こんにちは。
今回のコラムは、アーカイブの話題です。
私(数藤)は、9月9日、10日の2日間にわたって京都で開催された、
「アーカイブサミット2017 in 京都」
に参加してきました。
晴天の京都。秋晴れというよりも夏のような天気です。
地下鉄烏丸線の北山駅で降りて、会場のある、京都府立京都学・歴彩館に向かいます。
今回のアーカイブサミットのテーマは、「社会のアーカイブ化」。
私は2日間通して聴講しましたが、どのセッションも非常に興味深い内容でした。
そこで、私(数藤)が聴講したセッションにつき、記録として以下にまとめておきます(これも一種のアーカイブ活動です)。長文ですがどうぞご覧ください。
(※ 以下の記載はいずれも、筆者のメモを基にした要約です。要約内容が不適切な箇所や、要約行為それ自体を希望されない箇所等がございましたら、お手数ではございますが、当サイトのお問い合わせフォームからご連絡を頂けますと幸いです。)
開演 〜 デジタルアーカイブの状況レビュー
まず最初のセッションは、「デジタルアーカイブの状況レビュー」です。
登壇者は、
・吉見俊哉氏(東京大学教授)
・生貝直人氏(東京大学客員准教授)
・古賀祟氏(天理大学教授)
の3名です。
以下、各登壇者の発表につき、私のメモを基にした要約です。
吉見俊哉氏(東京大学教授)
「なぜ、アーカイブサミットなのか?オープンな知識循環型社会への制度改革」
・アーカイブサミット2015・2016の成果を振り返る。
・「オープンな知識循環型社会への制度改革」が課題。・まずサミット2015について。そもそもの問題として、ガラパゴス問題、バラバラ問題、宝の持ち腐れ問題、食べていけない問題、の4つがあった。
・そこで、「アーカイブ立国宣言」として、国立デジタルアーカイブセンターの設立、人材の育成、オープンデータ化、孤児作品対策の4点を宣言した。
・サミット2015の残された課題として、文書館の視点の欠落、文化芸術分野への偏り、ビジネス化の仕組み等が挙げられた。・続いてサミット2016について。このサミットでは著作権の問題、私的所有とパブリックドメイン、知の公共性と価値形成、アーカイブ推進基本法の4点が中心となった。
・今何が起こっているのか? デジタル化の結果、図書館や文書館、博物館、美術館の仕切りがなくなり、どこにも属さない膨大なメディア文化資産が存在する状態となった。
・これまでは「結果」を保存していたが、「制作プロセス」も保存するようになった。
・いま私たちはデジタルによる第二の情報革命を迎えている。しかしフィルターバブル、ポストトゥルース時代において人類は賢くなっているのか? 集合知(ネットワーキング)と記録知(アーカイビング)を統合させる知識循環が必要ではないか。・そこで、アーカイブとは何かという問いに戻ると、文書館、記録群、記憶庫、混在郷の4層から成るものと把握できる。
・さらにいうと、アーカイブとは、「暗黙知」と「形式知」を循環させるプロセスだと考えられる。例えば、ビッグデータやAIといったデータサイエンスにも関与できる。また、バラバラに断絶した情報をつなげることもできる。・これからの制度改革のために、議員連盟、推進コンソーシアム(DAPCON)、学会、研究機関連絡会があり、それらをつなぐものとしてアーカイブサミットがあると位置づけられる。
生貝直人氏(東京大学客員准教授)
「デジタルアーカイブに関連する法政策 -現状と今後の論点-」
・著作権/連携とオープン化/今後の論点の3点から整理する。
1 著作権
・ここ数年の法改正としては、文化庁を中心に動いた結果、図書館等での複製に関する著作権法31条1項2号や、配信に関する31条3項の解釈明確化等を実現。
・検討中の点として、31条3項に外国の図書館等を加える点、47条の館内電子端末での著作物利用を一定程度可能にする点、47条のサムネイル画像の利用を展示に関わる情報提供にも適用する点、裁定制度の一定機関における後払い等がある。
