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『君の名は。』と地図の著作権


こんにちは。
今回のコラムは、映画『君の名は。』と著作権の話です。

『君の名は。』のDVDが、7月に出ましたね。
私(数藤)もとても好きな映画で、すでに劇場で2回、DVDで1回観ました。

雲を突き抜けて画面を斜めに墜ちる彗星、電車で全身をねじりながら投げられた組紐、カタワレ時のオレンジとピンクが混じった空、そしてあのラスト・・・ディテールを語り始めるときりがない作品です。

個人的には、最愛の映画の1つ、トニー・スコット監督の『デジャヴ』を思い出して感じ入るものがありましたが、そんな感想はひとまず脇に置いて、今回は著作権の話です。

 

『君の名は。』と地図


私が仕事柄、この映画で注目したのは、エンドクレジットの部分です。

クレジットをよく見ると、ZENRIN(株式会社ゼンリン)と、Mapion(株式会社マピオン)が出てきます。
ゼンリンもマピオンも、言わずと知れた「地図」の会社です。
なぜ両社が『君の名は。』にクレジットされているのか?
これは、地図の著作権の権利処理と関係があるように思えます。

 

『君の名は。』には、地図が出てくるシーンが(少なくとも)3つありました(以下、必要最小限の範囲で映画の画面を引用します)。

1つ目は、主人公の女性(三葉)の体が、主人公の男性(瀧)と入れ替わり、スマホ片手に新宿付近の学校へ向かうシーン。新宿駅の周辺が地図アプリに写っています(Mapionの地図アプリの画面を思わせます)。

2つ目は、瀧が山中に向かうシーン。やはり地図アプリが出て来ます。

3つ目は、瀧が山中で地図を広げるシーン。ここでは紙の地図がメインです。


地図も、描き方次第では「著作物」となり得て、著作権が発生します。
推測ですが、『君の名は。』の製作委員会は、ゼンリン社とマピオン社の許諾を得て地図を描き、エンドクレジットに両社名を表示したものと思われます。

 

地図に著作権は発生するのか?


地図にも著作権があると聞いて、意外に思われた方もいるかもしれません。
地図は、土地や道路、建物の長さを正確に測って、縮尺表示したものです。
小説や絵画のような、一般的にイメージされる創作物とは、ずいぶんと異なっています。

しかし、著作権法の基本に立ち返ってみると、創作的な表現であれば、「著作物」になり得ます。
誰が書いても同じになるようなありふれた表現ではなく、何らかの創作性があれば「著作物」になります。

地図に著作権が認められるかという点は、裁判でも争点になっており、代表的な裁判例もこのように述べています(下線部は本コラム筆者)。

一般に、地図は、地球上の現象を所定の記号によつて、客観的に表現するものにすぎないものであつて、個性的表現の余地が少く、文字、音楽、造形美術上の著作に比して、著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例ではあるが、各種素材の取捨選択、配列及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たすものであるから、なおそこに創作性の表出があるものということができる。そして、右素材の選択、配列及び表現方法を総合したところに、地図の著作物性を認めることができる

富山地判昭和53年9月22日〔富山住宅地図事件〕より


裁判例では、例えば以下の地図で、「近藤勇胸像」や「近藤勇と理心流の碑」等を実物に近い形にしながら適宜省略し、デフォルメした形で記載した点に創作性が認められ、著作権が発生すると判断されています(この程度のデフォルメであっても、著作物性が認められる場合があると理解できます)。

東京地判平成13年1月23日〔ふぃーるどわーく多摩事件〕資料より)
 

その一方で、以下の地図では、既存の地図を基に、史跡やバス停留所の名前を記入したという以外にさしたる変容を加えていないため、創作性は認められず、著作権は発生しないと判断されています。

東京地判平成13年1月23日〔ふぃーるどわーく多摩事件〕資料より)

 

このような裁判例の判断をふまえると、『君の名は。』に出てくる地図も、ビルや道路の中から、情報を取捨選択したうえで、見やすいように線路やビルの形などをデフォルメしているため、「著作物」と認められる余地があります。
「著作物」に該当する場合は、地図著作物の著作権者から利用許諾を得る必要があります。

 

地図の利用許諾を得る方法 〜 GoogleMapの場合


では、どのように許諾を得ればよいのでしょうか?

