【ご相談】
今の会社では、連日のように残業をしているにもかかわらず、残業代が一切支払われていません。
近く退職する予定であり、退職後に、これまでの未払い残業代を請求することを検討しています。
残業代を請求するためには、事前にどのような証拠を集めておくとよいでしょうか?
【回答】
タイムカードや労働時間管理ソフトのデータなど客観的な証拠があればベストですが、それらがない場合でも、とにかく時間外労働の事実に関係する証拠を根気よく集めてみることが大切です。
残業代請求に必要な証拠とは?
最近、いわゆる働き方改革の影響もあってか、残業代に関するご相談を戴くことが増えています。
残業代を請求するためには、労働者の側で実際に働いた時間(これを「実労働時間」といいます)を立証する必要があります。実労働時間から就業規則上の所定労働時間を差し引くことで、残業した時間が算出できるからです。
それでは、実労働時間を立証するために、具体的にはどのような証拠を集めておくと良いのでしょうか?
以下、過去の裁判例を参考に、残業代請求に必要な証拠について、簡単に解説をしたいと思います。
❍タイムカード
まず、タイムカードがあれば、特段の事情がない限り、タイムカードに記載された時刻をもって出勤・退勤の時刻と推認することができ(大阪地裁平成11年5月31日判決)、非常に有力な証拠となります。
勤務先がタイムカードで労働時間を管理している場合には、まずタイムカードを証拠化することを考えましょう。
❍労働時間管理ソフトのデータ
最近では、タイムカードではなくパソコンソフトを用いて労働時間の管理を行っている企業も増えています。この場合、労働時間管理ソフトのデータも有力な証拠となります。
証拠として確保する観点からは、データをプリントアウトしたり記録媒体に保存するのが理想ではありますが、それが難しい場合には、画面のスクリーンショットを保存する、あるいはパソコンの画面を写真撮影をするなどの方法も考えられます。
❍入退館記録
職場が複数の企業が入居するオフィスビルなどの場合、セキュリテイ管理の一環として、エントランスや区画ごとに入退館(入退室)を記録している場合があります。
この場合、入退館時刻が明らかとなる記録があれば、その記録は実労働時間の証拠となり得ます。
なお、記録された時刻が残業代請求を行う労働者の入退館時刻であることの立証が別途必要となることから、この点に関する証拠も併せて集めておくようにしてください。
❍業務日報
業務日報の作成を命じられており、日報に労働時間の記載がある場合、当該業務日報も実労働時間を立証する証拠となり得ます。
実際の訴訟においては、使用者側から「これは労働者が勝手に記載した時刻で事実に反する」などと反論をされることが良くありますので、その場合には、日報に記載した時刻に対し、監督者が異議を述べていないこと、あるいは記載した時刻と整合する他の客観的資料を基に反論をしていくことになります。
❍シフト表
店舗営業など勤務形態がシフト制の場合、始業時間と終業時間とがわかるシフト表を入手できれば、実労働時間の立証に役立ちます。
なお、シフトで指定された労働時間に加えて残業をしている場合には、別途、シフト外で労働したことの立証が必要となる点に注意が必要です。
❍パソコンのログイン・ログアウト時間
パソコンを使っている労働者の場合は、パソコンのログイン・ログオフ時刻によって、実労働時間が立証できる場合があります。
もっとも、当該パソコンがノートパソコンで自宅に持ち帰ることができる場合には、パソコンを起動している事実から就労の事実を直ちには立証できないため、別途、パソコン起動中に労働をしていたことを他の資料(たとえば、作成していたWordファイル等のプロパティ情報等)から立証する必要がある点に注意が必要です。
なお、パソコンの起動時間から始業時刻と終業時刻とを推認した裁判例として東京地裁平成18年11月10日判決(PE&HR事件)があります。
❍電子メールの送信時刻
次に、電子メールの送信時刻も実労働時間の立証に活用できる場合があります。
もっとも、上記パソコンのログイン・ログアウトの場合と同様、職場外からも送信できる場合には、送信時刻のみでは実労働時間の立証資料とはならず、別途、職場内から送信した事実やメール送信まで就労していた事実の立証が必要となり、電子メールの送信記録単体では実労働時間の立証に繋がらないこともある点に注意が必要です。
日記やメモは有力な証拠足り得るか?
ところで、インターネット上では、「日記やメモがあれば良い」などという専門家の見解も散見されます。
しかしながら、これまでの実務経験に照らすと、業務日報は別として、私的な日記やメモ等については、「その信用性は低く評価されることが多い」と言わざるを得ません。
この点は、裁判官の講演等でも指摘されているところであり、残業代請求の準備をする際には、可能な限り、前述したタイムカード等の客観的な証拠の収集に努めることが大切です。
その一方で、労務管理が杜撰な会社であればあるほど、タイムカード等の客観的な記録がない場合が多いのもまた事実です。そのような場合には、色々な証拠の「合わせ技」で実労働時間の立証を試みることになることから、残業に関係する証拠を幅広く集めることが大切です。
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当事務所では、夜間の法律相談を実施しております(事前予約制です)。
これまでにも残業代の請求や不当解雇など雇用関係に関する相談・ご依頼を数多く戴いております。
特に残業代請求に関しては、事前(退職前)の準備、証拠集めが何よりも大切です。
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