・また、柔軟な権利制限規定の導入も検討中。とくに、公衆がアクセス可能な情報の所在検索サービスなど(たとえば書籍検索サービス)。アメリカで去年、GoogleBooksが裁判所にフェアユースと認定とされたことを受けての検討と思われる。2 連携とオープン化・知的財産戦略本部での検討
・これまで、アーカイブ間の連携が十分に図られていなかったという問題意識がある。つなぎ役(アグリゲータ)が必要となる。分野横断的な検索が可能なポータルサイトの整備が必要。
・最近の議論をまとめた資料として、デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会報告書「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」、「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」を紹介。
・また、「知的財産推進計画2017」にも言及がある。国の統合ポータル「ジャパンサーチ」については、2020年までに構築を目指す。
・参照軸として、やはりヨーロピアナへの言及は欠かせない。3 今後の論点
・民間の知的資産のデジタルアーカイブ推進(著作権法31条が適用されない企業運営の博物館類似施設への対応、オープン化に対するインセンティブ創出、書籍以外の納本制度の長期的な受け皿のあり方等)
・デジタルアーカイブとAI、IoT、ビッグデータの関係(2017年の官民データ活用推進基本法で推進されるデータ主導型社会の拡大の中で、デジタルアーカイブがどのような役割を果たすか)
・デジタルアーカイブの基本法(各種の「フロー」施策を支える「ストック」基本法)
・ナショナルデジタルアーカイブセンター(専門人材が継続的にアーカイブを担い得る組織の必要性)
古賀祟氏(天理大学教授)
「アーカイブの「いま」を見渡して -デジタルアーカイブとその前提の動向について-」
1 郷里の動きとアーカイブへの想い
・発表者の郷里の福岡県大牟田市では、世界文化遺産登録の陰に、三池闘争や炭鉱労働など炭鉱遺産の問題があった。
・また、従来のアーカイブについては、「これが文化的コンテンツである」とあらかじめ承認されたものばかりが集積されるものではなく、単体では無価値なものも、集積されることに価値があるという指摘がみられた。2 近畿圏の動向
・近畿圏の著名な例として、東寺百合文書WEBなどがある。
・最近は、大阪新美術館建設準備室でのアーカイブの取り組みが注目される(具体美術協会の関係資料/インダストリアルデザイン・アーカイブス/萬年社コレクション/自館の建設に関するアーカイブ)。
・また、社会に関するアーカイブとして、大阪産業労働資料館や、西淀川大気汚染公害・裁判を中心とした公害・環境アーカイブなどもある。3 大型案件等
・大型案件としては、歴史的典籍NWプロジェクト(国文学研究資料館)、総合資料学(国立歴史民俗博物館)、公文書管理法の制定・施行などがある。
・他方で最近では、図書館等に寄贈された資料が破棄される事件や、公文書管理法の運用の問題(南スーダンPKO日報、森友学園・加計学園)、「学芸員はガン」発言などの問題があった。
・また、東日本大震災以降の「誰でも、何でもアーカイブ」という傾向と、そのような傾向への危機もある(一度作ったアーカイブのサーバ等の維持管理がどこまでできるか、構築する時点で将来まで意識できているか)4 問題提起
・最後に問題提起として、以下の数点を挙げる。
・例えば、ダークアーカイブ(保存してすぐには公開しないが、一定の期間を経て公開する可能性)のスキームで、オーファンワークスの問題を解決できないか?
・デジタルフォレンジックは、警察の捜査や訴訟のための証拠保全にとどまらない役割がある?
