今日は、著作権法の新しいニュースをお届けします。
著作権法の裁定制度がより使いやすい内容に
2016年2月15日、文化庁は、著作物の権利者がわからない場合などに用いられる「裁定」制度について、要件を一部緩和したことを発表しました。
文化庁ホームページ:著作権者不明等の場合の裁定制度の改善
裁定制度とは?
「裁定」とは耳慣れない単語ですが、そもそも裁定制度とはどのような制度でしょうか。
たとえば、
「他人の著作物を利用したいけれど、そもそも誰が権利者なのかわからない・・」
「権利者がどこにいるのかわからない・・」
そんな場合でも著作物を利用できるように、法は「裁定」という仕組みを用意しています。
著作物を使いたい人が、権利者と連絡をとるための相当な努力を払っても連絡することができないような場合には、文化庁長官から「裁定」を受けて、一定の「補償金」を支払えば、その著作物を利用できるようになります。
これまでの裁定制度の問題点
ところが、これまでの裁定制度においては、「裁定」をもらうための条件はかなりハードでした。
たんにネットで検索しただけでは不十分で、さらに著作権等管理事業者(音楽ならJASRACなど)へ照会したり、著作権情報センター(CRIC)へ権利者情報を求める広告を出す・・といった条件を、すべてクリアしなければなりませんでした。
条件が厳しいなので、「ちょっと著作物を使わせてほしい…」と考えるライトユーザーにはなかなか重い制度です。専門家のあいだでも「この…不明者捜索の条件は厳しすぎ、このままでは利用は進まないであろう。…より一層の簡易化・安価化を図るべきである。」(中山信弘『著作権法[第2版]』431p)などと指摘されていました。
裁定例
実際、過去に裁定がなされた例は多くはなく、平成25年で53件、平成26年で40件しかありません(どちらも申請に対する裁決数ベース)。
しかも、その内訳をみると、例えば大学入試の英語のテキストを受験参考書に使うような、"ビジネス的に割に合う"案件が多いようです。
裁定制度の要件の緩和
今回の改正では、そのハードな条件が、一部だけ緩和されました。
文化庁:著作者不明等の場合の裁定制度が使いやすくなりました(PDF、平成28年2月)
過去に裁定を受けた著作物にかぎってですが、おなじ著作物についてこれから裁定を受けたい人は、
【1】 文化庁の裁定データベースを閲覧して、
【2】 文化庁長官への照会をして、
【3】 さらに、著作権情報センター(CRIC)のウェブサイトを通じた広告(または日刊新聞紙への広告)をすれば、
裁定を受けられるとされて、ハードルが少し下がっています。
たしかに、過去に誰かが権利者を捜索して、文化庁長官から裁定を受けたような著作物については、文化庁のほうでも、すでに権利者を捜索したことを把握しているはずです。
そのようなケースで、別の人がおなじ著作物を使いたくなったときに、またはじめから権利者を捜索して…というのは時間とリソースのムダ遣い。そのような再捜索のコストを省くための改正だと思われます。
裁定制度を利用するには?
これから「裁定」の申請をしてみようとお考えの方は、まずは文化庁のデータベースを検索してみるのがよいでしょう。
「裁定」それ自体は著作権法のなかでもマイナーな分野ですが、今回のように、文化庁サイドで著作物のデータベースを整えて、使い勝手をよくする改善が行われることは望ましい方向性といえます。
孤児著作物対策やデジタルアーカイブ、オープンデータの議論がさかんになされている昨今、文化庁の動きには要注目です。