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ロックンロールと、政治集会と、著作権法

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 どんな気分だい?
   — ボブ・ディラン/ライク・ア・ローリング・ストーン


アメリカの大統領選、いよいよ投票日が迫ってきました。

ヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏のテレビ討論会の様子や、スキャンダル報道などに注目が集まっていますが、そんな中でふと思い出したニュースがあります。

今年5月に、トランプ氏が、選挙集会でローリング・ストーンズの曲を流したところ、ストーンズ側が楽曲を使わないよう求めたというニュースです(参照:ロイター2016年5月6日付記事)。
 

このニュースには、日本の著作権法の観点からみても、興味深いテーマが潜んでいます。

今回のコラムでは、同じようなトラブルが日本で起こったらどうなるのか、日本の著作権法の観点からみてみたいと思います。

 

1 ストーンズがトランプ氏に噛みついた経緯


まずは経緯をおさらいしておきましょう。

言わずとしれた共和党のアメリカ大統領候補、ドナルド・トランプ氏は、選挙集会の会場で、ストーンズの「無情の世界」や「スタート・ミー・アップ」、「ブラウン・シュガー」などの楽曲を流してきました。
 

【YouTubeより:The Rolling Stones「無情の世界(You Can't Always Get What You Want)」オフィシャル・ライブ音源】


実にテンションの上がる名曲ばかりですね。というよりも、おそらくトランプ陣営、曲のエッジとテンションしか考えていないような気もします。

例えば「ブラウン・シュガー」の歌詞は、発表当時から「女性の黒人奴隷への虐待を連想させる」という批判のある曲なので、通常であれば自分のPRには使わないですよね…。

どうせならトランプ氏には、「悪魔を憐れむ歌」も流してほしかった。全国のストーンズファンの皆様は、きっと同意して下さるはずです。

なんといっても冒頭から「自己紹介させてください。私は資産家で贅沢な男です」と始まって、「私の企みに、みなさん戸惑ってますね」と続く、まるで今のトランプ氏のために作られたような曲なので。
 

【YouTubeより:The Rolling Stones「悪魔を憐れむ歌(Sympathy For The Devil)」オフィシャル・ライブ音源】


さて、つい話がそれましたが、ストーンズ側も黙ってはいません。
2016年5月4日、とうとう見かねてトランプ陣営に抗議。選挙集会で楽曲を使わないよう求めました。

ところがトランプ氏も(ある意味で)ロックな男。その翌日、ウエストバージニア州チャールストンの集会では、やはりストーンズの曲を大音量で流しています。

トランプ氏はテレビ局の取材でこう語ったそうです。「いいかい、私はいつだって、楽曲使用の権利を買ってるんだよ」と(AFP BB NEWS 2016年5月6日記事より)。
 

なるほど。権利を買うというのは、お金を払って楽曲の利用許諾を得たという意味かと思われます。いかにも、不動産事業で財をなしてきた実業家、トランプ氏らしい発言ですね。

whitehouse

 

2 政治集会で勝手に曲を流されたら、何が問題なのか


とはいえ、どこか引っかかるものがあります。
いちど楽曲の利用許諾を受けた場合、政治集会の会場でも自由に流してよいのでしょうか?

政治集会は、喫茶店のBGMでなんとなく曲を流すのとはわけが違います。

とくに、候補者を盛り上げるような場面で大々的に楽曲が使われた場合、聞いた人はこう思うことでしょう。

「ああ、この候補者はミュージシャンからも支援されているんだ」。
 

しかし、そんな使い方に問題はないのでしょうか。たしかに政治家には、政治的な意見を述べる自由がありますし、ちゃんと許諾を得たうえでミュージシャンの曲を使う自由もあります。

しかし、ミュージシャン側にも、どの候補者を応援するのか表明する自由がありますし、何より有権者やファンから誤解されたくないですよね。

それでは、政治集会で楽曲を流されるような場合に、ミュージシャン側から止める方法はあるのでしょうか。
 

前置きが長くなりましたが、アメリカの制度は馴染みがない方も多いと思いますので、もしこれが日本だったらどうなるのかという切り口で、著作権法をヒントに見てみましょう。
 

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(執筆中のBGM第1弾。名盤『レット・イット・ブリード』)
 

3 日本ではJASRACも注意喚起を


政治家が音楽を使いたいと思った場合、著作権をもっている人から許諾を得る必要があります。

もっとも、通常の政治集会は、非営利目的ですし、観衆は無料で来場できることが多いでしょうね。そのような場合には、著作権法により、演奏権の許諾なしに曲を流せる場合もあります(38条1項)。
 