・JALプロジェクト「海外日本美術資料専門家(司書)の招聘・研修・交流事業」での提案に注目。同提案では、海外のユーザも意識すること、多言語対応やオープンなアクセス、人材サポートが重要との指摘があった。
セッション1
状況レビューに続いて、セッション1として、3つの会場で、以下の各セッションが同時に開かれました。
セッション1
1-1「災害とアーカイブ」
コーディネーター:松岡弘之氏(尼崎市立地域研究史料館事務員)1-2「空間情報とデジタルアーカイブ」
コーディネーター:青木和人氏(あおきGIS・オープンデータ研究所代表)1-3「文化資源をつなげるジャパンサーチ構想」
コーディネーター:原田隆史氏(同志社大学教授)
私は、1-3「文化資源をつなげるジャパンサーチ構想」を聴講しました。
以下、各登壇者の報告につき、私のメモを基にした要約です。
原田隆史氏(同志社大学教授)
・パンフレットでは、「NDLサーチ」の後継として「ジャパンサーチ」の構想が進んでいると記載されているが、これは誤り。両者は二本立てで運用する予定。
徳原直子氏(国立国会図書館)
・「知的財産推進計画2016」では、国立国会図書館のサーチにも言及があった。
・「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」「知的財産推進計画2017」「経済財政運営と改革の基本方針2017」「未来投資戦略2017」からそれぞれジャパンサーチやアーカイブに関連する部分を紹介。
・「デジタルアーカイブジャパン推進委員会」第1回資料(2017/9/5)では、デジタルアーカイブジャパン構築への段階的整理がなされている。
・国会図書館では、これまで「国立国会図書館サーチ」(NDLサーチ)を構築した。
・NDLサーチをジャパンサーチにするには、機能が何点か足りないので、新たにジャパンサーチを構築することになった。
・ジャパンサーチの公開に向けて、ハード面ではプロトタイプの構築を進めている(予算は十分でない)。ソフト面では、内閣府(知財推進事務局)の協力を得ながら、様々な分野のつなぎ役との連携を進めている。・以下、ジャパンサーチのプロトタイプを紹介(資料は後日公開)。
・ジャパンサーチの使命として、次の5つがある。(1)コンテンツの所在等の明確化、(2)データ提供期間へのアクセス促進、(3)データの利活用の促進、(4)データ提供期間への支援、(5)新規ビジネス・サービスの創出等
・ジャパンサーチの3つの顔。(1)国の分野横断統合ポータルサイト、(2)利活用のユースケース、(3)利活用促進の基盤・検索機能としては、横断検索とカスタム検索がある。横断検索では、マッピング自動機能(メタデータアナライザー)の機能があり、そこがNDLサーチと異なる。データ提供機関からは、生データをそのまま提供してほしい。
・ジャパンサーチでは、連携先追加の容易性を確保するため、マッピングのコストを最小限にする方針。・利活用のユースケースとして、キュレーションページを作成中。最近の若い人は検索ページよりもクリック(画面タップ)に親しんでいるという話も聞くところであり、検索をあまり行わない人むけのパスファインダーのページを準備中。
・さらに皆様らの意見を募集中。
この後、国立国会図書館の職員の方により、「ジャパンサーチ」のデモ画面の操作の様子が公開されました(スマートフォン・ファーストでした)。
高野明彦氏(国立情報学研究所)
・ジャパンサーチについては、今後もカスタム検索がより充実すれば、世の人の目を引くものになると思われる。
・マッピング作業は、各分野のたばね役にまかせていく方向が望ましい。国会図書館はそのような作業は苦手と思われるので、マインドセットして他機関にまかせることが重要。
・キュレーションは興味深いサービスだ。ヨーロピアーナは、スポンサーから、「うちの娘はグーグルは見るが、ヨーロピアーナは見ない。どういうことだ?」と叩かれた。そこで、ヨーロピアーナもここ数年は、利活用の方向に舵を切っていると思われる。
・また、「サーチボックスは、美術品を見せる上で最後の手段だ」という意見もあり、納得できる面もある。つまり、美術展に行って検索する人はいない。美術館をうろうろして、何かあるかもしれないというワクワクする気持ちが重要。そのような気持ちを醸し出せるものが作れるか。
・メトロポリタン美術館のウェブサイトで、「japan」で検索すると、20,000以上のコンテンツ出てくる。もしその情報を、日本のプラットフォームでも取り込むことができれば、日本の各所の関係者をも本気にさせることができるのではないか。
