03-6550-9202 (受付時間 平日10:00〜17:00)

お問い合わせ

おもちゃ映画ミュージアムでの著作権の講演

 

こんにちは。

先日、著作権の講演の仕事で、京都にある「おもちゃ映画ミュージアム」に足を運んできました。
私(数藤)はもともと映画好きで、美術館好きですので、このような企画は大歓迎です。

おもちゃ映画ミュージアムの名前は、周囲の映画ファンからよく耳にしていましたが、実際に訪問するのは今回が初めて。

京都のJR二条駅で降りて、夏の日差しの下をしばらく歩くと、長屋を改造した、京都らしい雰囲気の建物が見えてきます。

この粋な施設が、おもちゃ映画ミュージアムです。

 

おもちゃ映画ミュージアムとは?


さっそく中に入ると、珍しい機材がズラリ。
映写機、撮影機、幻灯機などが並んでいます。幻灯機とはいったい・・??

説明が遅れましたが、おもちゃ映画ミュージアムは、「映画前史と玩具映写機」をテーマにした博物館です。

一般に「映画」の誕生は、1895年の12月、フランスのリュミエール兄弟が、シネマトグラフという映写機(と撮影機と焼付機を兼ねたような機材)を発表した日だとされています。

しかし、それ以前にもエジソンらの発明によって、写真の光学玩具、アニメーションの機材、さらに投射機であるマジック・ランタン(幻灯機)などの機材が発達していました。

おもちゃ映画ミュージアムでは、これらの機材を「映画前史」と位置づけ、数多くの機材を収集・展示しています。

また、日本でも1920年代から、安価な国産の映写機・写真機が普及し、上映を終えたフィルムが家庭用に短く切り売りされたこともありました。

おもちゃ映画ミュージアムでは、このような20秒から3分程度の短い映像を「おもちゃ映画」と呼び、鑑賞と保存活動を行っています。

パンフレットから、大事な呼びかけを引用しましょう。

お願いです。お手元に8mmやパテ・ベビーなど小型映画や映画のフィルムをお持ちでしたら、ぜひご連絡ください。その映像を先ず鑑賞しましょう。ここでは全て見ることができます。そして、それらはDVDにも変換できます。でも、フィルムから酸っぱいにおいがしていたら劣化が始まっています。手遅れになる前に救出しましょう。フィルム発見は欠落した日本映画史を埋める役に立ちます!

「ここでは全て見ることができます。」という一文がとても頼もしいですね。

館主は、大阪芸術大学教授の太田米男氏。2015年の開館以来、奥様と共に熱心な活動を続けられています。

 

著作権の講演


さて、つい珍しい機材に目を奪われてしまいますが、今日の目的は、著作権の講演です。

早速打ち合わせに移ったのですが、館主の太田氏や、映写技師の方との間で映画の保存談義が大いに盛り上がり、打ち合わせのはずが、

・ノルウェーで冷凍状態のフィルムが発掘されたそうだが、解凍して観ることができるのか?
・PET素材のフィルムは、500年の保存が可能とされるが、表面に塗る乳剤との相性は大丈夫なのか?
・1950年代の35mmの撮影機は、つい最近までも現役で使われていたが、これは撮影方法や撮影機材が当時すでに確立されていたから。当館内の撮影機もまだまだ使える。

といった興味深いお話の数々を伺うことができました。

 

打ち合わせを経て、いよいよ研究発表「映画の著作権を考える」に移ります。

まずは、大阪新美術館建設準備室の松山ひとみ氏(前・国立近代美術館フィルムセンター研究員)による講演。

松山氏は、フィルムセンター在籍時に、ウェブサイト「日本アニメーション映画クラシックス」の開設を担当された経験をもとに、

・戦前の日本のアニメーション作品として知られる408本中、約70%をフィルムセンターが保管していること
・海外の視聴覚アーカイブにおける収集・公開活動の紹介(ヨーロピアーナのアグリゲーターの1つであるEFGの他、ポーランド、デンマーク、スウェーデン、アメリカの各国ごとの特徴について)
・最近では「アニメは日本を代表する文化」と言われるが、先人である戦前のアニメーション作家たちに関する情報は、現状ほとんど整理されていないこと
・「日本アニメーション映画クラシックス」の開設にあたって、裁定制度の利用を検討した際の様々な困難(特に、権利者捜索の困難と、トーキー作品での音楽の特定の難しさ)