以下では、許諾が必要という前提で話を進めますが、日本では、音楽の利用許諾は主にJASRAC(日本音楽著作権協会)が担当しています。

ためしにJASRACのデータベースで、ストーンズの「無情の世界」を検索してみると・・
 

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(JASRAC作品データベース検索サービス「J-WID」の画面キャプチャ。右下に書かれた、アレサ・フランクリンや、ネヴィル・ブラザーズのヴァージョンも気になります)


これを見ると、「演奏」の欄に「J」のマークがついていますので、JASRAC管理の楽曲であることがわかります。
 

さらにJASRACには、「選挙運動における音楽利用のご注意・ご案内」というリリース(リンク先PDF)まであって、選挙運動で音楽を利用するための手続が明記されています。

このリリースは、2013年に、東京都議選の候補者が選挙カーで「あまちゃん」の曲を流したことが問題視された際に、JASRACから出された案内文ですね。(今これを書いていて自分でも驚きましたが、「あまちゃん」ってもう3年前のことなんですね…)。

というわけで、日本では、政治家が選挙活動で曲を使いたくなったら、JASRACを通じて利用許諾を得ることになります。

では、著作権(演奏権)の利用について権利者から許諾を得さえすれば、それで終了なのでしょうか?

先ほど述べました、"有権者から誤解されてしまう"という問題は、まだ解決していないですよね。

 

4 著作者人格権という切り札?

著作物をつくった人には、いわゆる「著作権」以外にも、もう1つ別の権利があります。
それが「著作者人格権」です。

今回は、これが切り札として使えるかもしれません。法律の条文を見てみましょう。
 

【著作権法第113条6項】
著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。

この条文にあるように、「著作者の名誉又は声望を害する方法」で音楽を使ったような場合には、たとえ権利者から著作権(演奏権)の許諾を得たような場合でも、それとは別に、著作者人格権の侵害になる場合があります。

その結果として、著作者(ストーンズの場合は、たいていミック・ジャガー氏とキース・リチャーズ氏)は、曲を使っている人(トランプ氏)に対して、曲を使わないように差止請求(予防請求)をしたり、損害賠償を求めたりできます。
 

それでは、政治集会で楽曲を使うような場合も、この条文にいう「著作者の名誉又は声望を害する方法」になってしまうのでしょうか。
「著作者の名誉又は声望を害する」とはどのような意味なのか?

法律の条文は抽象的に書かれているので、ためしに過去の裁判例を見て、ヒントをさぐってみましょう。

参考になりそうな事件としては、例えば「陛下プロジェクト事件」があります(東京地判平成25年7月16日、知財高判平成25年12月11日)。
 

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(執筆中のBGM第2弾。名盤『スティッキー・フィンガーズ』)

 

5 「陛下プロジェクト」事件とは?


何やらすごい名前の事件ですが、いったいどのような事件でしょうか。
概要をまとめると、以下の通りです。
 

『海猿』、『ブラックジャックによろしく』、『特攻の島』などの作品で知られる漫画家のA氏(判決文にならって氏名を伏せています)は、自ら運営するウェブサイトで、顧客からの依頼に応じて似顔絵を描くサービスを行っていました。

ある日、A氏のもとに、顧客B氏から「昭和天皇と今上天皇の似顔絵を描いてほしい」という依頼が寄せられます(!)。

A氏は似顔絵を描いて、B氏に送りました。
するとB氏は、「陛下プロジェクト」という企画を立ち上げ、Twitterに

「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。陛下の似顔絵を描いてくれるプロのクリエイターさん。お願いします。クールJAPANなう、です。」

と投稿しました。
さらにB氏は、A氏が描いた似顔絵を撮影した写真を、無断でTwitpicにアップロードした上、ツイッターに

「陛下プロジェクトエントリーナンバー1。A。海猿、ブラックジャックによろしく、特攻の島」

などと投稿して、上記Twitpicへのリンクを張りました。

これを知ったA氏が、B氏に対して訴えを提起。著作者人格権の侵害などを理由に、損害賠償などを求めたケースです。
 

結論からいうと、A氏の請求は認められました

それでは、先ほどの「名誉又は声望を害する方法」の部分については、裁判所はどのように判断したのでしょうか?
判決文の中から、このコラムに関係しそうな部分をピックアップしましょう。

