【2016/7/24追記】 法務省ウェブサイトにて、株主リストの具体例や、代用書類の扱いが明記されましたので、情報を追加しました。
【2017/1/30追記】法務省ウェブサイトにて、株主リストに関するよくあるご質問が公表されましたので、情報を追記しました。
こんにちは。
今日のコラムは、とくに中小企業の経営者のみなさんに目を通していただきたい内容です。
法改正によって、今年(2016年)の10月1日から、株式会社の登記の際に、いわゆる「株主リスト」を提出しなければいけない場合がでてきました。
これは多くの中小企業にとって重要なニュースですので、詳しくお伝えします。
■株主リストとは?
まず、株主リストとは何でしょうか。
ざっくり言いますと、登記する内容によっては、あなたの会社のいわゆる"大株主の方々"の名前や住所、持株数などを書いたリスト(証明書)を、登記所に提出することになります。
かんたんに整理してみましょう。
今年4月に、商業登記規則の第61条が改正されて、次の条件が加わりました。
・2016年10月1日以降に、
・あなたの会社で株主総会の決議を要する登記申請をする場合には、
いわゆる株主リストを添付する必要があります。
この株主リストとは、以下の事項を証するための書面のことをいいます。
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・議決権総数の3分の2に達するまでの人数の株主の(もしそれが11人以上であれば上位10名の株主の)、
・氏名または名称、
・住所、
・株主ごとの株式の数と議決権の数、
・株主ごとの議決権割合
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(*なお、条文では全株主の同意を要する場合や、種類株主総会の決議を要する場合についても定めがありますが、本コラムでは省略します)
この添付書面が、一般には「株主リスト」と呼ばれているのです。(商業登記規則で「株主リスト」という単語が使われているわけではなく、あくまで通称です。)
あなたの会社の登記担当の方や、司法書士の方々には非常にインパクトの大きな改正だと思います。なぜこんなことになったのか・・・は後でご説明するとして、ご参考までに、改正された条文も引用しておきましょう。
商業登記規則 第61条3項(改正後)
登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の総株主)の議決権(当該決議(会社法第319条第1項(同法第325条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があつたものとみなされる場合を含む。)において行使することができるものに限る。以下この項において同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であつて、次に掲げる人数のうちいずれか少ない人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面を添付しなければならない。
一 十名
二 その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が三分の二に達するまでの人数
■リストに株主を何人載せればいいのか?
さて、先ほど挙げた条件のなかに、少し複雑な点がありました。それは、
「議決権総数の3分の2に達するまでの人数の株主の(もしそれが11人以上であれば上位10名の株主の)」
と書いた部分です。
はたして、株主リストには、あなたの会社の株主を"何人まで"載せればいいのでしょうか。具体例で考えてみましょう。
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【例】
たとえば、あなたの会社が普通株式100株を発行しているとします。
株主は7人いて、大株主の中元さんが30株、水野さんが25株、菊地さんが25株を保有。
あと4人で、それぞれ5株ずつを持っているとしましょう。
そして、あなたの会社で、新たに取締役を1人増やすために、株主総会決議を完了したとしましょう(この株主総会では、100株すべての議決権が有効だったとします)。
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株主総会が無事終わり、結果を登記にも反映させるため、2016年10月以降に登記申請をしたとしましょう。
その場合には、株主リストには誰の名前を記載すればよいのか?
計算してみると、最初の3人で合計80株となり、議決権の3分の2を超えますね(上位2人だけでは合計55株なので、3分の2に達しません)。
そのため、この場合は上位3人(中元さん、水野さん、菊地さん)の情報を「株主リスト」に記載することになるのです。
■株主リストの雛形はどのような書類になるか?
先ほどの例の場合、株主リストは、おそらく下記のような書類になると思われます
(*これはあくまで、現時点で改正条文をもとにした予想ドラフトです。法務省が今後、雛形をアップする予定ですので、そちらを必ずご確認ください。)
→【2016/7/24追記】法務省ウェブサイト(平成28年7月21日付記載)にて、証明書(株主リスト)の記載例がアップされました。詳しくはリンク先をご確認ください。
■株主リストに関するQ&A
というわけで、改正の内容を一通り整理してみました。
ただ、読者のみなさんは、ここまで読んでいろいろな疑問が浮かんだかと思います。
ありそうな質問をQ&Aの形で以下にメモしておきますので、参考にしてください。
(*なお、以下のQ&Aは、2016年4月に出された、パブリックコメントに対する法務省の回答をベースに作りました。パブコメ回答の番号を「回答No.○○」と表記しています。なお、後日に法務省サイドの見解が変わる可能性もありますので、最新の情報をチェックするようにしてください。)
Q1:
株主リストには、掲載した各株主の押印も必要なんですか?