その上で、報告者間で以下の議論がなされました。
原田氏
・問題提起として、はたして国会図書館で、キュレーションページを100件も200件も作れるのか? 最初の段階で構築するのはよいとして、その後どのようにするのか。国会図書館が、どこまで・何をするのが適切なのかは検討したほうがよい。徳原氏
・キュレーションページについては、国会図書館内でも賛否両論ある。誰がページを作るのか、持続可能性はどうするのかについても議論がある。誰が作るのかについては、一般人も含めるか、専門家だけに委ねるのか。高野氏
・キュレーションページについて、全体を均一なものにするのはナンセンスと思われる。内容は玉石混交でいいし、玉石混交であることが利用者にわかればいい。仕組み自体はユニバーサルに作っておいて、誰でも参加できるようにすべき。原田氏
・そこは高野氏の意見に同感。質にこだわりすぎずに、まずは量があったほうがよいと思われる。
企業ブース
ここで休憩です。アーカイブサミットには、企業もアーカイブ関連のブースを出展しており、セッションとセッションの合間には、みなさん企業の展示に足を運んでいました。
今回の出展企業(組織)は、以下の7社(7組織)です。
・株式会社カーリル
・京セラコミュニケーションシステム株式会社
・京都府
・株式会社サビア
・株式会社Stroly
・凸版印刷株式会社
・奈良文化財研究所
セッション2
さて、休憩を挟んで、セッション2です。
3つの会場で、以下の各セッションが同時に開かれました。
セッション2
2-1「京都におけるアーカイブの現状と課題」
コーディネーター:上杉和央氏(京都府立大学准教授)2-2「デジタルアーカイブの情報技術」
コーディネーター:橋本雄太氏(国立歴史民俗博物館助教)2-3「デジタルアーカイブ学会の未来」
コーディネーター:柳与志夫氏(東京大学特任教授)
私は、2-2「デジタルアーカイブの情報技術」聴講しました。
以下、各登壇者の報告につき、私のメモを基にした要約です。
橋本雄太氏(国立歴史民俗博物館助教)
・アーカイブの活用の基盤として、オープンなコンテンツの促進のための情報技術も重要になる。
・以下、3トピックについて紹介する。1:IIIF、2:クラウドソーシング、3:機械学習/AIの適用1 IIIFについて
・IIIF(トリプルアイエフ)は、画像データを相互に運用するための国際標準規格。機械処理が容易な、統一インターフェイスを提供する枠組みである。また、URIを介して画像の切り取り・加工が簡単になる
・最近、「京都大学貴重資料デジタルアーカイブ」が公開された。このアーカイブはIIIF形式に対応済み。Universal ViewerとMiradorの2つのビューワを設置している。2 クラウドソーシング
・クラウドソーシングとは、オンラインで募った多数のボランティアの手を借りて、膨大な量のタスクを処理する手法。欧米では、MLAの主導で、デジタルアーカイブ資料を対象にクラウドソーシングを実施する例が多い。予算の問題もあるが、「市民と共同で文化資料を保存・継承する」という思想が背景にある。
・古い例では、オーストラリアの新聞デジタル化プログラムが挙げられる。間違いに気づいた利用者がすぐ直せる仕組みになっている。
・次に、自分の運営するプロジェクト「みんなで翻刻 地震史料」を紹介。これは、江戸時代の地震資料を文字起こしするプロジェクト。3000名が登録し、4200枚を翻刻した。ニコニコ動画との提携で、番組も放送し、ニコニコ超会議2017にも出展した。今夏には、24時間耐久「みんなで翻刻してみた」という企画も実施した。3 機械学習/AI技術の適用
・まだ事例は少ないが、深層学習に代表されるAI技術をデジタルアーカイブに適用する研究も進んでいる。
・例えば、ヨーロピアナのINCEPTIONプロジェクトでは、転移学習の技法を使用し、ヨーロッパの歴史建築物画像をImagenetで再学習させている。
・また、AIを利用した古典籍画像の検索システム(国文研×NII)も挙げられる。まとめ
・これからは、コンテンツの共有連携手段の提供と、活用手段の提供が重要になるだろう。
亀田尭宙氏(京都大学東南アジア地域研究研究所)
「「あとまわし」にする技術」
・デジタルアーカイブの文脈での「あとまわし」の重要性について報告する。
・デジタルの技術潮流が速すぎるが、とりあえず作る方法、あとで改善したり繋げたりして活用する方法を検討する。
・「Myデータベース」は、原資料をCSVなどで表型データ作成して、公開するシステム。データベース数は増えたが、効率的な検索ができない問題がある。そこで資源共有化システムを構築した。