東京地裁の判決は、このように述べました(太字と下線は筆者)。

陛下プロジェクト事件(東京地判平成25年7月16日)判決文より】

「上記の企画は、一般人からみた場合、被告の意図にかかわりなく、一定の政治的傾向ないし思想的立場に基づくものとの評価を受ける可能性が大きいものであり、このような企画に、プロの漫画家が、自己の筆名を明らかにして2回にわたり天皇の似顔絵を投稿することは、一般人からみて、当該漫画家が上記の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴、賛同しているとの評価を受け得る行為である。しかも,被告は,本件サイトに、原告の筆名のみならず,第二次世界大戦時の日本を舞台とする『特攻の島』という作品名も摘示して,上記画像投稿サイトへのリンク先を掲示したものである。

そうすると、本件行為1は、原告やその作品がこのような政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせるものであって、原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものとして、原告の著作者人格権を侵害するものとみなされるということができる。」

(※ 控訴審でも、この判決部分はそのまま引き継がれました)。
 

6 政治集会の場合にはどのように考えるべきか?


この、陛下プロジェクト事件の判決をふまえて、政治集会での音楽利用についてもう一度考えてみましょう。

選挙集会で、候補者の登場とともに音楽を大音量で流したような場合には、有権者は、「そのミュージシャンも候補者のことを(政治的傾向もふくめ)応援している」と考えてしまう可能性が高そうです。

すると、ミュージシャンにとっては、判決文にいうところの「(一定の)政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせる」状況になりかねません。
 

そのため、このような場合にも、著作者人格権が侵害されたとみなされそうですね。

ということは、ミュージシャンは政治家に対して、音楽を使わないよう請求したり、損害賠償を求めたりできそうです(なお、陛下プロジェクト事件で裁判所に認められた損害賠償の額は、総額で50万円でした)。
 

そういえば、先ほど紹介したJASRACのリリースも、よく読むと(著作権者ではなく)「著作者の同意」が必要だと書かれていました。

これは、著作者人格権をクリアする必要があるという意味で書かれたものと思われます。

なお、JASRACの実運用としては、選挙運動への利用の打診があったときには、利用の可否・条件について楽曲の委託者に確認したうえで、委託者が利用不可としたときは許諾を出さない運用にしているようです(前田哲男・谷口元著『音楽ビジネスの著作権(第2版)』268p参照)。
 

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(執筆中のBGM第3弾。名盤『メイン・ストリートのならず者』)

 

7 そしてこのコラムにもロックな結論を


このコラムでは、ミュージシャンはその気になれば、著作者人格権にもとづき、政治集会での楽曲利用を止めることができるのではないか?という一つの筋道を示してみました。
よかったですね。満足できました。アイ・キャン・ゲット・サティスファクション。
 

……しかし、です。

ここで終わっては、ロックではない気もします。

法律事務所のコラムでこんなことを書くのも何ですが、すこし本音をいうと、ロックンローラーにはやっぱり法律だけではなく、音楽でもガツンとやってほしいですね。

ストーンズが法律をつかって粛々と解決する姿なんて、(あくまで個人的には)あまり見たくない。

それよりも、ミック・ジャガーとキース・リチャーズには、トランプ氏への怒りにまかせて最高にブギーな新曲をひねり出してほしい。
 

ミックだって、あの最高にかっこいい「ストリート・ファイティング・マン」の中で、こんなふうに歌っていましたよね。「寝ぼけたロンドンの街には暴徒はお呼びじゃないよ。プア・ボーイにできることといえば、ロックンロールバンドで歌うことぐらいだぜ」と。
 

【YouTubeより:The Rolling Stones「Street Fighting Man」オフィシャル・ライブ音源】


まあ今のストーンズがプア・ボーイかどうかはともかく、今年73歳(!)のミックとキースには、(法律もいいですが)ステージで存分にアクトして、政治信条を誤解させるような男と闘ってほしいと思います。全国の、ストーンズファンの皆様もきっと同意して下さるはず。
 

このコラムは、日本の著作権法ならどうなるのか?という思考実験にすぎませんが、現実の世界はどこへむかうのでしょうか。ストーンズのクレームは功を奏するのか。アメリカ大統領選の行方はどうなるのか。それはTPP協定や、日本の著作権法の行方にどのような影響を与えるのでしょうか。
 

いよいよ、ダイスを転がす時がきました。

弁護士 数藤 雅彦

 

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