A1:
そこまでは不要です。会社代表印(届出印)の押印だけで足りると思われます(回答No.26参照)。
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Q2:
株主の中には、最新の住所までわからない人もいます。株主から毎回住民票をとったりして最新の住所地を調べなければいけないんですか? 条文をみたら「住所…を証する書面」の添付を求めているようですが、「証する書面」としてどの程度のものが必要なんでしょうか?
A2:
あくまでも、会社が把握している株主の住所をそのまま記載すれば足りるようです(回答No.44参照)。
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Q3:
株主はときどき変わるのですが、株主リストに載せるのは、いつの時点の株主なんですか?
A3:
登記申請の対象となる決議がされた株主総会において、議決権を行使することができる株主が対象となります。基準日を定めている場合は、基準日における株主となります(回答No.37参照)
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Q4:
ずっと以前に株主総会決議をしたまま、登記をするのを忘れていた場合でも、2016年10月以降に登記する場合には株主リストが必要なんですか?
A4:
必要になると思われます(附則2条)。昔の株主の住所がわからない場合には、会社が把握している住所を記載して出すことになりそうです。
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Q5:
わざわざ株主リストを作るのは面倒です。他の書類で代用できないんですか?
A5:
いまのところ、他の書類での代用は予定されていないようです。今後、法務省のウェブサイトなどにアップされる予定の雛形などをチェックして、株主リストを作る必要があります。
ただ、パブリックコメントを見ると、「有価証券報告書」の提出や、確定申告の際に税務署に提出する「同族会社等の判定に関する明細書」の提出でもよいのではという質問があり、法務省サイドもそれらの書類をふまえた記載例を検討しているようです(回答No.37、回答No.41参照)
→【2016/7/24追記】法務省ウェブサイト(平成28年7月21日付記載)によると、一定の場合には、「同族会社等の判定に関する明細書」、「有価証券報告書」で代用可能です。どのような場合に代用できるか、詳しくはリンク先をご確認ください。
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Q6:
そもそも論として、なぜ株主リストを提出しなければいけないんですか?
A6:
法務省は、改正の理由を次のように説明しています。
長くなりますが引用しましょう(「商業登記規則等の一部を改正する省令案の概要」より)。
「近時、株主総会議事録等を偽造して役員になりすまして役員の変更登記又は本人の承諾のない取締役の就任の登記申請を行った上で会社の財産を処分するなど、商業・法人登記を悪用した犯罪や違法行為が後を立たず、消費者保護又は犯罪抑止の観点から商業登記の真実性の担保を強化する措置をとるべきであるとの意見、要望が関係方面から寄せられている状況にあり、更なる商業登記の真実性の担保を図る必要がある。また、国際的にも、登記所において法人の所有者情報を把握して、法人の透明性を確保することにより、法人格の悪用を防止すべきであるとの要請がされている。
株式会社の主要株主等の情報を商業登記所に提出することは、不実の株主総会議事録が作成されるなどして真実でない登記がされるのを防止することができ、登記の真実性の確保につながるとともに、法人の透明性が確保でき、関係者が事後的に株主総会決議の効力を訴訟等で争う場合等においても有益となる。」(傍線:筆者)
つまり、登記の真実性や、法人の透明性を確保する必要があると説明されてますね。
とはいえ、疑問をお持ちの方もいると思います。たとえば、
・登記所の登記手続において、株主リストの記載内容が正確かどうかは事前チェックされない以上、結局悪用する人は、株主リストも偽造して、会社財産を処分できてしまうのではないか・・?
・また、そもそも登記申請の書類を偽造できるということは、つまり届出印を偽造できている可能性があるので、株主リストも同じ要領で偽造できるのではないか・・?
・だとすると、真面目な会社の負担ばかりが上がるのではないか・・。
というわけで、この改正の真の狙いは、むしろ会社の株主を把握することにあり、会社が租税回避に使われることや、資金洗浄、テロ資金供与などの防止が目的では?と推測する声もあります。
いずれにしても、今年10月のスタートまであと4ヶ月強。あなたの会社の株主情報も今から整理したうえで、事前準備としてまずは株主名簿をきちんと整えておくのがよさそうです。ご不明点があれば何なりとご相談ください。
【法務省】:株主リストに関するよくあるご質問(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00103.html)