・「とりあえず作る」ことが重要である。csvなどの表形式データでよく、非公開でもよい。メタデータは独自語彙で構わない。
・そして、「あとで改善&つなげる」ことも重要。csvの更新が簡単であり、統合検索用にdctermsなどの語彙にメタデータ項目のマッピングを作成する。APIで活用・応用できるようにする。
・続いて、Linked Dataの紹介。Linked Dataでは「あとまわし」ができる。その理由としては、よく使われ規格化されたSPARQLというAPIを用いていること、人間も機械も理解可能なドキュメントを提供していること、すでに共有されている語彙セットの活用、ジャパンサーチ的なマッピングを行っていることなどが挙げられる。
・NLP(自然言語処理)で「あとまわし」ができる。Entity Linkingの技術で、外部のデータベースへのリンクを作ればよい。
・「あとまわし」にする技術としては、ユーザに任せるという点も重要。ユーザーが使い方を自分で発明する場合もあるので、その可能性を制限しないようにすべき。
・なお9月下旬にシンポジウム「デジタルデータ長期保存の最前線」が開催されるので、関心ある方はぜひ参加してほしい。
池田光雪氏(千葉大学)
「人々の力を少しずつ借りる:マイクロタスク型クラウドソーシング」
・クラウドソーシングについて報告する。
・無償では、時期が経つと(=飽きられると)、実施数が落ち込む傾向がある。
・飽きられないような仕組みとして、マイクロタスク(非常に短時間で終わるクラウドソーシングの作業)に着目し、持続可能性の担保も視野に入れた「Crowd4U」の運用に関わっている。
・ヒューマンコンピュテーションの手法(計算機にできないが人にはできる作業を、人にやってもらう手法)が有益。代表例として、reCAPTCHAの仕様が有名(認証のついでに、利用者に文字起こしをさせている)。
・Crowd4Uは、2011年から運用開始した。Webサイトにタスクを埋めこむことができる。また、床システム(床の上を歩いて、「はい」「いいえ」という表示を踏むだけでタスクに回答できる)や、スマートフォンがロック状態から復帰したときにタスクが表示される機能を利用している。・さらに、L-Crowdというプロジェクトを実施中。例えば、NDLの書誌誤同定(全く違う図書に同じISBNが振られていること)を発見したり、NDLデジタルコレクションから図画を抜き出している。その結果として、国立国会図書館デジタルコレクションの一部資料の絵や写真を俯瞰検索できるようにしている。
・続いて、文字起こしプロジェクトについて。日本語は欧米の国に比べて、文字が非常に多いため作業量も増える。
・都道府県総合目録の将来像に関する研究プロジェクト。京都府域で収集したメタデータと、NDLが持つメタデータが対象となる。・まとめとして、クラウドソーシング、ヒューマンコンピュテーション、マイクロタスクにより、持続可能性の向上も視野に入れたデータ整備が可能になる。L-Crowdの参加をぜひお願いしたい。
そして、このセッションの最後には、フリップ(スケッチブック)を用いた質疑応答コーナーがあり、
「社会につながる/未来に遺せるDA」のために情報技術ができることは?
との問いに対して、3氏がそれぞれ以下のように回答していました。
・橋本氏「DAの民主化」(みんなで作るデジタルアーカイブ)
・亀田氏「信頼性の積み上げと評価」(Googleが広く用いられたのは、ページランクが信頼性を持たれたことが一因)
・池田氏「資源を生み出す」(例えば大昔の流行語大賞は誰も知らないし、Google検索でも出ない。OCRの自動化でデジタルアーカイブ化を進めるべき)
続いて、会場との質疑パートです。
概要以下のような議論があり、いずれも興味深く拝聴しました。
・マイクロタスクにすることで、ゲーム化して皆が参加しやすくなる意義がある(ゲーミフィケーションの観点)。
・「みんなで翻刻」は、くずし字を読むための学習コンテンツサービスとして提供している。また、ユーザー相互で添削をするサービスも入れており、利用者が自分のために作業するという戦略をとっている。アンケートでも、「自分のためにやっている」という回答が多い。
・Ingressやマストドンにも参照すべき点がある。
・デジタルアーカイブの民主化というが、プラットフォームがある以上、そうは簡単に言えないのではないか? たしかにユーザー参加型ではあるものの、プラットフォーマー側でユーザーの方向性をある程度規定できてしまうのではないか?
