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クローン文化財と3Dデータの著作権

【2017/9/10追記】読者の方から、「3Dデータの側ではなく、3Dスキャンされた美術品の側の著作権はどうなるのか?」とのご質問をいただきましたので、追記しました(追記箇所はその旨明記しております)。
 


こんにちは。
今日は、3Dと著作権の話題です。

最近、興味深いニュースを目にしました。
"クローン文化財"の話題です。

「クローン文化財」って何だ? 触って感激「ほぼ同じ」
(朝日新聞デジタル2017年6月16日付)

私(数藤)も、クローン文化財って何だ? と思って調べてみました。

クローン文化財とは、絵画や銅像、壁画などの文化財を、クローンとして復元した作品を指します。
劣化が進行したり、失われてしまった文化財を保存する技術として注目されています。

例えば東京藝術大学は、復元のための特許技術を開発し、ブリューゲルの「バベルの塔」、ヴァン・ゴッホの自画像、法隆寺釈迦三尊像、テロリストに破壊されたバーミヤンの天井壁画などを再現しました。

復元した絵画には、触ることもできます

この9月には、復元の成果として、シルクロード特別企画展「素心伝心ークローン文化財 失われた刻の再生」にて展示がされるようです。

 

3次元で観る「絵画」


もっとも、ゴッホの絵の実物に触れることが果たして面白いのか? とお感じの方もいるかもしれません。

たしかに絵画は、2次元の平面を鑑賞するものと思われがちです。
しかし、絵の具にも"厚み"はあります。
絵によっては、立体で観ると、2次元とは違う新たな発見があります。

その意味で、私がこれまでに観た絵画で最も驚いた作品の1つは、モネの「ルーアン大聖堂」でした。


(クロード・モネ「ルーアン大聖堂:扉口とサン=ロマン塔、朝の効果(白のハーモニー)」、1893年)

モネのこの作品については多くのバージョンがありますが、私が10年以上前、たしかパリのオルセー美術館で観たバージョンには意表を突かれました。

絵を真横からみたところ、白や黄色の絵の具が何重にも塗り重ねられて、まるで山脈のような凸凹状になっていたからです。

モネら印象派は、一見するとぼんやりした画風と思われがちです。
しかし現実に、3次元で観た「ルーアン大聖堂」は、とても分厚くて即物的な"物質"だったので、意外さとともに強く印象に残っています。


思い返してみると、例えば昨年末から今年にかけて上野の森美術館で開催された「デトロイト美術館展」でも、「さわれる複製画」が展示され、話題になっていました

このように、クローン美術品は、徐々に美術館にも浸透しているようです。
私が観たモネの絵も、いつかクローンで再製されて、あの凸凹を実際にさわれる日がくるかもしれません。

 

3Dデータの著作権


ところで、クローン文化財に関連して気になるのは、3D化の際の「著作権」です。

ゴッホの作品はすでにパブリック・ドメインですが、3Dデータの側の著作権はどうなるのでしょうか? 

3Dデータの著作権については、まだ法律家の間でも十分な議論がなされていませんが、現時点での議論の一端を紹介します。


3Dと聞くと、何か普通の著作物とは違う、特殊なイメージを持たれるかもしれません。
しかし、著作権の有無は、あくまで現在の著作権法をベースに考えるものです。
3Dデータだけが特別扱いされているわけではありません。
絵画やテキスト、音楽や映画といった他の著作物と同じように、著作権法にしたがって判断することが出発点になります。

そこで著作権法をみると、そもそも著作権は、「著作物」に発生するものです。
「著作物」の定義は、著作権法第2条1項に書かれています。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。


ここでのポイントは、「創作的に」の部分です。

著作権法が保護しているのは、創作的な表現だけです。
誰が作成しても同じようになるデータには、創作性がないと考えられています(法律家の間では、「ありふれた表現」には創作性がないとか、「選択の幅が狭い表現」には創作性がないなどと言われます)。

そのため、3Dデータに関しても、たとえば美術品の形状を正確に測量して3Dデータ化するように、誰が作成しても同じような表現になる場合には、そのようなデータは創作性がないと解されます。結果として、その3Dデータは「著作物」に該当せず、著作権が発生しないものと考えられます。

 

「次世代知財システム検討委員会報告書」の議論


この点については、内閣府の知的財産戦略本部が2016年2月に発表した報告書
「次世代知財システム検討委員会報告書 ~デジタル・ネットワーク化に対応する次世代知財システム構築に向けて~」
でも詳しく議論されています。

同報告書では、3Dデータ化する対象物が、知的財産権で保護されている物か、そうでないかに場合分けした上で、以下のように論じています(長くなりますが、文意を損なわないために詳しく引用します。下線部は本コラム筆者)。

 

「次世代知財システム検討委員会報告書」32p以下

(2)論点1:知的財産権で保護されている物の3Dデータについて
(中略)
知的財産権で保護されている物が著作物の場合(例:キャラクターフィギア等) には、元となる著作物の著作権が3Dデータに及ぶ(注)と考えられる。このため、当該3Dデータの複製・頒布等についても著作権の侵害に該当することから、現行法制度のままで大きな不都合は生じないと考えられる。 

(注)立体の著作物(フィギア等)を基に3Dデータを制作する場合、3DデータからCADソフト等を介して基の著作物を再生できるのであれば、当該3Dデータは著作物の複製物に該当すると考えられる。また、平面の著作物(イラスト等)を立体化して3Dデータを制作する場合、制作された3Dデータを再生した物について基となった著作物の表現上の本質的な特徴が直接感得できる場合には、当該3Dデータは著作物の二次的著作物に該当し基となった著作物の権利が及ぶと考えられる。

