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美術館と著作権 - タブレット、サムネイルの利用とこれからの展示


こんにちは。
今日のコラムのテーマは、「美術館」と「著作権」です。

最近、こんな新聞記事を読みました。

「美術館の展示案内にアプリ使用広がる 「体験」機能も」
(朝日新聞デジタル2017/8/5付

これは、美術館や博物館の展示案内で、スマートフォンの無料アプリを使う動きが広がっていることを紹介した記事です。
例えば、6言語の解説を表示する機能や、スマホ画面に触れて蒔絵の工程や鈴の音を体験できる機能など、これまでの音声案内ガイド(イヤホン形式のもの)では難しかったような機能が紹介されています。

 

また、最近の美術展をふりかえると、ウェブサイト上で、作品や展示のコンセプトを詳しく紹介するケースも見られます。
例えば私(数藤)が思い出したのは、豊田市美術館が今年4月から6月にかけて開催した「抽象の力」展です。

この展覧会は、造形作家の岡崎乾二郎氏が、19世紀末から第二次世界大戦後の美術作品を中心に据えた、抽象芸術の企画展です。豊田市美術館のコレクションに加えて、他館の所蔵品も加えた展示がなされています(詳しい展示内容については、例えば学芸員の能勢陽子氏のレビューや、作家の福永信氏のレビューを参照)。
 

実は私は、スケジュールが合わず、この展覧会には行けませんでした。
しかし、この企画展のコンセプトは把握することができました。
なぜなら、インターネット上の特設サイトで、多くの展示作品の画像と、キュレーターの岡﨑氏による論考が今でもアップされているからです(リンク先の「論考」ページを開くと、PCブラウザによっては画面が高速で動きますが、クリックすると止まります)。
 

カジミール・マレーヴィチ「青い三角形と黒い長方形のあるシュプレマティズム」
(1915年。
「抽象の力」ウェブサイトより)
 

一人の観客としては、このような企画は大歓迎です。未知の作品に触れる機会が増えます。
しかし、このようなウェブサイトを使った作品公開の例は、必ずしも多くありません。

ネットに何でもアップされる今の時世、美術館のサイトで展示画像をアップすることも当然、とお感じの方もいるかもしれません。実際、以前のコラムでもご紹介した、アメリカのメトロポリタン美術館のウェブサイトでは、作品紹介にサムネイル画像が掲載されていました。

しかし、少なくとも日本の法律の観点からは、そう単純な話ではありません。
実は著作権法に関しては、美術品画像のタブレット端末での案内や、サムネイル表示については、権利者の許諾がなくとも適法になるよう、これから法改正が検討される段階にすぎません。

美術品の展示と著作権は、今はどういう関係なのでしょう?
今回のコラムでは、法律の改正動向にも触れつつ解説します。

 

美術の著作権に関する、現行著作権法の規定


まずは、美術品の原作品の展示について、現行の著作権法の仕組みを確認しておきます。

 

原則 - 展示権

美術の著作物の著作者は、その著作物を、原作品により公に展示する権利(展示権)を専有しています(著作権法25条)。
そのため、美術館などが美術作品の原作品を公に展示する場合には、原則として、著作者(著作権が移転している場合は著作権者)から展示権の許諾を得る必要があります(原作品のみが対象となるので、複製物にはこの展示権は及びません。複製物の場合は、そもそもの複製行為に関する複製権や、最初の譲渡行為に関する譲渡権が問題となり得ます)。

 

例外1 - 原作品の展示

例外として、美術の著作物の原作品の所有者か、または所有者の同意を得た者は、その著作物を原作品により公に展示することができます(45条1項。ただし、一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置することまではできません。45条2項)。

 

例外2 - 小冊子への掲載

また、美術の著作物の原作品により、25条の展示権を害することなく公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説または紹介をすることを目的とする「小冊子」に、これらの著作物を掲載することができます(47条)。

そして、裁判例によると、ここでいう「小冊子」とは、観覧者のために展示された著作物を解説又は紹介することを目的とする小型のカタログ、目録又は図録等を意味し、実質的にみて鑑賞用の豪華本や画集と言えるようなものは含まれないと解されています(東京地判平成元年10月6日〔レオナール・フジタ事件〕や、東京地判平成9年9月5日〔ダリ事件〕東京地判平成10年2月20日〔バーンズ・コレクション展事件〕を参照)。