ゼンリンの場合は、ウェブサイト内の「地図複製等利用のご案内」ページに手続が記載されています。
 

また、読者に身近な例で言いますと、最近の企業のホームページには、GoogleMapをウェブサイト内に埋め込んで、自社の位置を案内しているケースも多くみられます。
GoogleMapの埋め込みは、Googleのガイドラインでも認められている方法です。

Googleウェブサイト内「Google マップ、Google Earth、ストリートビューの使用」ページより

基本的に、Google の利用規約に従い、権利帰属が明確に表示されていれば、用途に応じて、Google マップ、Google Earth、ストリートビューの画像を自由にお使いいただけます。
(中略)
基本地図、ストリートビューのパノラマ画像、マイマップを埋め込む場合、ウェブまたはアプリケーションで該当の Google API を使用するか、動画または JPEG 画像を Google Earth プロからエクスポートしてください。必要な帰属表示が地図に取り込まれるので、その他のクレジットは必要ありません。

営利企業のウェブサイトであっても、APIを用いてGoogleMapの埋め込みを利用することができます。

GoogleMapsAPI「よくある質問」ページより

Google Maps APIs は商用ウェブサイトで使用できますか?
ユーザーが通常、無料でサイトにアクセスできる限り、Google Maps APIs を使用できます。

具体的なAPIの利用方法は、Googleウェブサイト内「地図を埋め込む、場所を共有する」ページに記載されています。
 

ちなみに、GoogleMapを映画で利用する場合に関しても、(おそらく実写を想定したものと思われますが)、条件が以下のように示されており、一定の場合にライセンスの申込みが必要となっているようです。

上記「Google マップ、Google Earth、ストリートビューの使用」ページ内「テレビ番組や映画での使用」欄より

Google マップと Google Earth の画像を映画やテレビ番組に使うためには、無料の放送用ライセンスにお申し込みいただく必要があります。権利帰属表示の文言は、平均的な閲覧者や読者が判読できる状態が維持されている限りにおいて、スタイルや場所をカスタマイズすることができます。

俳優がスマートフォンで Google マップを閲覧したり、インタビューの相手が Google のコンテンツを研究でどのように役立てているかを説明したりするなど、映画や番組の短いシーンで Google の地図ツールを使用する場合には、放送用ライセンスを取得する必要はありません。また、地図ツールの外観を一切変更しなければ、権利帰属表示の文言を画面上に別途表示する必要はありません。そのまま、地図ツールまたは地図ツールを使用している人を撮影していただけます。
 

 

GoogleMapについては、他にも様々な営利目的の利用が考えられますが、利用条件を正確に把握するためには、Googleの利用規約等を分析する必要があります。
本コラムでは上記の簡易な解説のみにとどめますが、詳細なリサーチをご希望の方は、お問い合わせページからご連絡ください。
 


終わりに〜油断できない地図の著作権


実は最近、地図の著作権はたびたびニュースになっています。

特にこの1年ほど、地方公共団体がホームページに掲載していた地図について、権利処理が適切になされていなかったというニュースが散見されました。

県公式HPの地図1500枚、許諾得ず掲載 香川県謝罪
(朝日新聞デジタル2016年11月16日付)

勝手につこたらアカン! 奈良県や県警、HPで615枚の地図を「無断使用」で削除
(産経WEST2017年1月28日付)

県HPで著作権侵害の恐れ 宮城4000枚、岩手2000枚の地図掲載(産経ニュース2017年3月31日付)


ただ、各県のホームページから事実関係を確認してみたところ、Googleの地図よりも、国土地理院の地図の出展表示等ができていなかったケースが、数としては多いようです。

国土地理院の地図については、データ利用に出展表示が必要な場合があるほか(国土地理院ウェブサイト内「地理院タイルのご利用について」参照)、一定の場合の複製には国土地理院長の事前承認が必要(測量法29条)といった規制があるため、話は単純ではありませんが、ともあれ地図の利用に関するリーガルイシューが前面化してきたとは言えそうです。

『君の名は。』の話からずいぶん遠いところに来てしまいましたが、本コラムをご覧の皆様は、一度ご自身の会社のホームページや社内の運用も見直してみてください。

弁護士 数藤 雅彦

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