などのテーマについて講演されました。

特に、旧社会主義国においては、国家が映像などの著作権を管理しており、そのためもあってアーカイブ化が進んでいる点については、比較法的観点からも大変興味深く拝聴しました。

続いて、私(数藤)の講演です。
私のパートでは、著作権の基本や、映画に関する著作権法の解説から始めて、これからの法制度の改正動向までお話させていただきました。具体的には、

・そもそも著作権とは何か? 著作権があれば何ができるか?
・混同されがちな「所有権」と「著作権」と「肖像権」の違い
・「著作者」と「著作権者」の違い、そして「著作権」と「著作者人格権」の違い
・映画の著作物において、「著作者」と「著作権者」は誰なのか?
・映画の公開に関する著作権の処理方法
・映画のパブリック・ドメインの判断方法と注意点
・孤児著作物と、裁定制度の利用方法
・映画を非営利目的で上映するための要件
・今後の法改正の動向(裁定制度の改正? 拡大集中許諾制度の導入可能性?)
・デジタルアーカイブ学会の活動の紹介
・海外のフィルムアーカイブにおける権利処理と日本への示唆

などのテーマについて解説しました。

 

上映後の質疑では、会場の方から熱心な質問が続出。

例えば、クラウドファンディングで映画を製作した場合の著作権の帰属や、美術の著作物の原作品の展示の可否、戦後に在日米軍が撮影した写真の著作権、戦時中に日本軍の名義で発表されたポスターの著作権、法的根拠が不明な「権利」主張への対応など、的を射た質問の数々を頂きました。

そして、熱のこもった質問を頂きながら感じたのは、「今回出席された方以外にも、関西で同じようなお悩みをお持ちの方は多いのだろう」ということ。

私(数藤)は大阪出身で、関西には縁がありますので、また関西方面で講演や研修などのご要望がございましたら、お問い合わせページからお気軽にご連絡ください(もちろん、関西以外からのお声がけも歓迎です)。

 

映画フィルムの収集と保存のこれから


そして、講演のあとには映画の上映もあり、終了後の懇親会では、スイカを片手に、映画談義にも花が咲きました。

建物の外では、突然の雨と雷。夏の京都の天気ですね。

会場には関西の名画座のフライヤーもあったので拝見しましたが、神戸の新長田にある「神戸映画資料館」のアレクサンダー・クルーゲ監督特集や、大阪の九条にある「シネ・ヌーヴォ」での「牯嶺街少年殺人事件」4Kレストア・デジタルリマスター版など気になる上映が多いですね(「牯嶺街」は、東京での上映は見逃しました)。時間をつくって観に行ければと思います。

【2017/8/14追記】神戸映画資料館のアレクサンダー・クルーゲ監督特集の感想コラムを記しました。
 

また、関東の上映では、「ラピュタ阿佐ヶ谷」の轟夕起子特集が話題に。とりわけ、山本弘之監督の「第五列の恐怖」は、めったに上映されない超レアな作品ということで、こちらも気になるところです(上映期間は2017/8/27〜8/29)。

というわけで、夏の京都に、映画を愛する方々が集まって、楽しいひと時を過ごすことができました。

おもちゃ映画ミュージアムは、映画が好きな方にも、映画前史の写真などの機材に関心がある方にもおすすめできる、とてもユニークで、貴重な施設です。

思えば、いま、名画座やDVDで昔の名作映画を簡単に観ることができるのは、フィルムの収集や保存、修復といった地道な活動に取り組まれている方がいるからです。

映画ファンのみなさんには、自分の観ている映画の成り立ちにも思いを馳せていただきたく、ぜひ一度、おもちゃ映画ミュージアムに足を運ばれることをおすすめします。

弁護士 数藤 雅彦

【関連コラム】

弁護士が撮った映画を弁護士が観る - 神戸映画資料館のクルーゲ特集にて

ロンドンのフィルム・アーカイブとEU孤児著作物指令

フィルムセンターとフィルム・アーカイブ事業の過去と未来

映画は暗闇の中から生まれる:書評『映画という《物体X》』

美術館と著作権 - タブレット、サムネイルの利用とこれからの展示