 

つまり、今の著作権法が、美術館にデフォルトで(権利者の許諾を要せずに)認めているのは、原作品を公に展示することと、上記の「小冊子」に著作物を掲載することだけです。

そのほかに、例えば著作権が存在する美術作品をデジタル化して複製したり、ウェブサイト上に表示することまでは、現行法では無条件では認められていないため、原則として著作権者の許諾が必要となります(パブリック・ドメインの作品や、「引用」などの一定の要件を満たす場合には、許諾は不要です)。
 


美術館サイドからの声 - 全国美術館会議の要望書


もっとも、現行法のこのような規定に対しては、全国美術館会議が、サムネイル画像の利用などについて著作権の制限を求める要望書を、文化庁に提出していました(長くなりますが、美術館サイドの声として以下引用します。下線部は本コラム筆者によるものです)。
 

美術作品等画像の流通と利用促進に関する要望」(2015年2月4日付)

2.インターネットによる所蔵作品情報の公開に係る画像の使用
 所蔵作品情報の公開は今日の美術館に求められる使命のひとつであり、日本の美術館に おいても、画像付きの所蔵作品データベースをウェブサイトで公開する取り組みが進められています。しかし、著作権処理に係る経費が高額になるため、著作権の残る作品については画像掲載を見送り、文字情報のみ公開することが通例となっています。
 この場合、一般利用者は、ある美術館が○○という作家の△△という作品を所蔵していることを知っても、その具体的形状を知ることができません。美術作品にとって画像(イメージ)は不可欠な基本情報ですが、美術館は著作権を尊重するがゆえに基本情報を広く公開できないというジレンマに直面しています。結果的に、著作権で保護されている作品は、著作権に係らない作品に比べて情報が流通しにくい状況が生じています。これは美術館や一般利用者のみならず、著作権者にも不利益をもたらすのではないかと考えます。
 つきましては、美術館が自館ウェブサイトの所蔵作品データベースにおいて、作品情報 の一部としてサムネイル画像を使用する場合には、画像の大きさ・解像度等に一定の条件を設けたうえで、情報公開の公益性を優先し、著作権を制限することを要望します。

3.美術作品の展示に伴う複製媒体の拡大
 美術作品の展示に伴って複製図版を小冊子に掲載する場合は、現行法上でも著作権が制限されていますが(第 47 条)、今日では、展示の解説・紹介を目的とした制作物は必ずしも紙媒体(小冊子)に限らず、デジタル媒体の使用も一般的になりつつあります。そのため、著作物を掲載できる媒体の範囲を拡大することを要望します。


そして、文化庁で議論がなされた結果、2017年2月に文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会が発表した「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会 中間まとめ」においては、以下のような法改正の方向性が示されています(同資料125p以下)。
 

まず、「小冊子」以外の電子機器(タブレット端末など)に著作物を掲載することについては、

(2)展示作品に係る情報を観覧者に提供するための著作物の利用について

 ヒアリングにおいて,美術館や博物館等のアーカイブ機関から,展示作品の情報提供の ために著作物等を利用する場合の権利処理コストを低減する制度改正を求める意見が挙がった。
 第一に,美術の著作物又は写真の著作物を原作品により展示する者が,観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介を目的として小冊子に掲載することを認めている法第47条の規定の適用範囲を,小冊子に加えて電子機器にも拡大することについて検討が行われた。
(中略)
 以上を踏まえ,美術の著作物又は写真の著作物の原作品を適法に展示する者は,観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする場合には,必要と認められる限度において,当該著作物等を複製し,上映し,又は自動公衆送信を行うことができることとすることが望ましいと考えられる。(後略)