・すでに「死んでいる」アーカイブも多い。それらをどう利活用に結びつけるか。
セッションレビュー
そして、1日目の終わりには、同時並行で開催された各セッションの内容をレビューし、全員で共有する、セッションレビューの時間が持たれました。
面白かったのは、今回、各セッションの進行中に、黒板の前で、専門のイラストレーターの方(グラフィカー)が、イラストと文章を交えて、セッションの要点をリアルタイムで描いていく方法(ファシリテーション・グラフィック)が用いられたことです。
このグラフィックを示しながら、1-1から2-3までの各セッションの様子が、全員の前で圧縮した形で示されました。以下、会場の要約を、さらに私のほうで短く要約した整理です。
1-1「災害とアーカイブ」
・古文書と呼ばれるものは、私人の所有も含めて日本に20億あると言われる。
・資料の読み解きは大変だが、今は「みんなで翻刻」のようなプロジェクトも進んでいる。
・課題としては、災害アーカイブに顕著だが、何年か経てば社会に出せるであろうアーカイブ(ダークアーカイブ)をどうやって蓄積・管理していくかという点がある。
1-2「空間情報とデジタルアーカイブ」
・立命館大学では、位置情報を接着剤にして、それ以外のデジタルデータと融合している。
・空間情報は、人の記憶を呼び覚ますこととの間で親和性が高いという指摘がある。
・データがつながったときに、それまで人々が気づいていなかった暗黙知のつながりになる。
・今日、この会場へ来る時にみなさんGoogleMapを使ったと思う。そのように、位置情報は生活に欠かせないものになっているが、日本でその分野に関わっている人は少ない。データライブラリアンが必要。
1-3「文化資源をつなげるジャパンサーチ構想」
・ジャパンサーチは、何がどこにあるかを検索できるシステム
・様々な機関で、それぞれデータをまとめたら、それらを国会図書館がつなぐというコンセプトのプロジェクトである。
・キュレーションサイトという、ページを見たくなる/今後自分でページを作りたくなるアプローチも検討している。
2-1「京都におけるアーカイブの現状と課題」
・京都には貴重な資料が多い。写真資料は見る人によって価値が違う(歴史に興味のある人、写っている植物に興味のある人etc)。その中でアーカイブしていくことの楽しさが、京都という町にはある。
・「アーカイブがお金になるのか?」という点については明確に回答できない部分もあったが、アーカイブ活動は、楽しい・面白いからやっている面がある。
2-2「デジタルアーカイブの情報技術」
・デジタルアーカイブの民主化とは? プラットフォーマーとの関係とは?
・情報技術という技術的な話と、民主化という理念的な話は、実は近いところにある。リチャード・ストールマンの議論につながるところがある。
・「死んだアーカイブをどうするか」について質問を受けたが、明確な答えは出せなかった。
2-3「デジタルアーカイブ学会の未来」
・デジタルアーカイブと一口に言ってもいろいろな種類がある。学術・企業・文化資源など。それらにどのように関連性をもたせ、どのように学会が関わるかが問題。
・1つ目として政策提言が必要。2つ目として産学連携。3つ目としてアドバイザー的役割。
・学会の役割としては、デジタルアーカイブのまわりにある、DAPCONや、政治家などのプレイヤーをつないでいく意義が大きい。
・デジタルアーカイブそれ自体で大きく儲かるわけではないが、他の分野と絡めて「DAがないと儲からない」ということを示していく。
・企業に「オープン化」というと、フリー利用を連想されてしまうが、例えば月額費用をもらって開示するのも「オープン」であり、そこに誤解がないようにしたい。
そして、セッションレビュー後の自由討議では、以下の指摘などがあり、興味深く拝聴しました。
・国会図書館に、Googleのような営業力があるかがポイントとなる。
・公文書の重要性も忘れないようにしたい(ただし、公文書関連では、メール等のボーンデジタル資料をどうするかという問題もある)。
1日目の終わりに
1日目のすべてのセッションが終わり、締めの言葉として、長尾真氏(アーカイブサミット組織委員長、京都府公立大学法人理事長)から以下の2点の指摘がありました(私のメモを基にした要約です)
・全国のさまざまな組織の中では、アーカイブ活動について上司の理解を得られない場合もあるだろう。3.11の後、国立国会図書館がアーカイブ活動を進めたときも、周囲の理解を得るのに苦労した。自分としては、「これはどこかがやらなければいけない作業であり、国会図書館の責任ある部署がやる」という思いでプロジェクト進めたが、振り返ると、やってよかったように思う。
・アーカイブにはどうしても費用がかかる。今日全国からお越しの方には、開発や研究を進めるという真面目な作業だけではなく、「どうやって資金を獲得するか」についても頭をひねってほしい。
というわけで、以上でアーカイブサミット・1日目のセッションは全て終了です。
(参加者の熱気も冷めない中で開かれた懇親会も、大いに盛り上がりました。)
→ 続く2日目の様子は、「アーカイブサミット2017に参加しました(後編:2日目)」をご覧ください。