(3)論点2:知的財産権で保護されていない物の3Dデータについて
知的財産権で特段保護されていない物を基に3Dデータを制作した場合や、ゼロから3Dデータを制作しそれが具現化する物について知的財産権で保護されない場合について、当該3Dデータを知財制度上どのように取り扱うべきか、という点について、以下の通り整理した。

<実物をそのまま3Dデータ化した場合>
実際にある物をスキャンして3Dデータ化する行為については、事実情報の測定であり新たな権利を認めることの必要性・意義を見出すことは困難であること、大量の情報が生成される中で、3Dデータを権利で強く守ったとしてそれにお金を払う人がどれだけいるのか、権利を与えることの実効性の問題がある、といった観点から、現時点で何らかの法的保護を行う必要はないと考えられる。

<3Dデータ化の際に工夫を加えた場合(ゼロからの3Dデータ制作を含む)>
実際にある物を単純にスキャンした3Dデータではなく、創作のために一定の加工を施した3Dデータや、ゼロから3Dデータを制作した場合については、3Dデータの制作過程において何らかの付加価値が生じていると考えられる。
このような付加価値に注目して3Dデータを知財として保護するとした場合 には、3Dデータ化の際に表現上の創作性が付加されている場合には、著作物として保護されるとの解釈による方策や、新たな権利を創設して保護する方策などが考えられる。他方で、このような付加価値に現時点で保護をかけてしまうと自由なビジネスの発展を阻害するおそれがある、利用が進んできたところで、保護と利用のバランスを検討すべきという意見が出された。 
このような状況に鑑み、3Dデータを制作する過程での付加価値に注目し知財として保護することの必要性については、技術や実用化の進展状況を踏まえつつ引き続き検討していくことが必要である。

 

このように、知的財産権で保護されていない物を3Dデータ化する場合において、3Dデータ自体は「事実情報の測定であり新たな権利を認めることの必要性・意義を見出すことは困難」であり、「現時点で何らかの法的保護を行う必要はない」と考えられています。

【2017/9/10追記】これに対して、著作権が存在する著作物(立体物)を3Dデータ化する場合には、上記の報告書でも述べられているとおり、3DデータからCADソフト等を介してもとの著作物を再生できるのであれば、当該3Dデータはもとの著作物の複製物に該当し、もとの著作物の複製権等が及びます。

 


 

クローン文化財と3Dデータの著作権の今後


このコラムの冒頭でも述べましたように、クローン文化財は注目されています。

内閣官房が2017年6月に閣議決定した、「未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革-」でも、クローン文化財の今後の検討に関する言及があります。

「未来投資戦略2017」162pより

III 地域経済好循環システムの構築 
3 .観光・スポーツ・文化芸術 
(2)新たに講ずべき具体的施策
iii)文化芸術資源を活用した経済活性化 
1 文化芸術資源の活用の更なる促進に向けた体制・制度の整備 
(中略)
・文化財の更なる公開・活用を促進するため、地方公共団体、博物館・美術館等の文化財所有者・管理者の相談への一元的な対応や情報発信を行う文化財公開・活用に係るセンター機能の整備に取り組むとともに、文化財保護制度について持続的活用の観点から見直しを進める。文化財の適切な周期での修理・整備・美装化及び防災・防犯に取り組むとともに、ユニークベニューや多言語解説等の優良事例の普及や、VR や「クローン文化財」(高精度な文化財の複製)の技術等を活用した公開を促進するための検討を行う。 

 

また、文化財保護法も改正が検討されており、2017年8月に文化庁から発表されたばかりの報告書「文化審議会文化財分科会企画調査会 中間まとめ」にも、(直接の改正事項ではありませんが、)下記の指摘があります(同報告書13頁以下)。
 

Ⅳ.その他推進すべき施策
(4)文化財の魅力の発信強化や先端技術との連携
文化財の持つ潜在的な力を一層引き出し,多くの人の参画を得ながら社会全体で文化財を支えていくためにも,文化財の魅力の発信強化が必要である。
(中略)
加えて,文化財の高精細なレプリカ等は,保存状況が良好でなく鑑賞機会の設定が困難な場合や,永続的な保存のため元あった場所からの移動が必要な場合などに活用することで,脆弱な文化財の活用を補完するものである。
これらの取組は,文化財の活用だけではなく,保存や普及啓発等にも効果があるため,本物の文化財の保存・活用と並行して,伝統的な技法・描法・材料等と最新技術等を生かし,文化財のデジタルアーカイブ,模写模造,高精細レプリカ,バーチャルリアリティ等を活用できるような取組が必要である


クローン文化財の発展・普及とともに、3Dデータの著作権が議論されることも増えてくるかと思います。

クローンや、3Dと聞くと、何やら新しい話題のようにも見えますが、リーガルイシューとしては、従来からの著作権法の解釈手法をそのまま応用できる場面も多いものと思われます【2017/9/10追記】なお文化財の場合には、3Dデータの悪用などに関するリスクと、「貴重な国民的財産」(文化財保護法4条2項)である文化財の特性をそれぞれふまえた議論も必要になるでしょう)

実務で3Dデータの著作権の問題に向き合う際には、このコラムで述べたことを思い出してみてください。

弁護士 数藤 雅彦

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