次に、サムネイル画像の表示については、

(3)展示作品に係る情報をインターネット上で提供するための著作物の利用について
(中略)
第二に,展示作品を来館者に解説・紹介をするのみではなく, 展示作品に関する情報を広く一般公衆に提供することを目的として,当該作品に係る著作物のサムネイル画像(作品の小さな画像)をインターネット等で公開することを可能とすべきであるとの意見が寄せられた。
(中略)
以上を踏まえると,美術の著作物又は写真の著作物の原作品を適法に展示する者は,これらの著作物に係る情報を提供することを目的とする場合には,必要と認められる限度に おいて,当該著作物等を複製し,又は公衆送信を行うことができることとすることが望ましい。適用主体については,作品を展示する者だけではなく,これに準じて,展示者の情報を集約して公衆に提供する一定の公的なアーカイブ機関を含めることも考えられる。(後略)

このように、タブレットなどの電子端末への掲載も、ウェブサイト上のサムネイル掲載についても、権利制限規定の対象とする(つまり著作権者からの許諾を不要とする)方向で改正が検討されていることがわかります。

なお、平成29年度の、著作権分科会法制・基本問題小委員会の直近の議事録や資料も確認しましたが、本コラム執筆時点では、まだ上記の点から進んでの議論は見られないようです。今後の動向も注視する必要があります。

 

ヨハン・ゾファニー「ウフィツィ美術館のトリブーナ」(1772-77年)

 

これからの美術館の展示はどうなるのか?


以上に見てきたように、著作権法は、今でもまだ電子端末やサムネイル画像の議論をしている状態ですが(そして、いつ・どのように解決するのかもまだ見えない状況ですが)、最近の美術館の展覧会を見ていると、スマホの普及に応じて、展示のあり方も変化していることがわかります。

 

例えば、来場者がスマホで自由に撮影でき、InstagramやTwitterなどへのアップロードも可能なスペースも見かけるようになりました。

今年の春に開催された、国立新美術館の「草間彌生 わが永遠の魂」展では、大展示室でスマホ撮影が許可されていました

「このアート、♯拡散希望」撮影OK、SNS活用広がる
(日本経済新聞2017年4月24日付)

たしかに草間彌生さんの作品は、相当に"インスタ映え"するものがあります。

また、ちょうどこのコラムを書いている最中に、群馬県の美術館でも展覧会場の撮影を認める動きが広がっているとの記事に接しました。

「撮影OK」美術館が増加 SNS共有で集客狙う
(上毛新聞2017年8月15日付

さらに、サントリー美術館で8月末まで開催中の、「おもしろ美術ワンダーランド」展でもSNS投稿が促されています。展覧会の写真を撮って、指定のハッシュタグをつけてSNSに投稿すれば、プレゼントがもらえる仕組みです。
 

変わり種でおもしろいのは、国立西洋美術展で9月まで開催されている「アルチンボルド展」
アルチンボルドといえば、野菜や果物、花を寄せ集めた肖像画のスタイルで知られていますが、会場ではなんと、自分の顔をアルチンボルド風に描いてもらえる「アルチンボルドメーカー」を設置して、SNSでの拡散を促しています。

ジュゼッペ・アルチンボルド「春」(1563年)

 

美術館もひとつの「場所」ですので、このような体験・体感型の展覧会は今後も増えていくものと思われます。

そこでひるがえってみると、美術館という場所は、そもそも何のために設けられたのでしょうか?

美術館という「場所」が生まれた経緯は、一説によると、フランス革命を経たパリで、王室の美術コレクションを一般にも公開するためと言われています(これが現在のルーヴル美術館の原型です)。
 

ユベール・ロベール「ルーヴル美術館グランド・ギャラリーの改造計画」(1796年)

 

そこから数百年を経た今、美術館という場所の意義は、どのように変わったのか?

もちろん今でも、美術の原作品を収蔵する「場所」は必要ですし、美術の原作品を生で観ることの価値は変わりません。

もっとも、スマートフォンなどの普及にあわせて、美術館に行けなかった人や、展覧会のことを知らなかった人にも美術の価値を伝えられるような、新しい展示のスタイルが、各美術館において様々に広がっていくはずです。

そしてそこでは、新しい展示の実現にむけて著作権法が足かせにならないよう、現場の実務担当者において、専門的知識を踏まえた上での権利処理が不可欠になるものと思われます。

弁護士 数藤 雅彦

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