近世の街絵図にアクセスして、ダウンロードできる)。このカナダの例のように、画像にダウンロードのアイコンを置くかどうかが一つのポイントである。
河西秀哉氏(神戸女学院大学准教授)
「アーカイブを社会に根付かせるためには? -自身の経験から-」
・2005年から、京都大学大学文書館に勤務していた。
・歴史研究者としては、宮内庁における資料調査を行っている。宮内公文書館に資料を依頼するが、公文書管理法の施行(2011年)以前は、申請してから2年くらい待たされた。また、以前は文書公開の基準がなく、皇族の警備資料など、担当者の判断で秘匿されることがあった。最近は基準が明確になったが、今でも公開に時間を要することは多い。また、資料の目録のシステムを見ても、表題からは何が書かれている資料なのかわからないことも多い。
・続いて、京都大学大学文書館で勤務していた頃の話。文書館には、研究者や学生らのノートといった個人文書も寄贈されるが、多忙のためそれらはどうしても整理が後になってしまう。しかし、歴史研究者が来て、「歴史研究者である自分には先に見せてほしい」と依頼される例は多い。このような経験を踏まえて、誰の、何のためのアーカイブなのかという問題提起をしておきたい。私見では、京大の場合は、第一次的には京大職員のためのアーカイブだと思っている。
・続いて、うたごえ運動の調査の文献発掘の話。アーカイブ調査の際、公式の保管資料の他にも、資料庫の職員から「そのあたりに関係しそうなダンボールがある」と何気なく言われて見ると、貴重な資料が出てきたこともあった。
・結語としては、法の理念をふまえてアーカイブを利用するための運用にすべきと思われる。歴史研究者は、自分だけがアーカイブ調査できればよいのか? また、公的でない機関や、個人の資料の中にも、埋もれている文化関係の史料はあるため、情報共有や、統合する検索機能が重要と思われる。
竹宮惠子氏(京都精華大学学長)
「社会のためのアーカイブ 根付かせるには何が必要か?」
・社会に役立つものでなければアーカイブとは言えない。
・単に資料をキープするだけではなく、文化のポテンシャルを見抜く想像力が必要となる。過去の時代の破れかけた1枚の写真から、当時の暮らしがわかることもある。・京都国際マンガミュージアムでは、過去の名作を見つけ出すことができる。これは、社会の変遷を見渡す行為にもつながる。また、外国の読者にとってみれば、過去も未来も変わりない。
・マンガ原画のアーカイブについては困っている。漫画家は、他の家族から浮いてる人が多く(笑)、家族とは没交渉な人も多い。また、マンガは版下原稿なので、出版社においては出版後は不要になり、原稿をファンに贈与する例もあったと聞く。しかし、原画には様々な書き込みがある場合もあり、原画に残るさまざまな情報は電子ブックからはわからない。・マンガ原画アーカイブに必要なものとしては。まず湿度を保てる空間が必要。広さとしては、漫画家1人あたり4畳程度(多作な場合はさらに面積が必要)。そして、原画の順番や変則的な部分を含めて把握できる人も必要(しかし、それは誰なのか?)。また、外部から依頼があれば貸し出し、元に戻るまで管理できる仕組みや、作品の内容に言及できるキュレーター能力を持つ人物も必要。
・マンガの原画の保存のために、充分に大きな施設を設けて、キュレーターやその見習い、事務職を設けるべき。運転資金を賄うために、著作権の一部が供されてもよい。再出版やグッズで収入も得られる。役所的な考えではなく、アーカイブの生き残りを考えるべき。海外の例では、ピーターパン関連のアーカイブ資料は、ピーターパンミュージアムに著作権も預けて管理している。一漫画家としては、自分の作品をよく知っている人になら預けられるが、そうでない人に預けるのは不安感がある。・社会に根付かせるというよりも、使えるアーカイブなら当然社会に根付くはず。使う工夫と使えるシステムを構築する。資料をキープするのにとどまるだけでは危険。利活用されてこそアーカイブだと思われる。
福井健策氏(弁護士、日本大学・神戸大学客員教授)
「デジタルアーカイブ振興法の提言」
・日本でも、アーカイブの利活用が進められている例もある。例えば、「青空文庫」は作品数約15,000。「マンガ図書館Z」は、閲覧数1億2000万超。
・アーカイブには、ヒト・カネ・権利の壁がある。NHKアーカイブスは11年かけても公開率1.1%。権利者を探し出すコストが非常に高い(経費の30%が、作業のみのコスト)。1番組から得る期待収益をはるかに超えている。特に、権利者を探しても見つからない孤児作品の壁が大きい。日本脚本アーカイブズでは、放送台本の作家3104名中1550名が不明だった。
・デジタル化するための権利処理としては、著作権、著作隣接権、肖像権・プライバシー権の処理が必要になる場合がある。・デジタルアーカイブ学会の法制度部会では、生貝先生や数藤(※本コラム筆者)らと共に、デジタルアーカイブ振興法の議論を進めている。ポイントとしては、
(1) アーカイブ振興基本計画
(2) 全国のデジタルアーカイブのネットワーク化
(3) デジタル化ラボ、字幕化ラボの設置
(4) 各国アーカイブとの相互接続
(5) オープン化の推進
(6) デジタルアーキビストの育成
(7) 権利処理の円滑化
があげられる。
・現在、アーカイブは各施設にバラバラに存在するが、バラバラに分断されているものの価値は非常に低い。そのため、みんなリサーチの際はGoogle検索に行くが、Googleではアーカイブの情報はあまり出てこない。河西氏も述べたように、各アーカイブを統合検索できる仕組みが重要となる。・竹宮氏が述べたように、原画の問題も重大。相続税の問題もある。例えば、オークションで5万円で売られている原画があれば、相続財産評価として、1枚あたり5万円の評価がされてしまうこともあり得る。
・ちなみに、竹宮氏が言及したピーターパンについては、イギリスで特別法がある。ピーターパンの著作権料は、児童病院に全額寄付される。その代わりに、イギリス政府はピーターパンの著作権は永久に存続するとした。著作権の存続期間の延長については様々な議論があるが、これは粋な制度だと思っている。
その後、質疑応答があり、
(1) アーカイブのコストを誰が負担すべきか?
(2) アーカイブにどのようなユースケースが考えられるか?
(3) ユーザー側が持つべきリテラシーとして、どのようなものがあるか?
といった質問が寄せられましたが、個人的には、3つ目の質問に対する福井氏の回答が印象的でした(以下、私のメモを基にした要約です)。
・著作権の知識は全ての人が持たなければならない。そのため、大学の講義の必修化は急務と思われる。その際、NG集とともに、OK集(引用、非営利上映、教育目的利用等)の教育も重要である。また同時に、どうやって許可をもらうのかという、契約の基本的知識についても、一刻も早く必修化が必要である。
閉会挨拶 〜 アーカイブサミットの終わりに
最後に、柳与志夫氏(東京大学特任教授)から閉会の挨拶がなされ、2日間にわたるアーカイブサミットは幕を閉じました。大変な盛会で、関係者の皆様、お疲れ様でした。
私は終了後、京都の書店でさっそく、登壇者の梅林氏の著書『京都の凸凹を歩く』1巻・2巻(青幻舎)を購入。帰りの新幹線でじっくり耽読しました。
アーカイブ関連では、この秋以降も、各種シンポジウムなどが控えています。
また、来年(2018年)3月には、デジタルアーカイブ学会の第2回研究大会もあり、私も微力ながらお手伝いさせて頂く予定です。その節はまたよろしくお願いいたします。